第4話 星空と私

 あの日から私たちは少しずつ会話を交わすようになった。彼女のことをたくさん知った。

 髪が短いのは、高校生の時からで音楽はなんでも聞く。ロックは嫌い、アイドルも苦手だそう。意外だったのはクラシックも好きだってこと。作曲家や時代背景を気にせずに聞くのが彼女のポリシーらしいけれど、歴史物が苦手だからじゃないかしら。ファッションはいつもシャツとパンツスタイルで清潔感を重視してるみたい。時々着ているTシャツも他の女の子とは違う。なんていうか、彼女はやっぱり独りだから私たちが持っている変なしがらみがないぶん洗練されているのね。きっと孤独な人は自分と見つめ合う時間が普通の人より長いのよ。

 「君は1日の中でどの時間が好き?」

ある日の講義の後すれ違いざまにそう聞かれた。私は彼女を追いかけるように講義室を出てとっさに

 「夜。夜が好き星がたくさんあって。」

 「素敵だね。夜遊びの後に見る星は汚い世界を嘲笑っているみたいで悔しいけれどきれいだよね。」

 夜遊び

 まさか彼女の口からそんな言葉が出るなんて思っていなかったから。不覚にも彼女が夜ごと乱れる姿を想像してしまい申し訳無くなった。彼女はそのままひらひらと手を振りながら男の子たちの中に消えて行った。

 そうか、男の子たちとの方が気があうのかもしれない。彼女が大きな口を開けて笑うのが一瞬だけ見えた気がした。なんだろうこの気持ちは。


 そんなことを思い出した。彼女が夜遊びか。どんな風に遊ぶのだろう。きっと、あまり知られていないとびきりお洒落な音楽に合わせてその薄い唇をグラスに滑らせて初めてあった時のような怪しい笑みを浮かべているのだろう。

 だけど私は、もう一つの彼女を想像してしまう。薄暗いクラブの片隅で顔も名前も知らない男に舌を絡ませ虚ろな目で誘い込む。口からはだらしなく露が滴り

首筋に力を入れ男の前に跪く。

 恐ろしく詳細に描かれた空想の彼女を堪能してしまわないように私はシャワーを浴びることにした。

 どうしてなの。

 窓からは星なんて見えなかった。

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