第7話 きっと最後の

 昼間、買い物に出かけた。

 助手席には彼女に渡そうと買っておいた豆乳が6本置いたままだ。

 どうしたものか…と少し悩んだ。


 僕は彼女のアパートの玄関のドアノブに掛けておいた、今までのように…。

 寝ているであろう彼女を起こさぬ様にそっと…。


 たぶん最後の届け物。


 僕は彼女に何かしてやれたのだろうか…。

 彼女の本心は視えないまま、僕は彼女との連絡を絶った。

 それが彼女のためなのか…僕自身のためなのか…今の僕には解らない。


 もはや考えることですらない…はずなのだが…。

 僕が彼女に対して思うことは、幸せになってほしい、それだけだ。


 なぜ…彼女との連絡を絶ったのか…そうすることが正しい選択の様な気がした。


 話し合えば良かったのかもしれない。

 でも…なにを話せばいいか解らない。


 関係性が曖昧すぎて…。


 どこまで彼女に求めればいいのか…それが解らなかった。

 そんな思いが僕の口数を減らす。

 いっそ恋人だと思えれば…それが勘違いで影で笑われていても。


 僕が信じられなかったのは彼女ではなく、きっと僕自身。


 今日は隣の市でハンバーガーを食べた。

 彼女と一度来たことがある店。

 アメリカ雑貨が並ぶ、機能性は、ほとんど無いくせに妙に欲しくなる雑貨。

 相変わらず上手に食べれない…。

 彼女が目の前にいたら、楽しかったかもしれない。

 独りの外食は慣れているはず…味を感じないわけじゃない、でも美味しくは無い。

 それは、ぼくのせい。

 食事に気が回っていないから…空席に彼女の影を追うから…。


 これからは独り…慣れなくては…たぶん平気なはず…。

 鳴らない携帯も、当たり前になっていくはず…。


 ツラかった…それは間違いなくツラかった。

 手放してなお、ツライのはなぜ?


 同じこと。

 そうしなくても逢えない…すればもちろん逢えない…。

「逢いたい」とメールが来るか、来ないか、それだけの差でしかない。


 事実、金に成らない僕を送迎にしか使わなかったのだから、恨んでもいいのだと言い聞かせる。

「一緒に居たいよ」

 そう言いながら…ストーカーだと嫌う客のために3つ離れた市まで僕を往復させるくらいだ。

 恋人ではないだろう。


 これで良かったのだと思う。


 金があれば、またデリヘルで遊べばいい。

 金が発生している間は、彼女達は優しい。


 このまま、そんな生活を続けて…金が尽きれば、死ねばいい。

 そっちのほうが楽しいかもしれない。


 好きなように時間も使える。

 迎えに行くのだか、必要ないのか、など考えなくていいのだ。

 そもそも、他の男に抱かれに行くのに送る必要ってなんだろう…好意があれば、そんなこと頼めないだろう。


 狂っていたのだ。

 今までが…これが正常。

 だから…これでいい…。

 来週にでも他の嬢でも抱いてみようか…それもいいかもしれない…。


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