37.折れる炎翼
キャメロンには勝算があったため、ナイトメアソルジャーの群れを掻き分け、薙ぎ倒し、ついに闇の軍団長の前へ降り立った。
彼女は密かに、ロキシーの戦力を調べ上げていた。クラス4の大地使いには何が出来て、何が出来ず、どんな弱点を持っているのか、くまなく調べ上げていた。
大地使いが数千の泥人形を操る際、凄まじい魔法と魔力、精神力も必要である為、他の攻撃魔法は使えなかった。
故に、3000のナイトメアソルジャーを操っている間であれば、ロキシーを討つチャンスが出来るとキャメロンは確信していた。
「さぁ、お別れを言うのね……」と、キャメロンは上空へと飛び立ち、脚に火炎魔法を纏う。
彼女は数年前、仲間たちと共にバルバロンでナイトメアソルジャーと交戦し、成す統べなく逃亡した。その際、国を奪われて滅ぼされた屈辱、仲間を殺された恨み、そして明らかに蹂躙を楽しむ様に微笑むロキシーの顔を忘れる事が出来ず、キャメロンは今の今迄、憎悪を滾らせていた。
そんな彼女を前にして、ロキシーは欠伸をしていた。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
キャメロンは滑空し、今までにない程に炎魔法を鋭く凝縮させた蹴りを放ち、ロキシーの脳天目掛けて放つ。轟音と熱風が吹き荒れ、ロキシーの前髪が揺れる。
「あんたみたいな小物は、飽きる程殺してきたわ」
と、ロキシーは手首を小さく動かす。
すると次の瞬間、大地の針山が眼前に現れ、キャメロンの肉体を貫く。
「なぁ!!」全身穴だらけにされ、目を剥く。
「私はそこら辺のクラス4とは違うの。限界を計り損ねた様子ね」
ロキシーは大地使いであると同時に、ネクロマンサーの秘術を使う事が出来た。ラスティーが掴んだ情報通り、この世に漂う魂を操り、それを泥人形に入れて固定していた。その為、操る魔力や精神力もいらず、いとも簡単に3000の軍を操る事が出来た。
その為、同時に大地の攻撃魔法を操る事も可能であった。
「いつもこの一歩ではき違え、殺されるのよ」串刺しにされたままのキャメロンの周囲を練り歩き、楽しむ様にクスクスと笑う。
「……っが……ぐぅ……」槍の様な大地棘を引き抜こうとしたが、手足にも刺さっている為、身動きすら出来なかった。
「安心しなさい。心臓を始めとした急所には一本も刺していないわ。でも、重症には変わりない……」と、手を掲げると同時に大地棘が引っ込む。
「ぐはぁっ!!」引き抜かれた衝撃で大量出血し、吐血する。が、眼前にいる憎き仇に対する怒りを原動力にして、立ったまま堪えていた。
「頑張るわね……どこまで頑張れるか、見物ね」と、また腕を掲げる。
すると、巨大な拳が大地から現れ、キャメロンを殴り飛ばす。その威力で彼女の胸骨と肋骨を砕き、遥か後方へと吹き飛ばした。
「さ、その身体でいつまで遊べるかしらね?」と、指を鳴らす。
同時に追加のナイトメアソルジャーが再び現れ、目を真っ赤に染めて駆けだした。
「キャメロン?! 一体どうした?」血塗れで空を吹き飛ばされる彼女を見て、再び焦りを見せるヴレイズ。
しかし、彼はその場を動く事が出来ず、戦い続けた。1体でも多く倒す為、全力で赤熱拳を放ち、貫通力抜群の熱線で薙ぎ払う。
そんな彼でも徐々に削れつつあり、全身生傷だらけになっていた。
更に悪い事に、傷は少しずつ黒く染まり、魔力が徐々に弱まっていた。
「これが闇魔法か……くそっ」魔力循環の乱れを瞬時に整えるも、敵の矢継ぎ早の攻撃に少しずつ対応できなくなり、ついに脇腹を貫かれる。「ぐぁ!!」
「ヴレイズさん!!」勇気を振り絞り、前に出たエルが光魔法でヴレイズを蝕む闇魔法を打ち払い、ヒールウォーターをかける。
「お前は……」
「貴方がいないと、我々や背後の砦が危うい……それにキャメロンさんが! 俺は彼女を助けに行きます!! ヴレイズさんはここで頑張ってください!!」と、彼は剣と盾を構え、光魔法を撒き散らしながら突き進み始めた。
「あいつ、なかなかの判断力だな……だが、この無茶ぶりはキツイな」と、溜息を吐きながらも、瞬時に炎の回復魔法とヒールウォーターを絡ませて傷を完治させ、魔力循環を完璧に整える。
「だが、どう切り抜けるか……」
ロキシーに殴り飛ばされたキャメロンは、漆黒の軍団の上空で再び炎翼を広げる。空を舞いながらナイトメアソルジャーに襲われない様に滞空する。
「くそ……そう言う事か……故に無敗か」と、ヒールウォーターを飲み下し、全身に空いた傷を回復させる。
しかし、治り切る前にナイトメアソルジャーが数人跳躍し、キャメロンを叩き落とすために攻撃を仕掛ける。
「ぬぐっ!」上手く滑空するも、身体の傷の痛みで魔力循環が乱れ、そのまま下へ下へと落ちていく。
そして、3人のナイトメアソルジャーに襲われ、まともに迎撃できずに攻撃を避ける事しか出来なかった。
「くそっ!!」炎の翼を振り回し、火炎礫を撒き散らしたが、ナイトメアソルジャーには効かず、無駄に終わる。
「彼らには恐怖もなく、疲れもなく、痛みも知らない。故に怯むこともなく、攻撃を続ける。さぁ、貴方たちは生き残れるかしら?」
ロキシーは楽しそうに微笑み、笑い声を漏らしながら口にした。
そんな中、傷の痛み、疲れ、死の恐怖に心臓を掴まれたキャメロンは肩や太腿を貫かれ、治りかけた傷を抉られる。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」膝を折りそうになるも、止まった瞬間に待つのは死である為、彼女は必死になって動き続ける。
が、逃げ続ける事はできず、大槌の様な一撃が顔面を捉え、大地に血塗れで転がる。
「……く……ぁ……ぁ」意識を失いかけ、目を剥く。
そんな彼女の元へ、満身創痍になったエルが駆けつける。
「生きていますか!!」と、ナイトメアソルジャーの槍の様な一撃をボロボロの盾で防ぎ、尽きかけた魔力で光を放って怯ませる。
「……何故、あんたが……」
「部下だからですよ!! さぁ、引きますよ!!」と、引き起こして肩を回そうとする。が、その隙を狙ってまた槍の様な一撃が放たれる。
その突きはキャメロンの鳩尾を捉え、貫く。
「っっっっば!!」夥しい量を吐血し、白目を剥くキャメロン。
「そんな! こいつ!!」と、エルは盾で相手を殴りつけ、剣で突き刺す。が、もう一体が駆け寄り、横っ面を大槌で殴りつけて吹き飛ばす。「ぐぇあ!!」
その一体はキャメロンにトドメを刺す様に、倒れ伏した彼女の背を大槌で幾度も殴りつける。彼女の肋骨は歪に折れ、曲がり、砕け、血が飛び散る。さらに腰を踏みつけ、ついには背骨を砕く。
その激痛に悶絶し、激しく痙攣するキャメロン。
仕舞には蹴り転がされ、彼女は観念した様に仰向け大の字に寝転がった。
ナイトメアソルジャーらはまるで死にゆく彼女を楽しむ様に囲んでいた。その目を通してロキシーはキャメロンを観察していた。
「精々後悔なさい……バカ娘」ロキシーは高らかに笑い、ナイトメアソルジャーの進軍を激しくさせた。
「……こんな奴ら、に……殺されて……たまるか……」
キャメロンは胸の内で魔力循環を無理やり高速化させ、自分では操れない程に高める。それと同時に肉体が悲鳴を上げる様に崩壊を始める。
「ボス……ゴメン……」
と、更に魔力を高め、周囲に眩い光を放つ。その炎は太陽の様に光り輝き、周囲の大地を少しずつ焦がしていく。
「魔力暴走で自爆するつもり? バカな娘……」察したロキシーはため息を吐いた。
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