72.ヤオガミと4人の機甲隊長

 東大陸は東方海岸沿いに位置する島国、ヤオガミ。この国は5年ほど前からウィルガルム率いる軍団に占拠されていた。

 最初は抵抗し、ヤオガミ軍は幾度となく戦いを挑んだが、彼自慢の機甲団の前には成す術もなく敗戦を繰り返し、ついには首都に進行された。

 現在はウィルガルム機甲団リーダーのゼオがヤオガミ王の相談役を務めていた。

 そして今、機甲団は首都であるトウオウに集まり、会議を行っていた。

 ひとりは最新型パワードスーツを身に纏った巨漢の男であった。名はドンオウと呼ばれ、この団のまとめ役であった。

 その隣には、全身甲冑で覆われ素肌の見えそうな隙間から赤々とした炎を漏らす者が座っていた。その者はエンジャという表情を見せない不気味な男であった。

 そしてその正面には露出の激しい格好をした女が手と脚を組んで座っていた。その者はヨーコといい、両手両足に全て義手義足を付けていた。

 最後は背に風のオーラを纏った大剣を担いだ男が静かに座っていた。その者はケンジといい、身体の所々に機械部品が埋め込まれ、右腕はヨーコの様な義手が取り付けられていた。

「本土ではデストロイヤーゴーレムの組み立て作業が行われている。完成する前に、こちらの兵器の完成を急がせなければな」書類片手にドンオウが口にする。

「急がせるというより、ゲリラの邪魔が入らない様に潰して回った方がいいんじゃない?」ヨーコは書類を読み進めながら口にし、溜息を吐く。この国には今でも反魔王軍のゲリラが潜伏していた。

「ソイツラノカズハスクナイ。ツブスノハタヤスイ」エンジャは口元の排気口から熱々の息と共に話した。

「それより、新しく入った連中の教育を急ぎたい。連中、新しく入ったパワードスーツを玩具だと思ってやある。一度、本物の戦いをさせなきゃな」ケンジはうんざりした様な表情で頬杖をついていた。

「本物の戦い、か……ゲリラ共は少ないが、精鋭だ。しかも、眼術使いが何人もいる。対眼術用のゴーグルは出来ているのか?」ドンオウはヨーコに訪ね、彼女の目を見る。

「眼術のロジックがまだ解明されていない……眼球を改造した方が早いってね。あんたん所の副隊長が確か、眼術使いだったわね?」と、ケンジに訪ねる。

「そうだが……あいつは我儘でね……俺の言う事は聞かない」

「タタカイイゼンノモンダイジャナイカ?」エンジャは笑うように口元の排気口から火を漏らした。

「お前こそ、不気味がられ過ぎて部下が近づかないらしいじゃないか」

「オレハヒトリデイイ」

「兎に角、ゲリラ共の邪魔が入らない様に眼を光らせておけ! あの兵器はデストロイヤーゴーレムの航行活動時の護衛を務める重要な兵器なのだからな!」ドンオウが纏める様に口にし、卓を叩いた。



 その頃、ロザリア達の乗った貨物船がグレーボン港を出港した。この船は東大陸のイモホップへ向かい、そこから乗り換えてヤオガミへ向かう予定であった。

 ロザリア達は乗せてもらう代わりに船の護衛を務め、甲板で見張りをしていた。

「アリシアさんが乗ったら、きっとまた顔を青くさせて泣いたでしょうね。あの頃が懐かしいわ」エレンは3年前を懐かしむ様に笑いながら潮風にポニーテールを靡かせていた。

「船酔いか……今の所大丈夫だが、そんなに苦しいものなのか」大剣の手入れをしながらロザリアが問う。

「あれに関しては薬も魔法でも治せませんからね。で、海の調子はどうですか、スカーレットさん」と、望遠鏡を覗き込む彼女の肩を叩く。

「グレーボン海域の海賊共は私たちが殲滅したから、しばらくは大丈夫。この海域を出たら、海賊共がひしめく縄張りに入るわ。ま、私の顔を出せば襲ってくる連中は半数以下だけどね」と、自信満々に鼻息を鳴らす。

「それは頼もしいですね。どうですか、ウォルターさん! 貴方も船は久々でしょう?」と、周囲に目を光らせる彼に話しかける。

「はい。大丈夫……です……」彼は遠くを見ながら頭を赤子の様に揺らしていた。

「……まさかウォルターさん……船酔いしています?」



 そこからの彼女らの航海は順調であった。2度ほど嵐に見舞われたが、水使いと風使いの実力者である航海士が乗っている為、貨物船は問題なく航行し、半月ほどでイモホップ国の港へ辿り着く。

「この国に降りるのは久々ですねぇ! 渇いた風に、容赦のない日差し……う、酷い目に遭った事を思い出しました……」と、汗を拭いながらため息を吐く。

「ここから船を乗り換えるのだったな。ヤオガミ行きの貨物船か。魔王軍とこの国は貿易をしているのか?」ロザリアは自分達が乗る船を眺めながら首を傾げる。

「ラスティーさんが言うには、イモホップ王はヤオガミの国民に罪は無い、と……今迄の関係を続けているそうです。積み荷は食料などらしいですよ」と、エレンが口にしながら近場でしゃがみ込むウォルターの背中を摩る。「大丈夫ですか?」

「す、すみません。醜態をお見せして……その、あれに乗るのはもう少し待ってからじゃだめですか?」顔を真っ青にしながらウォルターが泣きそうな声を漏らす。彼は3日で倒れ、それから殆どエレンの看病を受けていた。

「アレが出るのは今夜だから、半日は陸で準備ですね」そんな2人の背後で、スカーレットは身体に微電流を纏いながら準備運動をしていた。

「私はもう乗らせて貰おうかな。船内がどういう作りになっているのか確かめたい」と、意気揚々とヤオガミ行きの船へと搭乗する。

「元気ですねぇ、スカーレットさんは……」

 その日の夜、4人は貨物船に乗り、イモホップ港を出発し、ついにヤオガミ列島へと向かった。



 エレン達の旅立った討魔団本部は、少々寂しさの色が見え隠れしていた。彼女のいた診療所はリンが運営していたが、エレンのセラピーに救われていた者らが浮かない顔を見せ、彼女の帰りを今か今かと聞きに来ていた。

 戦闘訓練を行う者らも、ロザリアやウォルターが不在なため、技術や訓練方法を学ぶ事が出来ず気落ちしていた。そんな彼らに向かって車いすに乗ったキャメロンが激を飛ばし、彼らの尻に火花を飛ばす。

 グレーボン海域でジェットボートを奔らせるニックも、いつも隣にいるスカーレットがいない為、少し調子が狂っている様にため息を吐きながら酒瓶に手を掛けたが、彼女から注意されたミシェルが彼の手を掴む。

「操縦中の飲酒はやめてください!!」

「お、おう……」

「……? なんかいつもと調子が違いますね?」

「いや、いつもならスカーレットが俺が手を伸ばした瞬間に踵で踏んづけて来たからさ……いつ戻ってくるんだか……」

「……? つまり、踏んづけて欲しいんですか?」ミシェルは立ち上がりながら首を傾げる。

「いや、そういう意味じゃなくて! まぁ、わかった。酒はやめておく」と、腕を操縦桿へ戻す。

「成る程……寂しいんですね?」

「そうじゃねぇって! ただ、普段の仕事に差し支えが……いや、君がいるからまぁ、でも……」と、舌が縺れた様に口元を歪め、咳ばらいをする。

「……次、酒瓶に手を伸ばしたら、踵を落としますね」と、ミシェルは甲板での見張りへ戻って行った。

「だから違うって! 誤解すんなよ!!」と、声を荒げながらも寂しそうな表情を覗かせて俯く。「スカーレット……ビリアルドが命がけで助けたんだ……無駄死にするんじゃねぇぞ……」

 そして、ラスティーは指令室で煙草を燻らせながら目の下を黒くさせていた。部屋にノックの音が響き、レイが入室する。

「失礼します。キーラの軍がバンガルド国へ入りました。我々も向かい、同盟の手筈を……」と、手にした書類から目を上げ、彼の顔を見る。

「……レイぃ……エレンが行った今、本音を離せるのはお前かキーラぐらいか? アリシアらはまだ戻らないし……」と、震えた手で煙草を灰皿へ押し付ける。

「……やはり、きついですね。少なくとも3か月は不在になるわけですから」

「さんかげつ……言わないでくれ……長すぎる」と、手すりを強く握りしめる。

「その気持ち、わかります……」

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