第4話 途切れた

 家のブレーカーが落ちた。

 40Aの契約だったはずだが…たぶん父親だ、金が無いから勝手に契約を変えたのだと思う。

 以前にも同じことをした。

 15Aまで契約を落としたため、よくブレーカーが落ちた。

 自転車屋をやっている…つもりらしいが、何もしていないのと変わらない父親。

 コンプレッサーがあるので、そこに電気を使うのだ。

 この家も、金は一切払っていない。

 そのくせ家主でいたがる…家・土地がないと金を借りれないからだ。

 僕の名義で建てた家も、勝手に自分名義に変えていた。

 先週も10万貸した…返ってきたことはない。

 僕も金は無いのだ…。

 見栄なのか、電気代だけは父親の口座から引き落とされている。

 だから困るのだ…。


 死んでほしい…。


 やることが無いせいだろう、家の周りにゴミを置きたがる。

 世話をしない観葉植物…壊れた洗濯機…錆びた自転車・バイク…etc.

 家に帰る度に溜息が漏れる。

 きっと子供が秘密基地を造る、そんな感覚のまま80歳を迎えるつもりなのだ。


 カタチだけでも店で自転車組合に登録されている。

 だから販促グッズが届く。

 今、室内の至る所にダンボールの山が築かれている…身体を横にしないと通れない廊下、身体にダンボールが当たると、殴りたくなる…。


 同居するんじゃなかった…。

 後悔しかない。

 本当に、このゴミ屋敷を自分が片づけるのかと思うと、両親より早く死にたいと願う。

 あるいは自死を選ぶべきなのかもしれない…。


 毎日…毎日…殺したくなる…死にたくなる…。


 会社も底辺…バカばっかりだ…会議でも会話が成立しない。

 転職当初、幾度か会議に呼ばれたが、今は呼ばれない。

 一度目の会議でデータ集計に要因を絡めたマトリクスのによる問題点の抽出と是正の必要性を薦めた。

 私が以前の会社で部下に教えていた手法を見せたのだが…それが癇に障ったらしい。

 人づてに聞いたが、何の話をしているのかすら解らなかったらしい。

 部下にするのが嫌だと言われて、今も現場の雑用をやらされている。


 前の会社でも同じだった…。

 古株に嫌われるのだ。


 風呂にすら入れない…だから近くのラブホテルに行った。

 久しぶりだ…相変わらず変な臭いがする…古いホテル。

 風呂に入るだけだから安いホテルで充分だ。


 風呂に入り…ベットに横たわる。

 なんとなく彼女も、このホテルのどこかにいるのだろうかと思い、メールしてみた。

 しばらくすると返事が返ってきた

「ホテルにいるの?呼ぶ気?」

「迷っている」

「他の子だよね…嫉妬したゴメン」

「呼ぶなら『N』だよ…『N』以外抱きたくない」

「ありがとう」

「呼ばれたい?」

「呼ばれたいというか会いたい」

 僕はデリヘルに電話した。

「予約でいっぱいです」


「ごめんね、電話したんだね。会いたかったけど、これでよかったのかも」

 僕も、そう思った。

 店を通して逢えば、また空しくなるだけだから…。


「なんか吹っ切れた気がする」

 そう送って…僕は彼女の携帯を着信拒否して、アドレスを受信拒否した。


 そう、これでいい。

 結局…プライベートでも、店でも会えない。

 そんなとこまで来ているのだ…だからこれでいい。


 本当に、僕は居場所が無い…ブレーカーの落ちた家に戻り、震えながら眠る。

 子供の頃から慣れているはず…戻っただけ…現実に戻っただけ…。

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