娼館にて 三
「この犬ですか? ケツを噛んだのは?」
え? 俺は用心棒につまみ上げられていた。
なんで、なんで?
何故だかわからないが、俺は犬に戻っていた。
もしかしたら、発情したら人間になって、おさまると犬に戻るのか?
「きゃうーん、きゃうーん」
俺は尻尾を又の間に巻き込み、精一杯怯えた振りをした。実際怖かったので、この演技は簡単だった。
「ああ、そうだ。その犬だ」
「お客さん、すまねえ。こんな可愛い犬に噛まれたぐらいで気絶するなんざ、修行がたりねえな。後でよく注意しておきますんで」
「ああ、そうしてくれ。おい、これで何か飲んでくれ」
アシアンが用心棒に金を渡す。
用心棒が行ってしまうのを確認してからアシアンがひそひそと言った。
「一体、何が起きたんです」
「俺だってわからんよ。もしかしたら、あくまで推測だが、女とやりたくなったら人に戻るのかもしれん。それより、女を介抱してやれ。後はおまえが抱いていいから、俺はカスケルの元に戻るよ」
「いやしかし」
「さっきの用心棒を呼んで、俺をカスケルの席に戻してくれるよう頼んでくれ」
「待って下さい。この女の始末をしてから一緒に戻りましょう」
「始末って、まさか、殺すのか?」
「え! とんでもない。無抵抗の女を殺すなど武人の恥です。そうではなく……、えーっと、ここ、お尻の所、ちょっと噛んで下さい」
「どうするんだ?」
俺は女の尻に歯形をつけた。女が痛そうに目を覚ます。俺は大急ぎでアシアンの後ろに隠れた。
「あたし……」
「ほら、これを飲んで」
アシアンが女に酒を勧めた。ショワナが一口すする。
「一気に飲んでごらん。気分がすっきりするから」
酒を飲んだ女の目に軽い酔いが現れた。
「……思い出した。犬よ。いつのまに犬と入れ替わったのよ」
「すまなかったな。君の裸を見たらつい」
「そう、じゃあ、続きをやらない?」
「いいとも」
うわあ、どうしょう。どうすればいいんだ。俺は寝台から飛び降り、隠れる所を探した。ここの寝台は、ベッドではない。本当に床からレンガか何かを積んで台を作っているのだ。台の上に布団を敷いている。床との間に隙間はない。
部屋の隅に衝立があった。俺はその陰に飛び込んだ。前足で耳を抑える。頭の中では、因数分解の公式を繰り返した。だが、鼻を抑えるわけにいかなかった。二人の淫靡な匂いが俺を直撃する。
あー、だめって思った瞬間、俺は人に戻っていた。
発情すると人に戻ると証明されましたあーーー。
って、一人漫才やってるわけにいかない。早く犬に戻らないと。
ああ、アシアンとショワナが宜しくやっている気配がする。俺も参加したい!
それより犬だ。犬に戻らないと。
やっぱりあれだ。あれだろうなあ。
俺は観念した。
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