第9話 迷走から……
◇
玉緒アキラの背を見、さらに人でない男女を見たキリオは心で愚痴った。
――なんかメロドラマみたいやん。そんなんどうでもエエっちゅうねん。
すると玉緒アキラの右に立つ男が振り返り、キリオに会釈する。
キリオは辺りを見渡した、が、すぐに人差し指で己の顔を指さした。男は頷き、喋る。
「キミは誰?」
キリオは口を動かし、ジェスチャーを加えて声が出せないことを訴える。と、その男は微笑んで言った。
「心の中で言葉を念じれば会話できるよ。ここはアキラちゃんの記憶の中さ。キミは、未来か過去から来たの?」
――そんなとこやね。僕、キリオいいます。アンタは誰?
「秘密。言ったら多分、喧嘩になるから」
――喧嘩、ね。過去の幽霊と思念体のバトルってのは、そうそうあらへん。面白そうやんけ。
キリオは構えるが、男はまったく動かない。
――見抜かれとるか。僕が初体験や無いって。
と、キリオは構えを解く。頭を掻き、空を見上げて心で呟く。
――もしここでアンタを消すと玉緒アキラは最強の女でなくなる。ただの記憶ならまだしも、アンタと、そこの姉さんは玉緒アキラにチカラを与えてる。つまり玉緒アキラは常時、三人で戦っとる。それが最強の理由と違う?
「正解。僕は主に
――そこら中にある見えないガソリンみたいなモンやろ。
「正解。でも可能な事もあるよ。わかるかい?」と男が問う。
――情報を得る。あとこの場合に限り、カムイを上手に使って歴史を変える。でも僕のカムイは使えんやろ?
キリオの問いに男は頷く。
「正解。キミがどこから来たか知らないけれど、カムイの能力で来たなら、カムイを召喚できる。カムイの特徴の一つ、相殺効果。大里流でないキミには理解し難いかな」
――カムイの
「正解。大里流以外でもカムイの研究しているのは知ってるよ。僕とかね。補足すると、この時代でキミのカムイは別の誰かが所有しているかも知れない。その場合、キミは見ることしかできない」
――元々、そのつもりや。他人の記憶の中で何かしようなんて思ってへん。講釈垂れたうえ、嘘つかれてムカつくけどな。
「嘘だって?」
キリオは玉緒を指さし、次に男を指さす。
その間、二人以外の誰も、木々も風も動かなかった。
――僕はユーヤ君の記憶からここに来た。なのにさっきからなんや? 百地美鈴の記憶、玉緒アキラの記憶、ぐるぐる回ってわけわからん。で、アンタや。幽霊かカムイか、記憶か幻想か……最初の質問に、会話から出た推理をプラスして返したる。アンタは誰や? このむちゃくちゃな記憶世界はアンタのカムイが作った偽物ちゃうんか? 当たりなら手段を選ばんとぶち殺すぞアホンダラ。
男は、ははっ、と笑い声を出しながらキリオに歩み寄った。
距離が狭まるにつれて、男の笑顔に変化が起きていく。
「答える段階では無いよ」
キリオの鼻と男の鼻が当たるほど接近したとき、男の顔、声から感情が抜けていた。
「まだ一日……いや、半日ぐらいだ。キミと草薙裕也が出会ってから。さらに百地健三郎、大里
男が右手を上げる。
「現実で
懲りたらシャオとか言う少女にきちんと‶
――!?
心の中でも声にならない驚愕をキリオが感じた時、キリオの視界は白く、白く染まって、男の声がぼそり、ぼそりと聞こえた。
「百……キリの良い数字……だからキリオ……でもね、キミは……
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