第12話 恋という名の病 妄想という名の薬

 結局、話らしい話もできないまま…予想はしていた。

 話をしようと言っても、レンタルDVDを返却してコンビニで食事を買い、駐車場で食べ、100円ショップで買い物して事務所へ送迎する…これを2時間足らずで行うのだから話など出来るはずもない。


 もっとも、何を話せばいいかも解らない。

 正確に言えば、言ってもしょうがないというか…無理なのだ。


 まず生活する時間が真逆だ。

 僕が眠る時間が彼女の仕事時間。

 加えて、彼女は休まない。

 出勤していない日は何をしているか解らないし…深くは聞きたくない。

 言わないことは、言いたくないことと解釈している。


 彼女は僕に好きだとは言わない。

「愛してるよ」とメールをすれば…「ありがとう」と返してくる。

 僕は愛されているのだろうか…。


 時折思うことがある。

 妄想なのではないだろうか…と。

 僕は、自分の記憶を都合よく書き換えているのではないのか。

 彼女は、実は僕に気を持たせるようなことなど言ってないのでは…。


 客観的に見れば、僕は…。


 怖くなる…自分が…。

 僕は自分を信じることができない。

 信じるべき根拠がない。

 たとえば、彼女の客の中で、僕が特別だなどと思う根拠がない。

 そもそも客ですらないし…優先順序は低くて当たり前。


 何かをしてやりたくなるが…なにもできない…。

 そんな思いすら迷惑なのかもしれない。


 そう思うと…いや、そう思いたくなくて僕は…現実から目を背けているのではないだろうか…。


 壊れた心が映す景色は、僕が見ている風景と同じなのだろうか…。

 たまらないほどの不安が襲う…。

 吐き気がするほどに、寝る前に食べ物を詰め込む。

 そうしないと眠れない…。


 現実を感じることができるのは…ネガティブな感覚だけ。

 僕にポジティブさは無い。


 悲観して…憂う…そしておそれる。

 終わらない三重奏ワルツで無様に踊る…踊らされる。


 本音が聞きたい。

 それが目を閉じてきた現実であっても…。

 魔法も…呪いも…タダでは解けないものだ。

 代償を伴う…それは僕の心かもしれない、だけど…僕は彼女の本音が知りたい。

 たとえ心が壊れても…。


 いや、すでに壊れているのだとしたら…むしろ治るのかもしれない。

 治った僕は、どうなるのだろう。

 昔のように冷淡なだけになるのだろうか…。


 僕ですら嫌う…昔の僕に…。


 あの頃も、今も変わらないまま、そんな部分が『死にたい』と願う心。

 ココに居たくないと願う心。


 子供の頃から変わってない…。

 ココが嘘だと信じて疑わない。


 子供の頃に夢中で作った…腐ったバッテリー、切れた電線、廃材を組み合わせて、僕はココから別のドコカへ行けるナニカを作っていた…。


 たぶん今も…僕の心はココからドコカへ行けるナニカを求めている。

 それが虚無であっても…。


 妄想が薬となって成り立っていることが現実であるのであれば…それは心の病に他ならない…。

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