第4話 アニキは怒っている

「事情はよおくわかった」とアニキが言った。

 顔は平然としていたが、目はまったく笑っていなかった。

「でもな、俺が聞きたいのは、事情じゃねえ。金が払えるのか、払えないのか。それだけだ。で、お前はそれに何て答えるんだ」

「だから、原稿用紙の続きを見つければですね……」

「原稿用紙だが、婿養子だか知らねーが、だったらとっとと持ってきやがれ。それともなにか、もう残りの紙の場所はわかってるってのか」

「それは……」

 蔵の中になかったことを考えると絶望的だろう。処分した家具の中に紛れ込んでいた可能性もある。中古品の足取りを辿るくらい絶望的な探偵仕事もないだろう。そもそも依頼する金も、それを待っている時間もないわけだが。

「よしわかった。じゃあ、こうしよう。お前が続きを書け」

「は?」

「そこに原稿とやらはあるんだろう。だったら、お前がそれっぽいのを書けばいいんだ。で、誰かに売りつけちまう。それでお前の借金はなくなるし、俺様も満足だ。こりゃ、あれじゃねーか。うぃんうぃんってやつだろう」

「そもそも買い手が現れませんよ……」

「んなこたねーよ。だいたい絵とか壺のまがいもの掴まされるやつなんてゴマンといるんだ。必要なのは、それっぽい体裁のしなもんで、それさえありゃあとは口先でなんとでもなる」

「そもそも、そのそれっぽいものが無理ですよ。詩なんて書いたことありませんし」

「ぐぐりゃいいだろう、ぐぐりゃ」

「それじゃ盗作になりますよ。立派な犯罪ですよ」

「なんだ、めんどくせーな。その辺は勝手に解決しておけよ。ともかく、お前が続きを書いて完成させる。でもってそれを売りさばく。俺に借金を返す。うん、決まりだ」

 そう言ってアニキは話を打ち切った。俺は見込みのない金策を続けるか、詩を完成させるかの二択しか残されていなかった。

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