第8話 誕生日

 もう関係ない…そう思いながらも、彼女の誕生日が気になってしょうがない。

 嘘かも知れない…きっと嘘だ…僕に話しても得になることなんてないのだから…本当のことを言うわけがない。


 それでも…ひとこと「おめでとう」と言ってあげたい。

 彼女が産まれた日なのだ…。


 僕はメールを彼女へ送った。

「誕生日おめでとう」


 今さら言えた義理でもないし…むしろ怒らせてしまうかもしれない。


「ひとつだけ言いたいことがあります。どれだけ私を恨んでいるかわからないけど、教えたことに偽りはありませんよ。それだけは言っておくね」

 返信には彼女の免許証が添付されていた。


 本名と誕生日…嘘ではなかった。


「恨んでなんていないよ」

 これは本心だ。

 彼女を恨んではいない…。


「見れた!」

 一言だけ返信されてきた。


「正直に言えば疑ってないよ、逢えないなら嫌いにならないとツライだけ」

 そう…嫌いにならないとツライだけ…いつまでも引きずってしまいそうでツライだけ。


 解っている。

 彼女の言葉や表情が不明瞭になるのは…僕のせい。

 僕が傷つくから…返答が不明瞭になる。

 自分の仕事に対する後ろめたさもあるのだろう…。


 本当は僕が彼女を受け止めなければならないのに…。

 僕にはソレができなかった。

 せめて、人並に収入があれば、彼女に将来を約束できたのだろうか…。


 それすら言い訳なのだろうか…。


「悲しかったよ、拒否されて」

 僕は彼女を悲しませるだけ…僕が現実から逃げ回るから…大切にしたい人を傷つける…。

「ごめんね。謝りたい…好きでいさせてほしい」

 嫌いになんてなれない…好きで、好きでしかたない。


「うれしかったよ、今のメール これからも好きでいてほしい」

「好きだよ今までも、これからも。もし今度逢えたら自分の口で謝るよ」

「逢えるの楽しみにしてるよ」


 今度逢えたら…彼女の誕生日に頼んだケーキを届けよう。

 限定予約品で当日には間に合わなかったけど…。

 千疋屋のケーキ。

 以前、マンゴーシュークリームを美味しいと言ってくれた。

 果物が好きだから…彼女は。


 連れて行ってあげることはできないけど…せめて取り寄せて食べさせてあげたい。


 ダメなんだ…結局、僕は彼女のことしか考えてない…。

 彼女の笑顔が見たい。

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