集積する雲・・・のようなもの

人人の寝静まる深い夜は、とくに[それ]が、鮮明に見えるという。


「ひとつひとつは、小さな糸くずなのよ」


 ぼんやりとした光を放つように見える[それら]は、ゆっくりと天向かって上昇していく。


「これって、死んだヤツらの魂とか、そんなものなのか?」


 呆然とその光景を見上げていた少年が問うた。


「魂より、もっとちいさな意思・・・いえ、意思すら持たないものもあるかしら」


 少女が言うには、ひとつの[共通目標]にむかって集まっているのだという。


「共通目標?」


「いろいろよ。慈愛に向かうものもあれば、滅びをもたらすものもある。それぞれが意思を持たないマテリアルの場合は、強固な意志によって引き寄せられ、そのまま吸収されることもあるから」


 少女は淡々と話す。

 彼女にとっては、他愛のない日常の出来事のひとつに過ぎないのだろう。


「で、今のこれらって、どっちなんだ?悪いほうか??善い方か??」


 焦れた少年が、さらに問いかける。


「あなたに何処まで見えているのかは分からないけれど・・・はっきり言って、分からないわ」


「あんたも、そんなに見えていないって事か」


「違うわ」


「じゃあなんで」


「善悪の価値観は、当事者が決めることだもの」








 彼女たちにとって、死とは。


「編み上げたセーターが、徐々に傷んでほどけていくようなもの」


 なのだそうだ。


 その後で、[終わり]がくるのだという。


「糸そのものの繊維が、ほどけて散っていくのよ」



 そうして。


 今彼らが見送るような、まるで、淡雪が雲に吸い込まれていく逆回転映像のような光景が、しばしばみられるのだという。



「吸い込まれないヤツは、どうなるんだ?」


「溶けていくの」


「何処へ??」


「すべてに、よ」


「????」



 つまりは。


 次元宇宙の構成元素として[還る]ということらしかった。



※2016.8.4.付のブログ記事より再録

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「イトマキ×ツムギ」 青谷因 @chinamu-aotani

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