第11話 眠れるということ

 眠れるということは幸せな事だ。

「一晩眠れば忘れるよ…」

 そんな程度、悩んでいると言わない。


 そもそも、僕は眠れないのだ…眠ることが下手なのだ。


 悩む…悩む…彼女のことだけではない。

 むしろ、彼女のことよりも、自分のこと。

 金銭的な事…家族のこと…。


 僕にお金があれば…彼女と暮らせるくらいの収入があれば…僕は、もっと彼女に本音を言えるのだろうと思う。


 曖昧な関係を築いているのは、僕の問題であるところが大きいようにも思える。


 僕が眠れないのは子供の頃から、彼女のせいじゃない。


 ただ…彼女が望むような関係は難しい。

 いっそ性的な欲求を持たなければ上手くいくのかもしれない。

 矛盾しているのだ…愛すればこそ抱きたいと思うし…他の誰かに抱かれるなど想像したくもない。

 愛が薄れれば…他の子を抱いて…彼女に呼ばれた時だけ逢えばいい。

 表面的に上手く付き合えるのは後者のほうだ。

 愛が募ればこそ…苦しくなる…上手くいかなくなる…。

 きっと、それを埋めるのがお金なのだろう。


 愛されているのか…愛しているのか…僕は自分の気持ちも…彼女の気持ちも解らない…。


 貯金を食い潰すような生活の中で、僕が意識しているのは『死』だけだ。


 心のどこかで『死』を望んでいる。


 誰かに…殺されたい…。

 何かに巻き込まれて死にたい…。


 苦しいのは嫌だな…痛いのも嫌だな…そんなことを一日中考えている…。


 眠る前に思うこと…「二度と目覚めませんように…」


 悪夢でもいい…この現実より遥かにマシだろうから。

 夢を見続けながら…死ねたなら…幸せだろう…。


 だけど…眠ることが下手くそな僕は…1時間ほどで目を覚ます。

 悪夢を見ては、何度も目を覚ます。

 目覚めが一番ツライのに…一晩で幾度も目覚めを繰り返す…それこそ悪夢だ。


 現実が一番の悪夢。

 悪夢以上の悪夢…。


 現実でも彼女に逢えないが…夢でもめったに逢えない…。

 愛する者の夢を見るものなのだろうか…他の人は…。

 僕は彼女の夢を見たのは、2度か3度くらいだと思う。


 送迎のときより短い時間…それが僕の夢…。


 お金があれば…彼女と映画も、食事も出来る。

 でも…それは風俗嬢としての彼女と逢っているだけ…気持ちが無ければ、そういうことでいいのだろう。


 お金抜きでは逢ってもらえない…。

 送迎係…それだけ…なのか…。

「そうじゃないよ…」

 彼女はそう言ってくれるけど…だからといって、それ以上の何かがあるわけでもない。


 きっと僕には…ナニカが足りない。

 生きる意味…信じる理由…夢を見る安らぎ…。


 足りないナニカが多すぎて、何を持っているのか解らない…。


 ただ…彼女に逢いたい。

 儚い夢でもいい…永遠に見続けられるなら悪夢でもいい…彼女に逢いたい。

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