第5話 黄ばむ
純粋だったはず…。
彼女が風俗嬢であることは関係ない。
僕は彼女を愛していた…今でも愛している。
彼女が他の男に抱かれていようが、デートをしていようが…気持ちだけは繋がっていると、それだけが僕の心の拠り所だった。
クローゼットに白いコートが掛かっている。
真っ白なコート…だった。
きっと彼女のストーカーだろうと思うが、掲示板が荒れている。
昨夜も彼に呼ばれていたのだろう…。
もしかしたら、同じラブホテルに居たのかもしれない。
僕は、彼女にメールを送った後、部屋を出た。
同じホテルで彼女が抱かれていると思うと…居た堪れなくなった。
外は天候荒れ気味で…僕の心を吹き荒ぶ感情を具現化したような冬の夜。
想いは途切れたのだろうか…。
助手席で彼女のために買った豆乳メロン味が、より一層に自分を惨めにする。
しばらく車から海を見ていた…。
荒れた海。
黒い海は生き物のように、うねる…不思議と「こっちに来い」と招かれているようにも感じる。
不気味さも、おぞましさも感じない…もちろん愛も感じない…ただソコに行くことが自然なことのように思えた。
僕の行きつく先は…きっとこういう場所なのだろう、そう思えたのだ。
着信・受信を拒否設定に変えた。
僕のスマホが彼女を受けいることは無い…もう…。
逢えれば違う展開もあったのだろうか…いや、時間を延ばすだけだろう。
彼女の気持ちが僕には理解できなかった。
「逢いたい」と言いつつ、その時間を持たないのは彼女…。
僕に抱かれることが嫌なのか…金に為らない時間が嫌なのか…。
抱きたいわけではなかった…ただ僕の為に時間を作ってほしかった。
きっと、恋でなければ上手くいったのだろうと思う。
愛さなければ…ではなかった。
愛せなかったのだと思う。
白いコートは…時と共に黄ばんでいく…それは浸食されていくような現実を僕に見せ付けるように…。
白いまま…そんな想いを抱き続けたのならば…あるいは…。
今の僕の心は何色なんだろう…。
鳴るはずもないスマホを傍らに置いておく…矛盾した気持ち。
掲示板で騒ぐバカ共を、この手で引き裂きたくなる…。
今の僕は…誰かに殺されたいと願っている。
死ぬ勇気が無いから…殺されるしか現実から逃げれない…。
車で彼女がくれたキーホルダーが揺れる…。
もう…悲しくも無い…ただ…それでも彼女のことを考えている自分に呆れているだけ…。
誰でもいい…僕に絡んできてくれないかな…そう思いながら、きっと今夜も街を歩く…。
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