第9話 前夜の想い

 バレンタインデー、彼女も客にチョコを配ったのだろう。

 風俗店もイベントで客を呼び込むために必死であろう。

 僕には縁のない日…クリスマスのときと同じ…恋人たちのイベント日、彼女は客のモノ。


 彼女の誕生日から2日遅れてケーキが届いた。


 彼女と逢わないと1度は決めた、このケーキは届いたらアパートに置いておこうと思っていた。

 結局、明日逢うことにした…送迎だけど。


 なにが幸せなんだろう…。

 客として彼女を呼んでチョコでも貰って彼女を抱く…それで満足できれば幸せなんだろうか。

 送迎の途中で持参したケーキを一緒に食べて事務所へ送るよりは幸せなのだろうか…。


 価値観の問題…というか、彼女をどう見ているかの問題…か…。

「風俗嬢がお前なんか相手にするかバカ」

「風俗嬢なんかに本気になるかバカ」

 よくある書き込み…。

 どちらも正しい。

 どちらもバカという点で正しい。


 自分は特別な…客?あるいは男?

 錯覚…というより妄想というほうが近い。


 ストーカー紛いの粘着質の客もいる。

 ある意味では僕より彼女のことを思っているのかもしれない。


「逢いたい」

「明日ね…」

 彼女は店で呼ばれることを拒んでいるように感じた…。

 風俗嬢としては逢いたくない、そんな意味なんだろう。


 だが…そうでなければ逢えないのも事実。

 やはり、普通には逢えないようだ…。


 そう思うと…どちらが幸せなんだろう…と考えてしまう。


 他の嬢でもいいようにも思える。

 気持ちが入らないのなら…うまく付き合えるだろう。

 きっと、プライベートで会いたいとは思わないだろうから…会いたいと言われれば会えばいいだけ…過去にも、それだけの付き合いはあったし、その場合、身体だけの繋がり…気が楽だ。

 そういう娘は大概、自傷癖が身体に刻まれている…TATTOOの場合もある。

 身体を刻むことで今を否定しているように思えた…そういう娘には思わず抱きしめてあげたくなる…性的な意味ではない。

 きっと僕は、彼女達をフィルターにして自分を見ている、抱きしめているのは僕自身だ。


 僕は彼女を恋人として抱きたい…それが出来ないからツライと感じる。

 僕の逢いたいには…きっと色々な想いが詰まっている…『純』も…『不純』も…。


 彼女からのメールが途切れた…呼ばれたのだろう…愛すれば互いにツライだけ…。

 解っているのに…好きという想いが抑えられない。


 ひと月振りの再会は、僕と彼女に変化をもたらすのだろうか。

 彼女は僕をどんな目で見るのだろう…僕は彼女をどう見るのだろう…。

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