異世界 五
「ロバ達は言葉を無くしているので、家畜と同じ扱いになります」
神官長アルゲルが言う。ロバ達は家畜小屋で飼われるのだそうだ。
チンピラとはいえ、元は人間なんだから家畜扱いはひどいような気がする。
俺達は豪華な部屋に案内された。そこが宿舎だという。
どっかのセレブが好きそうな部屋だ。
女性の召使いが飲み物を持ってやってきた。
佐百合の前には何か飲み物が、俺の前には水の入った浅い皿が置かれる。どうやって飲むんだと思ったが、本能のままに体を動かすと、飲めた。犬っていうのは巻き舌で飲んでいるみたいだ。
「これ、美味しい」
「わんわん(何だ、何を飲んだんだ?)」
「何か果物のジュースじゃないかと思う。レモンに似てるけど、独特の香りがある」
「わんわん(あ、ほんとだ)」
俺は鼻をひくひくと動かした。どうやって出来るのか知らないが、犬ってのは自分が嗅ぎたいにおいに焦点をあてられるらしい。
そうだろうな、あの匂いの洪水にいつもいつもさらされていたら、たまらんよな。
ドアをノックする音がする。
驚いた事に俺にはドアの向うにいる人の匂いがわかった。これはさっき嗅いだばかりの神官長アルゲルの匂いじゃないだろうか?
部屋に入って来たのは、やはりアルゲルだった。
犬の鼻ってのはなかなか便利だぜ。
俺達は神官長アルゲルに地図の間といわれる部屋に連れて行かれた。
部屋に入るなり佐百合が歓声を上げる。
「わあ、凄い!」
「わんわん(佐百合、何が凄いんだ?)」
「今、見せてあげる」
俺は佐百合に抱き上げられた。部屋の真ん中にあるテーブルを見下ろす。
「わんわん(おお、これは凄い!)」
テーブルの上に大きな模型が乗っていた。このあたりの地図らしい。
「これは我が王国と周辺を表した立体地図です」
神官長アルゲルは壁にたけかけてあった長い棒を取り上げた。その棒を使って模型の一点を指した。
「我々の国は、カーリセンといいます。ここは首都アルキヤ。今いる族長の城はここです。神殿はここ。あなた方の世界、我々はあなた方の世界を倭国と呼んでいますが、倭国と我々の世界を結ぶ儀式を行いました。我々はこの国をもっと良くしたいのです。あなた方の世界が我々より進んだ世界だというのは知っています。ぜひ、力を貸して下さい」
俺達は顔を見合わせた。
「力を貸すと言っても、どうしたら?」
「まず、我々の世界を知ってほしいのです。その上で、助言をして頂きたい」
「力を貸したら、私達の世界に返してもらえなくなるのではないですか?」
「そんな事はありません。では期限を切りましょう。一年でどうです?」
「わんわん(あのさ、その前に一体、どういうからくりで俺達はこっちの世界に来たんだ? もう一つ、日本語が通じるのは何故だ? こういう異世界っていうのは、普通、言葉が通じないぜ)」
神官長アルゲルは難しい顔をした。
「それでは、まず、我が国の歴史からお話しましょう。今の問いに答えられると思います」
神官長アルゲルは、カーリセン国について説明してくれた。
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