第6話 嘘

「風俗嬢は嘘ばかり…」

 当然だろう。

 本名で、素顔を晒し、住所や連絡先を教える?

 そんなわけないだろう。

 聞く方もバカだが…教える娘がいたらそれも…。


 彼女は信用すれば教えていた。

 どこまで本当か…それは考えたことが無い。

 聞いたわけではないし、知ったからといって何するわけでもない。

 メールでやりとりして、アパートに送迎したくらいだ。

 彼女にしてみれば、足に使うわけだから、ある程度のリスクは承知のうえなのだろう。


 だから勘違いする客もいる。

 僕もそうだったのだろうか…。


 金を払わずに彼女を抱いたのは1度だけ…気まぐれのSEX、誰しも経験あるのではないだろうか、その程度のことだと思えば、そこに愛を感じた僕のほうがどうかしていたのだ。

 金払いが悪くなった客。

 財布から小銭入れ程度に扱っていれば良かったのだろう。

 自覚が無かったわけではないが、信じたくなかっただけ。


 なぜ…こんなに辛いのだろうか…。


 タダで若い女を抱きたいだけ…見た目のいい女を連れて歩きたいだけ…。

 違う…。

 タダでは抱けない…僕と一緒には歩かない…のだから…。


 彼女専用のデリヘルドライバー、それが僕だった。

 それも1食付で、時には買い物の代行も請け負う。

 小銭入れとしては優秀ではないだろうか。

 代金も代償も要求しないのだから…。


 なぜ…この期に及んでこんなことを書いているかというと…。

 2/13は彼女の誕生日だと聞いていた。

 バレンタインの前日…よく出来た話だ。

 客にチョコを配るのだろうが、誕生日で元を取るには都合のいい日だ。


 昨年か…足のむくみを取るとかいうマッサージ器が欲しいといいだした。

 僕はネットで注文して1万円だけ回収した。

 今年も、鞄が欲しいと言っていた…一緒に買いに行こうとか言っていた気がする。

 あのままダラダラと付き合っていたら、送迎の途中で買わされていたのではないだろうかと思う。

 昨日はデリヘルに出ていなかったようだ…きっと客を店外デートに誘って誕生日プレゼントを買わせていたのだろう。


 僕は…彼女の何を好きになっていたのだろう…。

 それが今は解らない…。


 無邪気で強か…それでも彼女が好きだった…。

 全ては虚構だったのだろうか…それを確かめることはしなかった。

 僕は彼女の全てを信じていたわけではない。

 たぶん、お互い手さぐりで心に触れようとしていたのだろう。


 暇なら会いたいけど…金にはならないから…。

 きっと彼女の真実は、そんなとこに在ったのだろうと思う。

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