異世界 三

「わんわん(俺が着ていた服は?)」

 俺は側にいた女官に訊いた。

「こちらにありますよ」

 女官が俺の為にカゴを持ち上げて中が見えるようにしてくれた。

 俺達が元の世界から持ち込んだ衣類や携帯、その他諸々は袋に入れられ、カゴに収められていた。ロバになったチンピラの持ち物も一緒だ。

 俺はロバ達の側にいった。

「わんわん(おまえら、本当に言葉がわかんねぇのかよ)」

 ロバ達の目がとろんとしている。

「わんわん(神官長さんよ。本当にこいつら、俺達と一緒にやってきたのかよ)」

「ええ、そうですよ。彼らは完全なロバになりました」

 神官長が大きく手を広げた。こういう仕草は俺達と一緒なんだな。え? おなじ人間? 俺、今、恐ろしい事考えついた。もしかして人の皮を被った物の怪とか? いや、まさか、まさかな。取り敢えず、人間だという事にしておこう。考えても仕方がない。

 俺は目の前にいるロバをしげしげと見た。

「わんわん(こいつら、俺達の世界に戻してやってくれないか? 元の世界に戻れば、元の姿になるんだろう)」

「それは出来ません」

 神官長があっさりと断りやがる。

「わんわん(なんでだよ、なんでできねぇんだよ)」

「それは後で説明します。悪いようにはしませんから。私を信用して下さい」

 俺は信用してなかったが、従う事にした。他に選択肢がないのだし、それに周りには槍を持った武装した人々がいる。皆、一様に頭を剃っている所をみると、恐らく神官だろう。いわゆる僧兵かもしれない。あの槍で突かれたらきっと痛いだろうなあ。ここは大人しく従った方が身の為だ。

 俺はもう一度、神官長を観察してみた。

 神官長アルゲルは五十代くらいの精悍な顔つきをした男だ。青い衣を着ていて腰には細い帯を巻いている。首には金色の首飾りをしている。本物の金だろうか? もし本物なら、この世界でも金がとれて、かつ、金が富や権威の象徴という事になる。

 さっき、最高神なんとかを祀っているとか言っていたな。

 俺は改めて回りを見回して驚いた。向う側の壁に大きな顔が彫られているのだ。穏やかな顔だ。顔の周りには炎が舞っている。最高神というのは太陽を表しているのか? こっちの世界にも太陽があるんだろうな。まあ、あいつらが人間に似ているってことは、自然環境は俺達の世界とそう変わらないんじゃないだろうか?

 部屋全体は石で出来ているようだ。石を組んで神殿を作る技術は持ってるっていうわけだ。天井も高い。床には太い線が引かれている。もしかしたら、魔法陣かもしれない。小さくなった俺には、全体図は見えない。俺は思い切って、後ろ足で立ってみた。床上三十センチで見た限りでは、やはり魔法陣のようだ。太い線が円形に描かれているのがわかる。中心から何本も線が引かれている。奇妙な記号が円の上に並んでいる。

「おお、これは美しい!」

 神官長アルゲルや人々の感嘆の声が聞こえた。

 佐百合が別室から出て来た所だった。俺は佐百合に駆け寄った。

 佐百合は白い衣を着ている。袖無しのロングワンピースといったところか。金髪は三つ編みにして頭に巻き付けていた。恐らく、この髪を結うのに時間がかかったのだろう。

「わんわん(佐百合、キレイだぜ)」

「ありがとう、良ちゃん」

 佐百合がにこっと笑った。あ! 惚れそう!

 俺っていい加減だな。佐百合がブスの間は、金を運んでくるカモとしか思ってなかったのに、美人になった途端に惚れるなんてよ。

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