38.お待たせ!
ガルバルオ平野での撤退がほぼ完了し、トール砦へと戻ったキャメロンの軍の者は、至急迎撃準備をするように副司令官エディに進言する。
「キャメロン達は戻っていないようだが……まさか?」
「我々を無事帰すように殿を……」隊長のひとりが不甲斐なさそうな表情で口にする。
「この様子だと、無事に帰ってこられなさそうだな……」と、考え込む様に唸る。
このまま援軍を出さなければ、討魔軍の主力たるキャメロンらを失う事は明白であった。
だが、援軍を出してもナイトメアソルジャーに対応できる者はおらず、ただ彼らを死なせに向かわせるだけかも知れなかった。
故にエディは即答できずに悩んだ。
更にラスティーの策では、今回の戦いの相手は飽くまでバンガルド軍であり、魔王軍の事は伏せてあった。この事がグレーボン国に知られれば、南大陸の強豪3カ国に同盟を結ばせる計画は頓挫する事となった。
「くっ……どうすべきか……」拳を握り込み、唸りながら考える。
すると、それを聞いていたエレンが前に出る。
「敵がこのまま砦へ顔を見せるなら迎撃。それまでは、我が軍から装備を整えた援軍を出して対応するのが良いかと……ラスティーさんは別の策も用意してあります。取りあえず、最善の対応を……」と、落ち着いた口調で進言する。
「お、おう……そうしよう。至急、準備をして出撃しろ!」と、彼らに命じる。
指令室から彼らが出て行った後、エディは深々と椅子に腰を下ろし、魂を吐き出さん勢いでため息を吐く。
「冷静な助言をありがとうよ……」
「あとは、皆を信じるしかありません。私に出来る事は、治療の準備だけです」と、エレンは会釈して重傷者の治療へと戻った。
「流石、この数年間ラスティー司令を支えた人だ。俺なんかよりも副指令してるな」と、エディは次なる一手の準備である筈のラスティーによるバンガルド国再訪問の準備を進めた。
「ただで……死ぬもんか……」キャメロンは己の肉体を焼き尽くす勢いで魔力を暴走させ、太陽の様な大きい炎魔法を収束させ、熱風を拭き荒れさせる。
その魔力を感じ取ったロキシーはナイトメアソルジャーの動きを止め、彼女の自爆をあえて見届けようと高みの見物を始める。
「ここまで爆発は届かないし、万が一届いても、私には効かない……無駄死にを見物させて貰うわよ。貴女の最期の花火を……」
そんなロキシーの考えは露知らず、頭に血を登らせた瀕死のキャメロンは限界まで魔力を溜め終わり、最後の力で赤熱化した胸の下の魔力を炸裂させようと限界を解く。
その瞬間、周囲の熱がウソの様に鎮火し、熱風が止む。
「自爆なんてさせるかよ!!」
彼女の決死の自爆を阻止したのはヴレイズだった。瞬時の機転で鎮火魔法をキャメロンに施し、彼女の想いを一瞬で吹き消したのであった。
「ぐっ……余計なま……ね……を……」と、言い残して彼女は目を開けたまま意識を失い、鼓動が一気に弱まる。
「死なせもしない!!」と、ヴレイズは彼女の手を掴み、自分の魔力循環をキャメロンの肉体に経由させ、心臓の鼓動に手を貸す。更に冷えゆく身体を温め、彼女の魂が離れない様に最善の注意を払いながら回復魔法を巡らせる。
しかし、彼女の傷口は闇魔法が蝕んでおり、治癒はしなかった。
するとそれに気付いたのか、エルが続いて光魔法を彼女に浴びせ、闇で染まった傷口を浄化させようと試みる。
が、その傷は深く、闇が色濃く蝕んでおり、彼の光魔法では癒せなかった。
「くそ……くそぉ!!」と、周囲のナイトメアソルジャーを盾で殴り飛ばし、何とか体術で対抗する。
「退くぞ!!」と、ヴレイズは火炎球を周囲にばら撒く。その一つ一つが凄まじい爆発を起こし、ナイトメアソルジャーの半数を一気に蹴散らす。
それでも敵の追撃は止まらず、闇の軍団は全身を続けた。
「頑張るわねぇ~ でも止まらないわよ? このままトール砦も落として、一気にお仕事を終わらせましょう」と、ロキシーが腕を掲げる。
すると、バラバラに散開していたナイトメアソルジャーたちが一気に地面へ飲み込まれていき、一瞬で地面から整列した軍団が生えてくる。
「ぐっ……勘弁してくれ……」と、ヴレイズはキャメロンとエルを脇に抱え、火炎跳躍し、後方で気張っていた光魔法部隊と合流する。
「無事か?」
「はい……なんとか光魔法で迎撃し、被害は抑えましたが……もう魔力切れです」
「俺も、さっきので……」と、エルは顔色を青くさせながら口にする。
「わかった……俺がひとりでここに残る。お前らは怪我人を連れて引け」と、ヴレイズは赤熱右腕を更に火炎噴射させて気合を入れる。
しかし、彼の体力はかなり削れ、魔力循環も乱れており、ひとりで先ほどの様な戦いを続けるのは不可能であった。
「しかし、ヴレイズさんは……」
「俺の事は心配するな。何とかする……それより、キャメロンを死なせるな!」と、自分の魔力を流し込み、砦に到着するまで持つように延命魔法を流し込む。
「は、はい!」光魔法部隊は敬礼し、撤退しようと回れ右をする。
すると、彼らは一気に泣き出しそうな顔を作り、何人かが腰を抜かした。
なんと、逃走路にもナイトメアソルジャーが1000体ほど配置され、目を赤くして直立していたのであった。
「なんだとぉ?」ヴレイズは冷や汗を掻き、膝を付きそうになり眩暈を起こした。
「逃がす訳がないでしょう?」ロキシーは勝ち誇った笑みを覗かせた。
その頃、バンガルド国内では別の騒ぎが起きていた。黒いドラゴンが上空を舞い、各地の村を襲撃していた。ひと吹きで村を焼き払い、甲冑を着こんだ戦士をも一瞬で消し炭へと変えた。
バンガルド王はこの報を聞き、すぐさま兵をドラゴン討伐へ向かわせるように命令を下した。
が、しかし兵の半数以上はグレーボン攻略の為にロキシーに貸し出していた。
「いつこの城下へ来るかわかったモノではない! 早く守りを固めるのだ!!」と、バンガルド王は取り乱した。
ロキシーは獲物を目の前にした猫の様に唸り、手を動かした。それを合図にナイトメアソルジャーはゆっくりと全身を始め、両手の武器から物騒な音を立てる。
「あの人の技を借りるか……」と、ヴレイズは気合を入れて赤熱右腕を地面に突き刺す。すると、正面に火炎の壁が聳え立ち、津波の様にナイトメアソルジャーへ向かって襲い掛かった。これは炎の賢者ガイゼルが使った技であった。
しかし、その火炎津波は地面から生えた巨大な二本の腕により掻き消され、一瞬で鎮火する。
「なにぃ!!?」
「そんな小技、簡単に吹き消せるわ」得意げに高笑いするロキシー。
「くそっ……終わりか……」ナイトメアソルジャーが鼻先まで迫り、ついにヴレイズが諦めた様に奥歯を鳴らす。
そんな地獄絵図の遥か西の空がキラリと煌めき、一筋の光が流れ星の様に奔る。その光はトール砦上空を通過し、ガルバルオ平野目掛けて飛来する。
そして、その光は速度を落としながら低空を飛行し、絶望するヴレイズ達の目の前にゆっくりと降り立つ。
「お待たせ!」
その者は金色の長髪と半透明のケープ、スカートを靡かせながらゆっくりと降り立った。
「……あなたは……? ……え? あ?」その者の顔を見た途端、ヴレイズは目を丸くし、喉を詰まらせながら髪を逆立たせた。
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