第2話 ジャパンライム

 2度ほど彼女のリクエストでロールケーキを買いに行ったカフェに足が向いた。

 この店もランチがメインの店で閉店が早い。

 彼女が起きる時間には閉まっている。

 行きたいと言いながら早く起きようという気はない…。

 TAKEOUTでケーキは買えるのだが、4人分からしか作ってくれない。

 オーガニックカフェということもあり、素材の劣化が早いため作り置きも難しい。

 2人で持て余すくらいの量を食べて気分が悪くなったという記憶がある。


 僕はオーガニックというものには無頓着だ。

 美味しいと思わないし、何か足りない気がするのだ。

 イギリスのカフェをイメージしており、紅茶の種類が豊富かつ本格的な店。

 紅茶は好きなので、ケーキを取りに行ったときは紅茶と遅めのランチを頂いていた。

 淹れ方から飲み方、アレンジの仕方などを女性オーナーと話しながら頂くTEAは美味しく、期待していなかった食事も意外なほどに美味しい。

 キノコ嫌いの僕が美味しいと食べれるくらいだ。

 味付けが濃いわけではない、むしろ控えめなのだが美味しいと感じた。


 半年ほど足を運んでいなかったカフェ。

 今日はフラリと立ち寄った。

 ランチを少し外した時間、広くはないがセレクトショップもあり愉しい気持ちになる。

 男のくせにカフェだの、雑貨屋などが好きなのだ。

 オーナーは僕のことを覚えていたようで、声を掛けてくれた。

 席は一番奥の隅っこ。

 店員も客も女性しかいない、いつもそうだ、だから中年の男一人で食事をするのは少し場違いな感じがして遠慮してしまう…。

 チーズサンドのプレートセットと、おすすめの紅茶を頼んだ。

『ジャパンライム』

 緑茶にヒマワリの種とレモンピールを加えたサッパリとしたお茶。

 自家製チェダーチーズのサンドイッチと確かに良く合う。


 好き嫌いの激しい彼女と食事をしてみたかった…。

 ひと目を嫌う彼女も、きっと隅っこの席を選ぶだろう。

 キノコは食べないように思う…。

 でも…このカフェの料理は気に入ってくれるだろう。

 TAKEOUTでなければ、デザートもある。


 でも…禁煙だから、ゆっくり紅茶を愉しむってわけにはいかないか…。


 そんなことを考えながら食事をした。

 チェダーチーズの塩っけは涙と同じような味がする…。

 少し切ない味だ。


 僕は、昨夜ダラダラとメールを続けることを止めた。

 結局、彼女は送迎ついででしか『逢う』ということを考えらえないようだ。

「送迎が嫌だって言うから、いろいろ考えてるよ」

 考えるって時点で論点が違う…。

 きっと気持ちは噛み合わない。


 今までありがとう 楽しかった。

 それを最後のメールにするつもりで送った。


 しばらくは、彼女の思い出を辿るだけでいい…。

 何も変わらない…金を払わなければ何も起こらない関係だったのだから…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る