71.ロザリアと故郷
グレーボン海岸では、あらゆる商船が集結し、港へ出入りしていた。それらの船を取り締まるのが、討魔団の船団であった。その中で火を噴きながら、一際早く奔るボートがあった。
それは運び屋ニックが操縦するジェットボートであった。その船首には紅色のガントレットを嵌めたスカーレットが腕を組んで座禅を組んでいた。彼女らはグレーボン海沖をパトロールし、商船を襲う海賊船と戦い、追い払っていた。
「なぁ、俺らは運び屋なんだぞ? なんでこんな事をしなきゃならないんだ?」ニックは納得いかない様に口を曲げる。
そんな彼の隣にはミシェルがぐったりとした顔で座っていた。
「修行の一環と、海の平和の為ですよ」
「っても、討魔団も何隻も船を所持して、沖をパトロールしているんだぜ? 何も俺らがやらなくっても……」
すると、その話を聞き付けたのかスカーレットが甲板から降りてきて、彼の後頭部を蹴りつける。
「いっでぇ!!」
「そんなんだから、あんたはダメなのよ!! あたし達はまだまだ強くならなきゃいけないんだから!! ね? ミシェル!!」と、腕を掲げる。
「はい! でも、少しは休息をとらなきゃ……」ミシェルは眠たそうに椅子に身体を預け、瞼を閉じようとする。彼女はスカーレットと共に3日3晩、海上で戦い続け、体力は底を付いていた。
「休息の間は瞑想! ヴレイズさんから教えて貰ったでしょ?」と、スカーレットはミシェルの首根っこを掴み、甲板へ上がっていく。
「はいぃ……」
「厳しいなぁ~ これ以上悪化する前に、俺は寝る」と、ニックは操縦桿に足を掛け、そのまま眠りにつく。
それから数日後。
ロザリアがヤオガミ列島へ向かう話を聞き付けたスカーレットは、早速、旅の準備を進める彼女の元へと向かった。
そこにはエレンとウォルターもおり、必要最低限の荷物と装備を整え、ヤオガミ列島についての情報を整理していた。
「上陸するのは西部のオオガミ湾から、魔王軍の貨物に紛れて潜入ですね」エレンは彼女らの前で説明し、2人はメモを取っていた。
「あのぉ! 私も行っていいですか!!」スカーレットは彼女らの前に出て声を張った。
「あまり多くいくのは……出来れば私ひとりで行きたいところなのだが……」と、苦そうな顔をエレンらへ向けるロザリア。
「ダメです!! そんなひとりでなんて!!」エレンは大声で唸り、彼女を睨み付ける。
「俺も、賛成できません」ウォルターも立ち上がり、エレンの隣に立つ。
「……と、いう訳だ。これ以上、増やしたくないんだ」苦々しそうにロザリアは口にし、頭を下げた。
「それでも、私は付いていきたいんです! ロザリアさんと共に戦い、自分を高めたいんです!!」両拳を握り、力説する。
「……ただ故郷へ帰るわけではないんだぞ? 魔王軍の新兵器を破壊するのが目的だ。それに、あわよくば……」と、ロザリアは己の拳を見つめ、何を想うのか目を瞑る。
「お願いします! 言われた事は何でも聞きますので、どうか!!」スカーレットはプライドを捨てて両手を地面につけ、頭を下げる。それだけ、彼女はロザリアの強さに憧れており、慕っていた。
そんな彼女を見て、エレンは微笑ましそうに笑い、彼女に歩み寄った。
「いいじゃないですか、ロザリアさん。なんでも言う事を聞くっておっしゃいましたよね? では、この荷物を持ってもらいましょうかね?」と、自分の用意した大鞄を取り出し、スカーレットの前に差し出す。
「あ、はい!! お任せください!」彼女は言われるがままにエレンの荷物を体中にひっかけ、よろよろと歩く。
「そう言えばミシェルは? 彼女はいいの?」
「あぁ、彼女はニックと2人で今まで通りの仕事を……」と、口にしながらスカーレットは荷物を運んだ。
「あ、あの……ま、いいか」エレンのペースに乗せられたロザリアは、呆れ顔でため息を吐いた。
そんな彼女を見たウォルターが優しく肩を叩く。
「エレンさんがいうなら大丈夫です。それに、人手は多い方がいい。今回の作戦には少なすぎる程なんですから」
「私の我儘に付き合わせてすまない。しかし、必ず目的は果たす! そして……故郷を!」
その後、4人はラスティーのいる指令室へ向かい、最後のミーティングを行った。彼の隣に立つレイが淡々と資料を読み進める。
「ヤオガミ列島は今や魔王軍の管理下にある。軍も城も街も村も、全てな。指揮をするのはウィルガルム機甲団と呼ばれる精鋭だ。数は4人。いずれも、魔王軍新兵器を身に纏う超人だ。そして、彼らのリーダーが……」
「ウィルガルムですか!!」エレンは一歩前に出て表情を顰める。
ウィルガルムは3年前、自分を含めてアリシアらを半殺しにした憎き敵であり、超えるべき壁であった。
「いいや、ウィルガルムは本土でデストロイヤーゴーレムの組み立ての立ち合い中だ。リーダーは、ゼオという男だ。未確認情報だが、ウィルガルムの息子との噂だ」
「あの男の……息子……?」エレンは想像できないのか、冷や汗を掻き、拳を震わせる。
「そして、破壊目標である魔王軍新兵器は、ヤオガミ首都の大工場で作られている。なんでも、魔力製機械細胞を培養して作る、八つ首の龍らしい」
「まりょくせいきかいさいぼう?」ウォルターは噛まない様にたどたどしく口にする。
「ヴァイリーとウィルガルムの共同で開発した金属らしい。これを使用して作る機械は、魔力によって意のままに動かす事が可能らしい。しかも柔軟で粘り強く、破壊も困難だそうだ」
「そんな物をどうやって破壊を?」エレンは首を傾げ、ラスティーを見る。
ラスティーはただ煙草を咥えて煙を燻らすだけで、何も話さなかった。
「現地に協力者がいる。その者が破壊方法を知っているそうだ」
「その者とは?」エレンはもう一歩詰め寄りながら問う。
「現地の反乱軍……と言っても、軍と呼ぶには余りにも小さな勢力だが。彼らが魔王軍をスパイし、兵器の破壊方法を調べてくれている」
「その人たちと共に、戦えばいいんですね?」
「あぁ。で、ロザリアさんだが……」と、口にしたところでレイが一歩引く。ラスティーは煙草を吸い終わり、灰皿に叩き付ける。
「君は大丈夫なのか? 魔王軍に蹂躙された国を見て、黙っていられるか? 君たちの任務は飽くまで兵器の破壊だ。それ以上をする必要はない」
「……分からない。私の中で眠る記憶が起きたらどうなるか……しかし、国へ帰らなければ、ここで戦い続けるのも難しいと思う」彼女は震える手を見つめ、ゆっくりと握りしめた。
「その為に私が同行するのを忘れましたか? ご心配なく、ラスティーさん!」エレンは自信満々に胸を張った。
「頼んだぞ……そして、ウォルターも。行動範囲は、昔に修行をした地域とほぼ同じはずだ。覚えているよな?」
「はい、お任せください」と、ウォルターは敬令する。
「……で、スカーレット……君は実力を伸ばしている。ロザリアの背後を守れる様、頑張ってくれ」
「はい、もちろんです!!」と、彼女は元気よく声を上げ、拳を掲げて軽く雷を上げた。
「では、出発は3日後だ。それまで、十分に休んでおいてくれ」ラスティーは立ち上がり、4人の顔を眺めて頼もしく微笑んだ。
「はい!」と、4人は指揮官室を後にする。
エレンが出て行こうとすると、急に背中を丸めたラスティーが彼女の服の裾を摘まんだ。
「……なんですか?」
「ほんとぉに行くの?」先ほどの様子とは打って変わり、しょぼくれた子供の様な顔で彼女の呆れた表情を覗き込む。
「はい、もちろんです! 出発まで、たっぷりカウンセリングしますから、帰ってくるまで我慢してください!!」
「絶対に無事で帰ってくるんだぞ……エレン」
「ロザリアさんがいるんです! 大丈夫です!」と、2人は見つめ合う。
すると、その間にレイが入り込む。
「あの、俺のカウンセリングも頼めますか?」
「はいはいわかったわかった!!」と、エレンは急いで診療所へ戻り、2人のカルテを机へ出して、まずラスティーの話から聞き始めた。
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