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第28話 何って聞かれても

「バルバロは、発情したら狼になる」

 ルロイの声が、変わった。シェリーは声をうわずらせ、喘いだ。

 身体に触れるルロイの腕が、こころなし熱を増したような気がする。それだけじゃない――

 全身が、ぶるぶる、震えだしそうだった。

「これがいつまで続くか、自分でもよく分からないんだ」

 首筋に、ルロイの唇が押しつけられる。

 ささやく声は甘くかすれ、わずかに揺れていて、身体中の感情という感情、快楽という快楽をざわざわ呼び起こす弦のようだった。

「言っただろ、バルバロは人間とは違うって。満月の夜に、つがいになったら……ああ、人間は結婚するって言うんだっけ。それで、その、相手が欲しくて、欲しくて、たまらなくなる。終わるまで止まらないんだ」

「ぁっ……あっ……」

「とにかく、我慢できないってことだ。ごめん。だから」

 まさぐるように絡みつく腕の力に、シェリーは息苦しくなって喘いだ。ルロイの吐息が耳元に吹きかかる。動けない。

「ルロイ……さん……痛いです……くるし……」

「だめだよな、こんなの、でも、どうしようもないんだ。無理矢理とか……俺も嫌だし……ダメだ、苦しい。シェリー、ごめん。ダメならダメって言ってくれ。そうしたら、俺も、何とかするよ。苦しいけど」

 袖を通さずに羽織っていただけの上着が、はらりと背中側にはだけて落ちる。ルロイが息を呑むのが聞こえた。眼をつぶり、耳を伏せ、唸っている。

 シェリーはかろうじてほどけた手で、ルロイの手を掴んだ。探すようにして、指をからめ、苦しげな息を繰り返すルロイと、ぎゅっと握り合わせる。

「ルロイさん、大丈夫ですか」

 ルロイがすがるように手を握り返す。熱に浮かされた子どものようなその仕草を、シェリーは声もなくただ、息を乱して受け入れる。

「シェリー、マジでだめだって。もういい。俺から離れて。このままだと止められなくなる。男のケジメが先だ……ケジメつけないと……ダメだ、マジでヤバイ」

 やわらかい肌にくちびるが触れる。耳元でささやく声がした。

「シェリー」

「は……はい……」

 こらえきれなくなったのか、ルロイが唇を舐めるのが分かった。

「頼む」

 熱いささやき。吐息が、ふきかかる。指先が、肌に触れる。

「ぁあ、何を、ですか……ひ……ぁあんっ……」

 全身が、ぶるぶる、震い上がる。背中から、腰の奥までが、ぞくぞくして、しびれが駆け回っているかのようだった。

 シェリーは、うわずった喘ぎを漏らした。耳たぶにかかるルロイの吐息が、目眩しそうなほどぞくっとする。懇願する呻きが、荒々しい呼吸の音となって、のしかかってくる。全身を包み込む。うずめつくされてゆくような重みがかかった。

「ぁっ……ぁ……!」


「何って」

 ルロイはふと、我に返ったような顔をした。

「いや、あの。この状態で何? って聞かれても……えっと」

「ぁっ、あんっ、でも……」

 ルロイのささやきが肌にかすめる。そのたびに、ちいさな声がこぼれた。

「いや、待って。それだとまるで俺が何かしてるみたいに聞こえるんだけど」

 ルロイは、冷や汗交じりにこめかみを指で掻いた。

「まだ何もしてないよ。俺、どこか触った?」

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