カーリセン 二
安倍望月(あべのもちづき)は、カーリセンと倭国の間を自由に行き来出来ないか調べて回った。
彼はカーリヤ人が信じていたまじないと宗教、自身の陰陽の術を合体させて独特の術(わざ)を生み出し、その術を使ってこちらとあちらを結ぶ場所を見つけた。さらに、その地に神殿を建てさせた。倭国から来た人々を安全に迎える為である。
しかし、神殿が出来上がる頃には、安部望月は通路を封印する術を生み出していた。彼はその術を使ってカーリセン側の出口を封印してまわった。唯一、自身が通って来た通路は帰路を確保する為、封印しなかった。
安倍望月(あべのもちづき)は実験を繰り返し、元の世界に戻る方法を模索し、ついに発見。元の世界に戻って行った。そして、戻る時、秘密のうちに通路を封鎖して行ったのである。
カーリヤ人達は通路が封鎖されたとは思っていなかった。いづれまた、誰かがやってくるだろうと思っていた。
しかし、何年待とうと倭国からは誰もやって来なかった。
人々は倭国の存在を忘れた。
やがて、カーリセンの国に内戦が起った。長く続く内戦の混乱の中で、神殿は壊され、封印は破られた。
すると、奇妙な怪物が現れ始めたのである。一匹、また、一匹と彼らはやってきた。村や街を襲い好き放題に暴れ回った。彼らはただ破壊し、ただ殺した。
その時、英雄タカテン・ジャサイダが現れ、このままでは国が滅ぶと、いがみ合っていた三つの貴族を説得して国をまとめ、皆で協力して怪物を退治した。
最初、カーリヤ人達は怪物が倭国から来た人々の変わり果てた姿だとは思っていなかった。怪物を調査していく過程でわかったのである。問題は神殿の封印にあり、封印が完全に破られたのではなく中途半端に破られていた為に人々が怪物に変身するとわかった。
カーリヤ人達は神殿を整え、昔の書物や安倍望月(あべのもちづき)が残した記録から通路を封印する術を再現、通路を総て封印したのだった。
「あの、全部封印したんですか?」
「そうです」
「でも、でも、じゃあ、私達は?」
「今回、特別に封印を解いたのです」
「わんわん(でも、変身するんだろ。きちんと開いてないんじゃないのか?」
「いいえ、通路はちゃんと開いています。問題は他にあるのではないかと思うのですが、よくわかりません」
「わんわん(怪物に変身したらどうするんだ?)」
「封印はきちんと解いていますから、怪物には変身しません。ただ、他の何かに変身するのを停められないのです」
なんとなく、嘘くさいなあ。
ドアが開いて侍女が入ってきた。
「神官長様、宴の用意ができました。皆様に寛いでいただくようにとの事でございます」
俺達は地図の部屋を出た。いつのまにか夕方になっていた。
「良ちゃん見て!」
佐百合が空を指した。
「わんわん、わおーん!!」
月だ! 三つの月だ!
我々の世界と同じ大きさの三つの細い月が夜空に浮かんでいた。
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