第4話 真っ暗闇

 ふかく生い茂った草をかき分けて進む。下生えの奥に、蔓草の垂れ下がる洞窟があった。入り口は狭いが、奥はそれなりに広い。ルロイは穴に飛び込んだ。

 羽織っていた上着を少女に巻き付けて、奥へと進む。先はどんどん狭くなる。少女はおびえた鼻声を上げた。

「ここは……」

「大丈夫だ」

 ルロイは意味の通じる言葉を少女が発したことに半ばおどろき、半ばほっとしながらすばやく答えた。

「人間は、ここまでは来ない」

「人間は、って……ことはもしかして」

「シッ」

 ルロイは少女を制した。くちびるに手を当ててみせる。

「静かにして」

 耳をぴくりと回して前方を注視する。岩を伝わる音が波紋めいた振動をひびかせる。

「くそ、あいつら追いついてきた」

「どうするの?」

「……大丈夫だ」

 ルロイは気休めに笑った。

「いくら何でも、こんな洞窟の奥にまではたぶん来ないだろ」

「でも、もし、追ってきたら」

「だから、大丈夫だってば。この洞窟はちょっとした迷路になってる。道を知らない人間には通り抜けられない」

「この中だ」

 ふいに人間の怒鳴り声が響いた。

「奥を照らせ」


「あの声……ルドベルク卿……?」

 少女が、びくりと身体をすくませる。それから、口を手で覆った。ルロイを伺い見る。

 ルロイはうろたえた。だが、余裕のないところを少女に見せることはできない。

「こっちだ」

 少女の手を引いてさらに奥へと駆け込んでゆく。

 真っ暗闇だった。夜目の利くルロイにはまだ何とかなるが、少女はまるで何も見えていないようだった。壁を手探りでまさぐりながら進む。

 ようやく、手の感覚が記憶通りのしるしを探り当てた。

「ここだ。この上に横道がある。そこに隠れるんだ。早く」

 ルロイは岩の突起に手足をかけ、器用によじ登った。横道に潜り込んでから腹這いになって少女へと手を伸ばす。

 だが、闇の中で臆したのか、少女は半泣きでかぶりを振った。

「無理です……」

「いいから、早く手を出して」

 ルロイは声を押し殺して怒鳴った。

「ここまで上がらないと奴らに見つかる」

「で、でも」

 少女は怯えた表情で四方を見渡した。洞窟の入り口側に、激しく揺れる光が見える。近づいてくる。

 少女の目が恐怖に見開かれた。ルロイは声を押し殺した。必死に手を差し伸べる。

「はやく、早く、こっちに上がるんだ」

 少女は後ずさりかけた。

「どこです。分かりません。ぜんぜん、暗くて、何にも見えません……!」


「上だ。大丈夫だよ。俺の声が聞こえるだろ」

 ルロイは、少女をまっすぐに見つめた。

「必ず、助けてやるから。だから、手をこっちへ」

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