バブル全盛期の頃、宅建という資格を取った。

かとも

バブル全盛期の頃、宅建という資格を取った。

 バブル全盛期の頃、親の跡を継ぐと言って会社を辞めた友人が、会社を辞めたくせに、まだ親父が現役だからとアメリカへ遊学していた。


 当時、一度彼の元へ遊びに行った事があるが、カリフォルニアのナパバレーという所で、ワインのテイスティングと称して毎晩酔っ払っていたので、決して留学とは言わせない。


 ところが彼は、宅建という資格を持っていて、ちゃんと不動産屋の社員として月々に幾らかの給与を貰っていたのだった。


 当時、空前の不動産ブームの中、従業員10人に1人必要だった資格者が法改正で5人に1人と厳しくなって、この資格は引っ張りだこ、彼はいわゆる名義貸しというやつをしており、他に仕事をしてへんかったら、かまへんねん!ということだった。


 彼が言うには、4択のマークシートを塗る形式の試験なので、鉛筆でも転がして当たったら儲けモノとばかり、ろくに勉強もしない怪しいのが大量に受けに来るから合格率が低いだけ。

TVドラマの悪役の大半は『地上げ屋』という時代、かなり説得力があった。


 でまた、「この本を3回読んだら合格する!」というキャッチコピーの『これだけ!』という、これもまた怪しい参考書を薦めてくれて、でも事実3回読んだだけで通ったんや!と自慢していたので、数千円の本一冊なら駄目でも良いかと、そんなおいしい話がとても羨ましくて勉強を始めることになった。


 で、ぎりぎりの点で合格はしたものの、名義貸しは違法行為だし、そんな不純な動機だから別に不動産業者になりたいわけでもなく、また不動産が投機の対象にならないようにするための法律がバンバンできはじめて、そのうちバブルもはじけ、今はもう『地上げ屋』も死語になってしまった。



 その友人は現在親の跡を継いで、これもまた不動産業とは全く無縁の、アンコ屋を営んでいる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バブル全盛期の頃、宅建という資格を取った。 かとも @katomomomo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ