第17話 主人公様、置いて行かれる①


 ◇

 鯨波団吉と玉緒アキラは神社への階段の中腹で座り、話をしていた。

 玉緒アキラの手にある、志士徹の免許証、それを入手した経緯――


「今年の初め頃」と団吉は言った。「俺んとこにアポが来たんだ……からな。嘘だと思って百地さんに相談した」


 玉緒は「〝シャンハイ・パオペイ〟ですか」と尋ねる。

 

 頷きつつ団吉はタオルで顔を拭い、言った。

「俺だって意地がある。相手が誰でも嘗められるわけにはいかねぇ。ずいぶんまえ、二十世紀だが……蛇頭じゃとうが日本に進出する、なんて噂があった。もちろんガセだがな、組長は万が一、もしそんなときがあれば、どうするか。手を組むか、張り合うかと思案して準備をしていた。俺も下っ端ながらに事務所を任された身だ、金策やら色々して二十一世紀になり、二十年以上かけ積み上げていった。それがつい二年前に」

 そこで団吉はため息をつき、なのにあのガキどもに、と呟く。

 玉緒は少し顔を強張らせ、彼の小言を聞いた。

「裕也と徹にすべて潰され、こっちの商売は廃業寸前になった。クソが、いつか――なんて思ってる。今でも隙があれば落とし前を」


 団吉は汗を拭い、声を大きくして言った。

「あくまで俺個人のケジメの話、裕也どもに言わせりゃタイマンだ。玉緒嬢や百地さんはが違う。任侠のそれじゃねぇ、別の強さがあるから一目置いてる。俺は面子や腕っぷしだけでは生き残れねぇ人間だからよ、身の程をわきまえてる……については百地さんに相談して、策を考えてもらったんたが?」

 そう言って団吉は玉緒を見た。


 玉緒は「いつだったか」と言った。

「健さんが神社を開けて、夜遅くに帰って来たことがありました。ご本人は怪しげな店に行ったと……あの時分でしょうか」

「そりゃ下手な言い訳を」と団吉は言った。「俺は玉緒嬢になら教会の懺悔室のようにどんな悪事でも語るが……今年から百地さんは方々に掛け合って走り回っていたんだ。いつでもを狩れるようにと……さっきの先生のような、凄腕のゴロつきをな」


 玉緒は思い出す、先ほどの女――レンのことを。

 

 団吉は「とても正義なんて言えねぇがな」と続ける。

「百地さんは先生のような裏稼業の連中や、大里流の関係者も集めてよ、先月から街はさながら出島状態だ。警察はガン無視。なぜなら犯罪者は目下、一般人だけって現状だぜ? 俺が先生の立場なら稼ぎ時だと荒らし回ってトンズラするが……先生曰く〝もっと大局的に見て合理的に立ち回れよ。表を活かして甘い汁をすするのが裏仕事の醍醐味、本分。女や金銭の味を甘いと思うから、長生きできないし底辺だと蔑まれる〟……敵対してた組を先生に潰してくれと依頼して、マジで単身で乗り込み、つまらなそうに言われたよ。これにはさすがに俺も、組長までも正論だとしか返せんかった。だが俺が先生に殺しをさせたのは、それきり」

 

 そこまで言って団吉は煙草を取り出したが、玉緒が無言で手を彼の手に重ねた。

 玉緒が首を横に振る。団吉は煙草をポケットに戻して話を続けた。

「先生とは会って短いが世話になった。百地さんから住処を確保してくれと言われてな、ボロ安アパートの一部屋を貸したんだ……先生は礼として二割引きで、商売道具の調達、部下の尻拭い、組の代理抗争、幹部の保釈やらなんやらしてくれてよ……どういうパイプかは御法度で聞けねぇが、先生にとって警察なんて警備会社の延長。そもそも法律なんて通じねぇ、自分の生活、道理が全て……その点のみと同じだ。数少ない裏社会ウチらの禁則に〝外国人に頭を下げることを禁ずる〟ってある。あと〝大里の総家そうけと一切の関係を禁ずる〟ってあるが……俺に守れるはずもねぇ。あらゆる面で人間として大物ばかりだからな、すがりてぇし、たかりてぇ。そう思ってたよ」


 玉緒は唾を飲み込み、黙って聞いていた。

 団吉は両手を階段につき、体を支えるようにして言った。

「三日前、中井一麿のが脱走した。そこで俺は、のを躊躇ったわけさ」

 その声に玉緒の両手が震え、彼女は頷きながら拳を握った。

 団吉は玉緒を顔を見て言った。

の手引きだ。先生曰く〝最悪の展開、遺言を残しておきたい〟だとさ……脱走は、知らなかったかい?」

 玉緒は首を横に振る。

 団吉は頭を掻きながら「どこからどこまで喋って良いものか」と言って、しばらく黙った。


 ◇

 数分後、団吉は言った。

「決めた、タブーを承知で声に出すぜ――〝シャンハイ・パオペイ〟が百地さんの招集した人間に混ざってやがった。そいつが先生の仲間、それもかなりの数をって、組織の数名を国内に連れ込み、中井一麿の封印とやらを解いた。警察は責任を裏社会ウチらになすりつけるが、に被害がおよぶと〝皇従徒こうじゅうと〟が出張でばるかもしれねぇ」


「〝皇従徒こうじゅうと〟は」玉緒が言う。「大里流の関係者、しかもカムイ使いが殺めた場合のみその拳を振るう。命令を出せるのは」

 団吉は「それ以上、言いなさんな」と、玉緒を制して続けた。

「最悪の場合についての、勝手な見解、予想だ。まだ事件化しているのは無いぜ。被害者、加害者、全員がやましい連中。警察どもには虫けらの共食いにしか見えてねぇ。処理には苦労してるはずだが、一般人に被害が無い限りは傍観、むしろ『どうぞどうぞ、あとでひっ捕らえるからその時、マシな言い訳を考えておくように』って感じだ。で、俺が〝シャンハイ・パオペイ〟のヤツと接触したのは昨日なんだが……前もって危惧していたし商談には安全第一、馬鹿正直に応じた。依頼は〝日陽神社まで連れていけ、玉緒嬢らを襲え〟……その男は先生よりベタなカタコトでな、外国人のフリをしていた。名前は大里海馬かいばって言った」


「大里海馬……勘違いではありませんか?」

 玉緒の疑問がこぼれる。


「まだボケてねぇよ」と団吉は前のめりになって言った。「総家そうけ三十三代目当主の名前で違いねぇ。でもジジイには見えん。今日は三十四代目当主、百地健三郎さんにその真偽……あと俺を見張ってた輩を先生が捕らえたこと、ついでに一般人と呼んでいいかわからんが、徹がやられたかもしれん、被害者が出た報告をしたかったんだ」

 

 風が吹き、桜の花弁が舞う。

 玉緒は違和感を感じて立ち上がり、階段の上を見上げた。

 

 上段から草薙裕也が二人を見下ろしていた。



 ◇

 裕也は団吉と玉緒の会話、後半から聞いていた。

 起床後、玉緒の置手紙通りに道場の掃除をしてから水を飲み、境内に出た。


 あまり時間を掛けなかった。昨晩から食事を摂っておらず、腹の虫が掃除を手早くさせたのもあるが、それより体に異変を感じた。

 

――頭から全身に電気が走ってるみたいだ。殴られ過ぎたか。気持ち悪くはないけど、軽いパンチドランカーっぽい。


 さっさと掃除を済ませて水を飲み干した。


 自室で一日、休養をしようと思いながら境内に降りた時、意識が階段に向かった。


――なんか、空気がおかしいな。さっきまで


 そう思って目をを凝らして


 焦点は合っていた。朝の境内に、裕也にはぼやけた人影が見えた。


 体格の良い女性と、小さな女性の姿が蜃気楼のように浮かび、動く。裕也は目をこすった。それでも見える。


――大きい女と小さい女が戦ってる。大きい方は、ほとんど動いてない。銃でも乱射してんのか? 小さい女はそれをかいくぐっていく、あ、懐に入った。でもすぐ離れた。どっちもマジでる気なのに、ギリギリでを押さえてる。俺もあんな風に動けたら、健さんに一矢報いるんだけど。


 そこで裕也は動きを真似した。小さい女の影、その動きを、ほぼそのまま。

 まず体の右側を階段の方へ向け、足を運び、動いてみた。


――なんか違う。もっと静かに速く、それでも右を向けたまま。えっと、ボクサーのアウトスタイルを混ぜてみるか。


 裕也は拳を握らず、その場で軽く跳ぶ。ざっ、ざっ、と音を立てて――その跳躍のリズムを保ちながら右、左と境内を動いていった。


 小さい女の影に合わせると、祐也にはその女の影、意図が感じれ取れた。


――大きい女が、両手で撃ちはじめた。もうちょいで右は弾切れっぽい。どうすっかな、リロードの隙をつくのもアリだけど、フェイントかも。でも避けてばかりじゃいつか当たる。とりあえずヒットアンドアウェイ。様子見ようすみの初弾。


 己の動きに音が無くなるのを感じつつ、裕也は小さい女の影を真似して階段へ駆けた。


――ん? なんだよ無防備じゃんか。がら空きの腹にぶち込む、いや無理! やっぱフェイントだった!


 すぐ後ろに跳躍し、己の右手を見た。何も無いが、汗とともに凶器があるのを感じた。


――あ、アブねぇ! 懐に入った途端、顔面にぶっ放してきやがった! ギリ、右手で掴んだけど、銃弾なら死んでた。掴んだのはナイフ? いや尖った針か。

――あ? これで終わりかよ。もっとやれば良いのに、大きい女が降参しやがった。意味わかんねぇな、もう一回。


 汗を拭って、祐也は再び同じ動きをとるが、影に合わせていくとやがて小さい女の影に違和感を感じた。


 裕也には、二つの影は幻だと自覚していた。それでもこの動き、特に小さい女の影がおかしいと思い、追うのを辞め、己の意志で大きな女の影に攻めていった。


――まず、大きい女が撃って来た。小さい女はジリ貧だろ。開始数秒して、大きい女は右手を止めるから。


 裕也はぴたりと足を止める。そこは大きい女の影、その右側だった。


――ここ。一旦どっちも動きを止めた。たとえ誘いだとしてもだ、小さい女は右肩を盾にして、攻撃するチャンス。なのにどうして小さい女は足を止めたままだ? 俺なら被弾してもぶっ飛ばしに行くぞ。もしここで降参しててもチョーシくれた礼をしねーと。


 疑問を抱き、裕也は大きい女の影に向かって間を詰める。

 その時、汗が噴き出て足が止まった。大きい女の影が裕也の動きに合わせて手を動かすのを感じた。


――やべぇ。大きい女、撃つだけじゃねぇ、普通に戦っても強いし、あいつの後ろは階段ロープがある。小さい女、境内リングで何が何でも仕留めるために、あえて手の内を探ってたのか。

――俺なら殴り合えるかもだけど、小さい女にはリスキーだな。一番厄介なのは自分にルールを作ってる。『逃げるのは論外、逃がす訳にもいかない。ここで確実に仕留める』。そのためにわざと相手に攻撃をさせてんのか。挑発と回避、さらに相手の技を見極め、隙を作りつつ、突く算段か。凄えけど俺にはできん。

――大きい女は乗せられたのか? でも、なんか変だ。普通、殴り合わず撃つだけで、降参なんてするか?


 そこで裕也は小さい女の影を、目に焼き付けるよう見た。三度目の物真似をしようとしたとき、気づく。

 影を追いつつ、考えた。


――この小さい女、玉緒さんかよ。なんだ、らしくねぇぞ。もっとどっしり構えて、ぐちゃぐちゃ動かず、最小限で躱せよ。んで相手を焦らして、ソッコーで決める。それが玉緒さんの必勝パターンだろ。相手にリズムを乱されてるのに気づいてねーな。ただのなのに、殺し合いになってら。

――玉緒さんの相手、めちゃくちゃ強えな。途中からマジになりかけて、本能的に動こう、攻撃しようとしたとたん、気持ちを押し殺し、降参しやがった。これ、絶食中に目の前に出された飯を捨てるようなもんだ。どっちも俺にはできんことしてやがる。

――立ち向かった玉緒さんの根性、本気を引き出した気迫もハンパじゃねーけど、こいつは別。どっちかっつーと、俺に近い。を知り尽くしてる。もしこいつが俺や徹としたなら最後まで絶対止めねぇ。自分を基準にして後腐れ無いようにぶちのめす。

――でも玉緒さんは簡単に一線を越えちまう。俺も目の前でトップギアに入れられると『つまんねー』って冷めちまう。この女もそんな感じだ。玉緒さんを懐に誘導してラストの一発をかまし、我慢したか。きっと玉緒さんの性格、手の内、と判断した。動かず撃って、降参する機会を待ってた。

――あの玉緒さんがインネン付けるとは思えねーけど、お互い勘違いでやむなく始めたんだろうな。

――てか、俺の周りって強い女ばっかり。俺が弱いだけか? そもそも俺、何やってんだ? 殴られ過ぎておかしくなったかな?


 そこまで考えてから階段に歩みより、見下ろすと幻ではない玉緒アキラと団吉の姿を見つけて近づいた。


 二人は裕也の歩に気づかず、話し合っていた。

 裕也が拾った言葉は団吉のものだった。


 

 ◇

「裕也くん」と玉緒アキラが言うと、鯨波団吉も振り返って見た。団吉は顔をしかめたが、会釈をする。


「おら、クソヤクザ、何つった?」

 裕也は団吉を睨み、言った。

「徹をどうしたんだ、てめえ」

「裕也くん、団吉さんは何もしてません」

 玉緒が言うと、裕也は彼女を睨みつける。

 

 彼女は息をつき、言った。

「健さんの指導がよほど良かったのでしょう。一晩でを操り、断つまでとは……その顔つき、境内で独読ひとりまなびをした様子ですね」


「専門用語はわからねーよ」と裕也は口を尖らせた。「俺はただ玉緒さんの影を追っかけただけ……で、徹がどうしたって? クソヤクザと関係無いはずの大里流について、何を話してた?」


 団吉は玉緒を見る。彼女は頷き、代弁した。

「目的や手段は違えど団吉さんも〝力〟で生きる人……武術事情ぐらい調べています。大里流も、裕也くんとは敵対関係でしたから、むしろ当然でしょう」

「ああ、大の大人が寄ってたかって中学生と喧嘩してたな。とっくに往生したかと思ったけど、まだインネンつけるってことか。ならいっぺん、死ぬかよ?」

 そう言う裕也に、玉緒はぴしゃりと言った。

「似たようなことを裕也くんはずっとしています。でも言葉遣いと態度はずいぶん下です。団吉さんは挨拶したのに、裕也くんは何も無し。まず人として無礼だと自覚をなさい」


「う」と唸って裕也は、そっぽを向く。

 玉緒は団吉に問う。

「裕也くんに説明がてら、整理しますね。まず〝シャンハイ・パオペイ〟がこの街に潜伏しており、中井一麿を脱走させ、匿っている。徹くんを除く一般人に手を出しておらず手練れの者のみを殺めている……これで合っていますか」

 団吉は、そうだ、と肯定する。

 裕也は視線を玉緒に向け、彼女の声を聞く。

「私の疑問点は何故、猛者もさを手に掛けるのか。何故、組織ぐるみで中井一麿を助けるのか。目的は何か、です……健さんに聞けば良いのですが、まず団吉さんの見解を。分かる範囲で結構ですから」


「玉緒嬢は見当がついてるはずだ……腕っぷしを集めたのは百地さん自身、何が起こるかわからねぇから、とりあえずの保険みたいなものだと言ってたよ。先生も推測だとさ。その推測ってのは――」

 団吉はタオルで顔を拭いながら言った。

「連中の目的はカムイを盗むこと、この神社は〝ヒオウ〟だったか?」

「またカムイかよ。聞き飽きたっつーの」と裕也が口を挟むが、団吉は口を止めなかった。

「市内には他にもカムイが祀られ封じられてるらしい。それを見張るのが大里流の裏家業だろ? 青井市は百地さんの大里流総家そうけを筆頭に、分家がいくつか密集してかなり珍しい。玉緒嬢の無刀大里流操氣術そうきじゅつに、大里流武具術ぶぐじゅつ、大里流神意操術カムイそうじゅつ……他にも看板があるらしいが、全国でもこの四大勢力が集中してるのはこの街と、本家のある関西ぐらい。わざわざ外国のマフィアが出張る理由なんざ、それ以外にあるわけねぇ。

 ここからは裕也、てめぇに言っておく。もう、郷土史に載せるレベルだが知られてねぇから……青井市は大里流の歴史と繋がる。古くからオカルト的な要素もあり、戦国時代にはメジャーな大名と等しくこの国の裏に刻まれてる。関西の本家から参勤交代の中継地として栄えたのが、この街だ」


 裕也は目を丸くして玉緒を見る。彼女は頷き、団吉を見ていた。


 団吉は言った。

「大政奉還を皮切りに明治維新後、急激に途絶えはじめ、現在はすっかりだ。古武術の一つとざっくりカテゴライズされちまって、認知も扱いも空手や柔道よりはるかに下。なのに〝シャンハイ・パオペイ〟なんてビッグネームが狙ってやがる。これはもうやつらのドン、大里海馬の意地じゃねぇかな。安直だがそのはらは――『皇従徒こうじゅうととして認めないなら』――集まった輩をなぎ倒しカムイを集め、中井一麿を脱走させ神輿みこしにした。国を相手にするなんざテロのそれじゃないかと……先生と俺がわかるのはこれぐらいだ」


――さんきんこーたい? たいせーほーかん? めーじいしん? こーじゅーと? てろ? そ、それ、マジで俺の習ってる大里流なのか? よくわからんが、歴史の授業みたい。ニュースでやってる、外国のなんたら過激派とかと同じか?


 裕也が声を失う中、玉緒は独り言ちる。

「今年の初め、海馬殿から団吉さんに連絡があった。懸念した健さんは、前当主の権限を最大限に使い、武士もののふを集めた。しかし奇しくも裏目に出た。裕也くんの件……鈴ちゃんたちに見えない、覚えていない喧嘩相手、不可抗力とは思えない深い傷。これらが偶然とは……」

 

――え? 健さんが前当主? それ元トップってことか? そりゃ確かに強いけど、あのオッサンが何で? いつからいつまで? 今のトップは誰? 鈴の傷はそんなに酷いのか? 俺は何も知らないけど?


 疑問符だらけの裕也に向かって団吉は指さす。

「見えない喧嘩相手……俺も娘から聞いたぜ、昨日、学校ガッコで意味不明な喧嘩をしたらしいじゃねぇか。そんでもって街でも暴れたって。チームの分裂後、初の内紛だとか。いつかのようにあんまり派手じゃ無いみたいだが、徹のやつは他所から兵隊を集めたって聞いたぜ?」


 己を顔を指さしながら祐也はゆっくり頷く。団吉はため息をついた。

「全部やつらの策略かもな。ガキにゃ、理解し難い話だろうが……」

 そう言うと、団吉は階段に腰掛け、裕也たちにも座るよううながす。


 玉緒は立ったまま、顎に手を添えてぶつぶつと呟く。


 裕也は、離れようと一段上がった――が、団吉の声に反応して止まった。


「キリオだったか? てめぇの喧嘩相手が俺の知るキリオってやつなら、実在するぜ。とんでもねぇから、逃げるのは恥じゃねぇ」


 裕也は団吉を睨み、隣に座った。


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