第6話 ノアの想い
ノアの眼下に広がる三番街。
いたる所から煙が立ち昇り、道沿いに建てられた建物は、もはや瓦礫と化している。背中から黒煙を噴出し、金属形態を器用に変形させながらR2は街を、家々を破壊していく。
すると、三番街を粗方壊し終えたR2は急にその足を止めた。そしてゆっくりと方向転換をすると、街のメインストリート側へ向き直る。排気筒から再び真っ黒な煙を吐き出すと、腕を脇に構えて急発進し、その勢いのまま大通りへと突っ込んでいった。
大きな建物が崩壊した時のような凄まじい轟音と、地鳴りがするほどの振動を身体に感じるとノアは気付いてハッとする。
まだ朝も早い時間だが、大通りには人々の往来がある。彼は慌てて階段を下りるが、またもその途中で気付いたように立ち止まった。
三番街は猫の街。人々の他に猫たちも沢山暮らしている。
「猫、たちは…………ハルっ!?」
ノアは急いで階段を駆け下りた。コンクリートと金属の残骸は通りに倒れ、まるでオブジェの様に折り重なるようにして積み重なっている。
鋭利な刃物で真っ二つにされたような建物や、ただ強暴な力により殴り倒された家々。そんな町並みを右に左に見ながら、ノアは猫たちを、ハルを探す。その表情には焦りと不安が滲み出ている。
そんな時、大通りへの抜け道から、時計屋のルードが三番街へとやってきた。ノアはぶつかりそうになったのを避けると、驚いた表情でルードに声をかける。
「ルードさん!?」
「ノア?! ……一体、どうしちまったんだ? 何なんだあの化け物みてえなロボは……」
「ルードさん、ハルが……猫たちが!」
「落ち着け、ノア。猫たちなら世話ロボットたちが今避難させてる。それよりも無事か?」
「……う、うん」
「どうした?」
ルードはノアの様子がおかしい事に気付くと、ノアの目線に合わせるように屈んで話しかけた。
ノアは両の手でズボンをギュッと掴むと、震える声でルードに事情を話す。神殿でロボットを見つけたこと。そして自分が修理して直したこと。急に様子が変わったこと――。
それを真剣な表情で聞くルードは、驚きの声を上げると共にノアへ問いただした。
「お前あの神殿に行ったのか?!」
「……うん」
「そうか……。てことは、あいつが最後に残されたっていう例のロボか……」
ルードはまるでR2の存在を知っているような口ぶりだ。ノアはそのことに驚愕すると、ルードへ訊ねる。
「ルードさんはR2を知ってるの?」
「R2? 名前までは知らねえが……って、こんなことしてる場合じゃねえ。奴を止めねえと大惨事だぞ! ノア、お前は安全なところに避難してろ、奴はギルドが何とかする」
そう言うとルードは踵を返し、未だメインストリートで暴れるR2を止めようと、1人脇道を戻っていった。
安全なところで避難……。ルードにそう言われたが、この状況を引き起こした原因は自分にある。恐怖からか、カチカチと歯が鳴る奥歯をグッと噛み締めると、ノアは機械式レッグガードを起動させ家へ向かって走り出す。
坂道を駆け、階段を数段飛ばしで上ったノアは、玄関へと走っていきドアを開けた。すると入ってすぐそこにはハンナが立っており、驚きと不安の入り混じった複雑な顔をして息子を見つめている。
そんな母を尻目に、ノアは土足のまま階段を上がり、自分の部屋へと戻る。床に放置しておいた分解式の回転のこぎりに、クローゼットにしまっていた大型の強化パーツを手早く組み込むと、腰ベルトにそれらを引っ掛けた。
そして部屋を飛び出すと、再び階段を駆け下り玄関へ。ドアを勢いよく開け放つと同時に母へと注意を促す。
「母さんはここにいて! 家から出ちゃ駄目だよ! 街へは絶対に下りないで! 僕の事は心配しなくていいから!」
「ノア!」
そう言い残すと、ノアは階段を飛び降り、中ほどにある台地に着地する。ボフッという音がするや否や坂を駆け下り、三番街の通りに出るとノアは全速で大通りを目指した。
しかし既に、メインストリートにR2の姿はなく、そこには人々が倒れ、警備ロボットの残骸や瓦礫の山となった建物が目に映る。ノアは泣きそうになるのを堪えながらも、隣の区域、四番街から轟音が聞こえたため、そちらへと急行した。
息を切らせた彼が四番街へ到着した頃、既にR2は五番街へ向けて進行している最中だった。バスが倒れ家々は火災を起こし、消火する人、倒れた人を介抱する人。様々いる中でノアは、頭から血を流して壁にもたれて座るルードを、街角の隅、防火シャッターの前で見つけた。
「ルードさん! 大丈夫?!」
「へへ、ノアか……。かっこつけて殴ってみたはいいが、返り討ちにされちまった……」
そう言って苦笑いを浮かべるルードの傍には、刃が折れて完全に壊れた回転のこぎりと銃が転がっている。
「血が――――」
「馬鹿やろう。これくらい上さんのどつきに比べれば、屁でもねえ……。それよりノア、お前避難しろって言ったのに、何やってんだ」
頭から血を流しながら冗談を言うルードは、ノアが避難していないことに呆れた表情を見せると、そっとノアの頭に手を乗せる。
「こんなに震えやがって。怖いんならさっさと避難を――――」
ノアは首を振ると、ルードの心配する声を遮るように自分の意思を伝えた。
「僕の……友達なんだ……」
「ん?」
「僕の……大切な、家族なんだ」
そう言うノアの瞳は涙で濡れている。真剣な眼差しで訴えかけるノアを、ルードは真面目な顔をして見返す。すると小さくため息を吐き、ルードはノアの頭をポンポンと優しく叩くと、髪をくしゃくしゃとかき回して言った。
「ったく、親父さんに似て頑固だな。しょうがねえ……よしっ! ノア、ガレリーんとこまで行くぞ!」
「えっ?」
「あいつなら何か、止める方法知ってるかもしれねえだろ」
ルードはシャッターに背もたれながら勢いよく立ち上がると、多少ふらつく足で歩き出す。
恐らくガレリーは七番街にいるはずだ。一から四番街までで、まだ生きている警備ロボたちも五番街へ向かっている。全地区から五番街へロボットたちが集結するのも、時間の問題だろう。そうなれば多少の時間は稼げるはずだ。
ノアとルードは、四番街に作られた緊急用の地下通路を通り、ガレリーのいる7番街へと急いだ。
地上からはまるで戦争のような音が、絶え間なく聞こえてくる。R2が建物を破壊する音、警備ロボたちが交戦する音。
その地響きは凄まじく、地下道の天井を激しく揺らした。蛍光灯は時折点滅し、天井からはコンクリートの小破片がたまに落ちてくる。
それらを避けながらも、やがて七番街出口へ到着したノアとルードは、鉄扉を押し開けて地上へ出た。
暗がりの地下通路から光の元へ飛び出すと、七番街では、異変に慌てふためく人々が避難しようと、我先にと次の地区を目指してごった返している状況だった。
ノアは人込みに揉まれながらも、人々を掻き分けながら、ガレリーのいるであろうギルド統括本部へと走る。
七番街で一際目立つ背の高い建物。鉄塔のような形をしたビルの外には、既に機工士たちが大勢詰め掛けていた。怒号や悲鳴が飛び交う中、ルードはふらつきながら人込みを分け、本部入口前に立っているガレリーの元へと歩いていく。ノアもその後ろを付いて歩いた。
群れる機工士たちを押しのけて、大衆の先頭まで来ると、その二人に気付いたガレリーが声をかける。
「ノア! ……ルード!? お前怪我してるじゃないか――」
「うるせえ! こんなもん屁みたいなもんだっつってんだろ」
「ガレリーさん……」
「どうした、ノア? 怖いか」
ノアの暗い表情を見たガレリーは、心配そうな顔をして屈むと、ノアの頭にそっと手を添えて言った。
しかしノアは、違うと言わんばかりに首を左右に振ると、「僕は……」そう言って地に視線を落としたまま、意を決してガレリーに全てを告白する。
その内容を聞いたガレリーは驚愕すると、深刻な表情をしたまま静かに頷き……そして呟くように言った。
「いつか神殿は見つけられるだろうと思っていたが……まさかこんな事になるとは。……しかし奴が、あの神殿の……」
ガレリーも知った風な口ぶりをしていることを疑問に思ったノアは、2人を交互に見ながら訊ねる。
「二人は、R2を知ってるんですか?」
するとガレリーは小さくため息をつくと、静かに語りだした。
「俺も詳しくは知らない。だが、奴がそうだとすると……早く止めなければ、間違いなく大勢の死者が出る」
「死者? ……死者って、どういうことなんですか……。R2はガーディアンじゃないんですか? ガレリーさん!」
「ノア、落ち着いて聞け。……奴はな。古代に造られた“殺戮兵器”だ」
「殺戮、兵器……? 嘘だ! R2が、そんなわけない!」
ノアはガレリーの言葉が信じられず、声を荒げてそれを否定する。ガレリーはそんな彼の肩を掴むと、諭すように話し始めた。
「お前の言うR2。あいつは、計十一体製造された古代兵器だ――」
「でも、R2しかいなかっ――」
「いいから聞け! 近代、森の中で霧に迷い込んだ機工士ギルドの者たちは、その先であの神殿を見つけた。地下には形こそ違ったが、似たような造りをしたロボットが十一体安置されていたそうだ――」
ガレリーの話を真剣な表情で聞くノア。その身体は少し震えている。そんなノアの目を見ながら、ガレリーは話を続けた。
「しかもそれらには見たこともない技術が使われていた。……俺たちが今“流体金属可変加工技術”と呼んでいる物だ。それに興味を示したギルドは、一番から十番までのロボットを街に持ち帰り、その技術を盗んだ」
ノアは驚きの表情でガレリーを見る。現在の特許技術は、ギルドによってスクラップにされた、一~十番までの古代ロボを参考にして発展したものだったのだ。
更にガレリーは話を続け、自分の知っている事実を、ノアに全て打ち明ける。
流体金属可変加工技術をロボットたちから奪った事実を記した、古代レリーフに似せて彫られた石版がギルドに保管されていること。現在開発中の永久機関も、それらのロボを模倣して作られていること。あの神殿内の時の流れが、外界のそれとは異にすること。
そして、R2だけ地下に残されていた意味。神殿内で一番大きな彫刻。そう、ノアが地下に落ちる前に見ていた、R2らしきロボを残して周りを削られたレリーフ。全てはそこにあった。
触らぬ神に祟りなし。そのレリーフに描かれていた事象に恐れをなしたギルドは、最後に残されたR2だけには手を出さなかったのだ。そのレリーフを石版に写した後、R2の部分を残し全てを削り落とすと、地下へと続く階段を、誰も立ち入れないようにとコンクリートで固めて封印した。R2が地下から出る時に破壊した、行き止まりの階段がそれだ。
街へ持ち帰り分割された石版はマキナヴァートル各地区に分けられたのだが、禁じられていたにも関わらず、ノアの父親ロンがギルドマスターだった頃、興味本位でそれらを繋げてしまう。それによりそこに描かれていた事象を知った現在のギルドは、森のある一定区域を立ち入り禁止にしたのだった。
深いため息をつくと、ノアを真っ直ぐに見つめながらガレリーは言った。
「あの遺跡のレリーフは……石版に描かれていたのは、血を流しながら地に倒れる大勢の人々……。奴は、殺戮兵器なんだよ、ノア」
ノアは黙ってガレリーを見返す。その目には涙が溢れていた。ガレリーはノアの肩からそっと手を下ろすと、ゆっくりとその場で立ち上がり、心配そうな顔をしてルードに声をかける。
「それよりルード、大丈夫か?」
「大丈夫だっつってんだろ! それよりどうする?」
「どうするって……これ以上被害を拡大させないためにも、奴を“破壊”するしかないだろう」
「おいおい、銃ものこぎりも、鎚すら効かない相手をか?」
「…………」
「なんなら、ロボットアームでも腕に着けて殴ってみるか?」
「………………」
ルードの冗談めいた話に返事はせず、ガレリーは一人、思い詰めたように考え込む。
騒然とする街の中、二人の会話から聞こえてきた“破壊”という言葉。ノアはハッとして2人を見上げると、ガレリーのつなぎを掴みながら、涙を堪えて必死に反論する。
「ま、待ってよ! R2は、僕の友達なんだ! 僕の、家族なんだよ!!」
「ノア……奴の脳内奥深くには、殺戮命令を下すマザーチップが埋め込まれているらしい。それが起動しちまったら……もう成す術はないそうだ」
「でも……R2は、僕に危害を加えなかった――」
「それもどうなるか分からん。今止めに行ったとして、無事でいられるかどうかの保証はない」
「そんな……」
ノアはガレリーのズボンを掴んでいた手を離すと、気を落としたように項垂れた。破壊しかないのだろうか……そんなことがノアの頭の中をぐるぐると駆け巡る。目を潤す水分は、もう今にも零れ落ちそうだ。
少しして、隣の地区から爆発音が聞こえると、ノアは六番街の方へと視線を向けた。その瞬間に、目に溜まっていた涙は零れ宙を舞う。
「もう時間がない! ルード、まど――」
切迫した様子でそこまで口にしたガレリーの言葉を遮るように、何かを決意したような目をすると、ノアは声を張り上げて言った。
「僕がR2を止めるから! 絶対にR2を壊さないでっ!!」
それだけ言うとノアは、腰ベルトに提げた分解式大型回転のこぎりを瞬時に組み立て両手で持つと、煙が立ち昇る六番街の方へと駆け出した。七番街からでも視認できる高層ビルが、地に飲まれるように崩落していく。
「お、おい、ノア!」
ルードの制止する声も聞かず、ノアは目に涙を溜めて六番街へと急ぐ。徐々に近づく破壊の音。これは夢だと信じたかった。でも、今ノアが感じているこの振動は、間違いなく現実。今まで見てきた壊された町並みも、立ち昇る煙と焦げ臭いにおい。全部が現実なのだ。
ノアが六番街へ到着する頃、R2は警備ロボットと交戦していた。明らかに体格差があり、出力も武器威力もまるで劣る小さなロボットを、R2はただ強暴な力で蹂躙していく。
片手を瞬時に剣に変えると、もの凄い速さでそれを振り下ろし、警備ロボットは真っ二つにされると同時に、その場で爆発した。
煙を上げる地点から、ノアはR2に視線を移す。そしてゆっくりと歩いてくるその体を見た瞬間、ノアは驚きのあまり目を瞠った。
R2のボディ表面には、いくつもの血痕が飛び散っていたのだ。よくよく見てみると、黒い手のパーツにもそれは大量に付着していた。
「R、2…………R2!!」
ノアは声を上げ、勇気を振り絞り震える足に活を入れると、恐怖心を抑えR2へと駆け寄る。
「R2、やめろ! もうやめろよ、こんなことっ!」
ノアは泣きながら、手にした回転のこぎりを構え必死に訴えかける。彼に戦う気はない。威嚇としてただ武器を構えているだけだ。R2が足を止め、自分の声に耳を傾けてくれることを信じて。
しかしそれでもR2はその歩みを止めようとしない。ノアの心からの声も、もうR2には届かないのか……。
それでもノアは一生懸命声をかけ続ける。
「R2! 止まれよっ! 止まってよ……元に戻ってよ!! このままじゃ……このままじゃ…………壊されちゃうよー!!」
絶え間なく涙を零しながら、ノアは涙声を精一杯振り絞り訴える。すると彼の隣まで来たR2は急にその体を反転させると、右手を巨大なドリル状へと変形させた。
そしてドリルを高速回転させると、R2はノアの頭上を通り越すように右手を突き出す。
ノアは見上げただけで身構えることも出来ず――――呆然とその一瞬を見つめる。
「あぶねえっ!」
「ッ!?」
声と同時にノアを抱き上げ攻撃を回避させたのはルードだった。ノアが心配で後をつけてきたのだ。その頭には止血するための応急処置としてバンダナがきつく巻かれている。
ガシャンッ、と音をたてて地に落ちる、ノアの手から離れた大型回転のこぎり。R2は踏み出した足でそれを踏み潰す。間一髪で攻撃を避け、R2と距離をとると、ルードはノアを地上へと降ろす。
「ルードさん……」
「大丈夫か? しっかし、すげえ威力だなー。あんなの喰らったら、一溜まりもねえ」
そう言ってルードは首を掻きながら、R2が突き出したドリルの先を見る。
そこは道沿いに建てられた金属製の建物で、R2が手を退けると、その分厚い壁には大穴が穿たれており、螺旋状の傷がその周りを囲うように付けられていた。
R2は新たな標的が現れたのを認識すると、ノアの隣に立つルードへと向き直る。そして赤い目を光らせると、再び音声を発した。
「任務……了解、マーザー……」
「ははっ。こりゃ駄目だわ。奴さん完全に逝っちまってる」
苦笑を浮かべながらも、どこか余裕そうに見えるルードには、なにか策でもあるのだろうか。飄々とした様子で首を振る。
そしてルードは肩を竦め呆れたような顔をすると、六番街出口に向かって大声を発した。
「お前ら、出番だぞ!」
するとルードの声を合図に六番街の方からやってきたのは、R2に似た形をした旧式の騎士甲冑ロボットだった。しかしその大きさはR2の四分の一程度。まるで巨人と子供のような対比。
それらは数十体で隊列を組み、R2の傍まで来ると剣や槍を片手に、各々武器を手に構える。
「ルードさん、これは……」
「八番街に保管してあったお古だ。ちと旧式だが、これだけ数いりゃ時間くらいは稼げるだろ」
「時間……?」
「説明してる暇はねえ。ノア、八番街に向かうぞ」
「……なんでですか」
「ガレリーが、お前に大事な話があるんだとよ……内容はそこで聞け、行くぞ!」
そう言うとルードは、先導するように六番街出口へ向かって走り出す。ノアは少し迷いはしたものの、ギルドマスターが呼んでいるために六番街へ退却する。
騎士ロボットたちと戦うR2を横目に、ノアはその隣を全力で駆け抜けた。
いつまで持つかは分からない。それほどまでに圧倒的戦力差が、この二種類のロボットの間にはある。だから立ち止まっているわけにはいかないのだ。
ノアはR2に背を向けてひた走る。後方から連鎖するような爆発音が聞こえても、ノアはそれに振り返りはしない。
逃走途中、ノアは思い悩んでいた。自分のせいで大勢の人を死なせてしまった。沢山のロボットを壊してしまった。そして自分の街を、マキナヴァートルを……瓦礫の街にしてしまった。
でも、出来ることならR2を助けたい。友達を……家族を。彼は心の中で葛藤する。
後悔の念を頭に、不安を胸に……。ノアはどうしたらいいのか、自分でも分からなくなっていた。
ジャケットの袖で涙を拭きながら、ルードの背中を追いかけるノア。
少年には重く苦しい残酷な宣告の刻が……少しずつ、少しずつ、迫ってきていることを……この時のノアは知る由もなかった――。
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