第7話 東京都港区白金台 東京都庭園美術館

 夏の暑い時期に、目黒区にある東京都庭園美術館に行ってきた。雨が降っていた。


 東京都庭園美術館は目黒駅から歩いて10分ほどのところにある。昔は朝香宮という皇族の邸宅だったという。私は昔、寄生虫博物館を尋ねて目黒駅に降りたことがある。でっけーサナダムシなどのキモ寄生虫どもが跋扈する魑魅魍魎に支配された博物館だ。今回の旅では、寄生虫とまったく別のイメージの庭園美術館。目黒駅を挟んで、それぞれ逆の方向にある。


 水たまりを踏み越え、美術館に到着。展示は子供の服飾史をめぐるもの。かつて邸宅であった建物を上へ下へと、縫うように歩いていく。

 見学のルートよく考えたな、と感じる。大きな古く美しい邸宅を美術館に。考えるのは易きことだ。だが実際に運用するのはかなりのテクニックが要るだろう。見学ルート設定のために、ある場所の扉が開けられ、ある場所は閉じられ。階段に通行止めがあったりなかっり。同行に解説を受けながらも、ついつい空間の切り出し、道の作り出しが気になってしまう。この邸宅で、過去と現在とで最も異なるのは人間の導線だ。


 美術館の見学者は、女性が多い。そして若い人が多い。理由は明確で、フランスや日本の可愛らしい衣装が沢山飾られているからだ。フランス革命以前から、第一次大戦に到るまでの子供の衣装。近代日本の子供服。大人の装束と互いに影響を与えながら歴史を歩んできたのだという。

 女性たちは服飾に関心が高い人が訪れていると見え、みずからゴシックの装束に身を包む人も見られた。普段、駅だとかですれ違ったら「お」と思うようなこだわり。それと、自ら刺繍や服を作るをする様な人も。会話を聴いていると解る。それと、多分コスプレイヤーがいた。彼女たちもコスプレ衣装を自作する。みんな、歴史に裏付けされた衣装を参考にするのだろう。図録はすでに売り切れていた。


 邸宅の奥まで歩き、別棟に到る。ミュージアムショップがあった。ここのミュージアムショップは徹底して女性向けだ。


 マスキングテープ! 限定のマスキングテープ! 

 トートバッグ! オリジナルのトートバッグ!


 これはついつい買ってしまいそうになる……! カフェには時間がなくて行かなかったが、やはり良い雰囲気のものが揃っているのだろう。


 皇族の邸宅という歴史を活かしつつ、明確にターゲットを絞る。歴史の流れが巧みな仕組みで、今にたどりついている感じがした。

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