第9話 迷走から……

 

 ◇

 玉緒アキラの背を見、さらに人でない男女を見たキリオは心で愚痴った。


――なんかメロドラマみたいやん。そんなんどうでもエエっちゅうねん。


 すると玉緒アキラの右に立つ男が振り返り、キリオに会釈する。

 キリオは辺りを見渡した、が、すぐに人差し指で己の顔を指さした。男は頷き、喋る。


「キミは誰?」


 キリオは口を動かし、ジェスチャーを加えて声が出せないことを訴える。と、その男は微笑んで言った。

「心の中で言葉を念じれば会話できるよ。ここはアキラちゃんの記憶の中さ。キミは、未来か過去から来たの?」


――そんなとこやね。僕、キリオいいます。アンタは誰?


「秘密。言ったら多分、喧嘩になるから」


――喧嘩、ね。過去の幽霊と思念体のバトルってのは、そうそうあらへん。面白そうやんけ。


 キリオは構えるが、男はまったく動かない。


――見抜かれとるか。僕が初体験や無いって。


 と、キリオは構えを解く。頭を掻き、空を見上げて心で呟く。


――もしここでアンタを消すと玉緒アキラは最強の女でなくなる。ただの記憶ならまだしも、アンタと、そこの姉さんは玉緒アキラにチカラを与えてる。つまり玉緒アキラは常時、三人で戦っとる。それが最強の理由と違う?


「正解。僕は主に外氣がいきを補充して、アキラちゃんに渡す役。内氣ないきはあちらのお姉さん。しかもアキラちゃん自身の鍛錬も相まってほぼ無尽蔵なんだ。あ、なんてわからないか」


――そこら中にある見えないガソリンみたいなモンやろ。外氣がいきは筋力、内氣ないきは精神力に影響する。でも普通、大氣たいきから補充して循環を良くするだけで一生モンや。皆、効率良く使う方法を考えて鍛えて、やっとで実戦デビュー……アンタを消すと歴史がぐちゃぐちゃになってしまうよって。人間のチカラでは無理やね。


「正解。でも可能な事もあるよ。わかるかい?」と男が問う。


――情報を得る。あとこの場合に限り、カムイを上手に使って歴史を変える。でも僕のカムイは使えんやろ?


 キリオの問いに男は頷く。

「正解。キミがどこから来たか知らないけれど、カムイの能力で来たなら、カムイを召喚できる。カムイの特徴の一つ、相殺効果。大里流でないキミには理解し難いかな」


――カムイのチカラはカムイで消せる。術者の外内氣がいないきをエサにして、カムイはどこまでも強くなる。僕の外内氣がこの記憶世界を牛耳っとる誰かさんより強かったら、ぶち壊して現実の玉緒アキラに影響するかも知れん……あのな、大里流だけがカムイの研究してるなんて勘違いやで?


「正解。大里流以外でもカムイの研究しているのは知ってるよ。僕とかね。補足すると、この時代でキミのカムイは別の誰かが所有しているかも知れない。その場合、キミは見ることしかできない」


――元々、そのつもりや。他人の記憶の中で何かしようなんて思ってへん。講釈垂れたうえ、嘘つかれてムカつくけどな。


「嘘だって?」


 キリオは玉緒を指さし、次に男を指さす。

 その間、二人以外の誰も、木々も風も動かなかった。


――僕はユーヤ君の記憶からここに来た。なのにさっきからなんや? 百地美鈴の記憶、玉緒アキラの記憶、ぐるぐる回ってわけわからん。で、アンタや。幽霊かカムイか、記憶か幻想か……最初の質問に、会話から出た推理をプラスして返したる。? ? 当たりなら手段を選ばんとぶち殺すぞアホンダラ。


 男は、ははっ、と笑い声を出しながらキリオに歩み寄った。

 距離が狭まるにつれて、男の笑顔に変化が起きていく。

「答える段階では無いよ」

 キリオの鼻と男の鼻が当たるほど接近したとき、男の顔、声から感情が抜けていた。

「まだ一日……いや、半日ぐらいだ。キミと草薙裕也が出会ってから。さらに百地健三郎、大里流海るみ、天根光子ひかるこが合流し、中井の玩具を蹴散らしただけ。まだまだ序盤。キミと草薙裕也はカムイ使いとして成長し、やがて敵を、理解する」


 男が右手を上げる。


「現実で日陽ひよう神社は双葉高から西の山にある。道中、結界が敷いてあるが、キミなら突破できるはず。今回、知りたい情報はこれだけだろう? 

 懲りたらシャオとか言う少女にきちんと‶禁歌きんか〟を詠唱させることだ。もし捕手とりてのカムイが暴走すると、他人の出生から死までリアルタイムで経験させられる……今回は運が良かっただけだ。百人目の人間アイヌ


――!?


 心の中でも声にならない驚愕をキリオが感じた時、キリオの視界は白く、白く染まって、男の声がぼそり、ぼそりと聞こえた。


「百……キリの良い数字……だからキリオ……でもね、キミは……人間アイヌでは無いんだよ……キミは中井一麿の」


   

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