第23話『Cosplay Day-⑤-』
さあ、午後もコスプレをすることが決まったところで、
「1時も過ぎているし、そろそろ昼飯を食いたいな。どこかで食べられるところとかはあるかな? あと、この格好のままで飯を食って良いのか不安なんだけれど」
「調べたら、この近くにパブリックスペースがあって、その近くに軽食を売っている店があるらしい。雅紀と澤村光が着ている衣装は多少の汚れならついても大丈夫らしい」
てっきり、飲食は一切禁止かと思った。せいぜい、水くらいしか飲めないかと。
「そうか、それなら良かった。じゃあ、まずはパブリックスペースに行って昼食を取る場所でも確保しようぜ」
「雅紀の提案に同意。澤村光もそれでいい?」
「僕は賛成だよ。まずはゆっくりできるところを確保しよう」
「それじゃ、行くか」
俺たちは近くの案内板を頼りにパブリックスペースまで行く。
シャンサインクリエイティブが開かれる大ホールの側に、パブリックスペースが設けられている。芝生の上に木製のテーブルとベンチが幾つもある。昼過ぎであるため空いている場所もあるけれど、それでも多くの人が憩いの場として利用していた。その中には俺たちと同じようにコスプレをしながら休んでいる人もいる。
俺たちも昼食を取る場を陣取る。俺は1人でベンチに座り、テーブルを挟んで向かい側のベンチに和奏と光が隣同士に座った。
「さて、テーブルを陣取ったのはいいとして、昼飯はどうする? 俺、携帯はあるけど財布までは持ってきてないぞ。更衣室のロッカーに保管してある」
「僕も雅紀君と同じだよ。栗栖さんは持ってきているかい?」
「もちろん。ここで食事をしようと思っていた。お財布は持ってきている」
「良かった、それならすぐに食えるな」
和奏は意外と用意周到な奴みたいだ。パブリックスペースやレンタル衣装のこともちゃんと調べていたし。
「それじゃあ、僕が適当に何か買ってこようか? 何せ、僕はメイド服を着ているわけだからね。メイドらしいことをしてみたい」
「……それは名案。雅紀もそれでいい?」
「俺は構わないぞ」
俺がそう言うと、和奏はドレスのポケットから黒い革の財布を取り出して光に渡す。本当にお嬢様とメイドみたいだな。
「1人で大丈夫か?」
「大丈夫さ。それに、騎士にメイドの仕事を手伝ってもらってもね。せっかくだからメイドの雰囲気を楽しませてくれないか」
「光がそう言うなら、昼飯を頼むよ」
「かしこまりました。お嬢様に騎士様」
光は軽く頭を下げると、財布を持って大ホールの方へ歩いていった。さっきのことからもすっかりと立ち直ったようだ。
和奏と2人きりになったところで、
「今日も大丈夫そうか?」
和奏にそう訊いた。
コスプレを楽しむ傍ら、俺は死刑執行人のことについて考えていた。外に出ていれば和奏に危険が及ぶ可能性は高くなるからだ。死刑執行人は今でもどこかで和奏の命を狙っているかもしれない。
「今のところは大丈夫。手紙のようなものも来ていないし」
「そう、か。だったら良いけど」
「ずっと前から分かっていた。時々鋭い目で周りのことを見ていたことも。私のことを心配してくれていたんだって」
「ごめんな、せっかく誘ってくれたのに」
「ううん、むしろ嬉しいこと。盟約者として最大限のことをしてくれている」
「……お前がそう言ってくれると心強いよ」
俺が死刑執行人に警戒していることを和奏にばれたら、彼女は優しい心の持ち主だから罪悪感を抱いてしまうと思っていた。でも、その心配も無用だったようだ。
――プルルッ。
ん? 誰かからメールが来たみたいだ。
「ちょっとごめん。メールが来た」
「うん」
携帯電話を取り出し、差出人を確認すると、
「百花、か。どうしたんだろう?」
さっそく受信ボックスにある百花からのメールを開くと、
『今、和奏先輩と光先輩と一緒にシャンサインタウンにいるんだよね? 私も来ているんだけど、お財布をうっかり落としちゃって……。お昼ご飯が買えないの。
お兄ちゃん達はコスプレしているって聞いたから、更衣室前なら会えると思って待っているんだけどなかなか来なくて。だから、メールしてみたの。このメールを見ているなら今すぐに来てほしいな。返信してくれると安心できるかも♡』
という文章が書いてあった。どうやら、百花は緊急事態……なのかな? 最後のハートマークが何とも言えない。
「あいつ、来てたのかよ」
「どうしたの?」
「いや、百花がこの会場に来ているらしくて。でも、どこかで財布を落としたみたいで俺のことを待っているみたいだ。ほら、俺たちコスプレしているから更衣室前にいれば会えると思っているらしい」
「それは大変。すぐに百花ちゃんの所へ行ってあげて」
「でも、大丈夫なのか? 1人になるぞ」
「私は大丈夫。澤村光だってすぐに戻ってくるはず。それに、死刑執行人から何の通達もないから、襲われる恐れはない」
「和奏はそう言うけど……」
「百花ちゃんだってきっと1人で不安な気持ちを抱えている。早く百花ちゃんを安心させてあげて。それを第一にするべき」
ここまで言われてしまっては俺が何を言っても和奏の気持ちは変わらないだろうな。ここは彼女を信じることにしよう。
「……分かった。でも、ここから決して離れるんじゃないぞ。何があったら俺の携帯に連絡してくれ」
「うん、分かった。いってらっしゃい」
和奏は微笑んで、小さく手を振ったのであった。
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