異世界 四

 俺達は神官長アルゲルに導かれて神殿を出た。

「わんわん(ま、まぶしい)」

 外は意外にも明るかった。

 佐百合と夜の町で会っていた筈なのに、こちらでは朝みたいだ。

 時間がずれているのだろうか?

 それとも、気絶していた時間は思ったより長かったのだろうか?

 暑い。こちらは夏なのか? なんとなく風景が東南アジアっぽい。

 神殿の前に池がある。なんだろう? ピンク色の花が池の中に咲いている。蓮の花だろうか、よく似ている。

 神官長アルゲルが神殿前の階段を降りて行く。俺は降りようとして下を見た。

 うわっ、高っ。ほとんど、垂直! 頭から階段に突っ込んで行く感じだ。

 俺は馴れない四つ足で最初の一段を降りた。だけど、次の一歩をどうしたらいいかわからない。普通に手を前に出せばいいのだろうか、と思っているうちにロバにケツを押された。

「わんわん(や、やめ!)」

 あっ、落ちると思ったが、まともに走り降りていた。習うより馴れろか。だが、地上についた途端にひっくり返った。

 ロバのヒンヒンいう鳴き声が聞こえる。笑っているのだろう。こいつら、性格はチンピラの時のままだぜ。

 神殿の前には輿が用意されていた。俺は佐百合に抱き上げられて輿に乗り込んだ。

 抱き上げられるなんて。抱き上げられるなんて。俺はまた泣きたくなってきた。佐百合の指が俺の背中をゆっくり撫でて行く。無意識なんだろうが、俺の気持ちは静まっていった。

 輿のまわりに黒い紗のカーテンが降ろされた。輿が数人の男達によって持ち上げられ、ゆっくりと動き出す。輿っていうのは動きが微妙だ。俺は落ちないかと不安になった。

 神殿は高い塀で囲まれていた。石像が彫られた門を出る。俺達は神官長アルゲルの輿を先頭に神殿の前の道を粛々と進んでいった。この道は街のメインストリートかもしれない。輿の回りは兵士達で固められている。兵士達は一様に緊張した面持ちだ。なんかやばそう。

 俺は布を透かして辺りの様子を見回した。振り返ると今出て来た神殿が見えた。でか! 改めてみるとめちゃでかい。

 道の両側には家々が並ぶ。家は木で出来ているみたいだった。屋根は瓦葺きかな。軒先が長くて涼しそうだ。

 三十分ほど乗っていただろうか?石造りの大きな屋敷に着いた。立派な門がある。輿はそのまま門をくぐった。

 神官長が言っていた族長の屋敷かな?

 屋敷の前に大勢の人が待っている。族長なんだろうか、街人とも神官達とも違う、立派なみなりをした老人と若い男が真ん中にいる。輿を降りた神官長アルギルが老人に礼をした。

「族長殿、客人をお連れしました」

 黒い紗のカーテンが上げられて、俺と佐百合は石畳の上に降りた。

「おお、ご苦労であった。これはまた、なんと美しい。ワシはカーリヤ族の族長にして、カールセン国の王、プアンカ・ジャサイダじゃ。こちらはワシの息子での、ジャレス・ジャサイダ。お見知り置きを」

「初めまして、族長様。私、坂窓佐百合(さかまどさゆり)と申します。宜しくお願いします」

 佐百合が頭を下げる。

「わんわん(俺は槍鞍良(やりくらりょう)、宜しく)」

「おお、犬に変身されましたか? はは、人語が話せて何より。良殿、佐百合殿、ようこそ! これからは、ワシらが世話しようぞ。安心して寛がれよ」

 人の良いじいさんだな。俺達がどんな人間かわからないのに歓迎するなんてよ。

 ロバ達がどこかに引かれて行く。

「わんわん(あのロバ達は?)」

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