36.ガルバルオ平野の戦い 後編

 キャメロンは炎の翼で舞い、空中からナイトメアソルジャーを数体蹴り潰す。彼女の蹴り足は炎と降下の勢いで威力を数倍に増強させていた。その為、柔軟且つ頑丈なナイトメアソルジャーの顔を一撃で潰す事が出来た。

 更に、蹴りの勢いで再び上空へと舞い上がり、また降下して蹴りを放つ。

 その戦いぶりを見て、ロザリアは安堵しながら大検を握り直す。

「いつにも増していい勢いだ。負けていられないな!」と、横薙ぎに一閃し、数十体のナイトメアソルジャーを斬り飛ばし、前へと進んでまた薙ぎ払い、一瞬で相手を土塊へと変える。

「凄まじく強い人だとは思ったが、まさかあそこまでとはな……」ヴレイズも負けじと全身に魔力を漲らせ、漆黒の軍団へ突っ込む。その瞬間、その場に太陽が現れた様に眩く光り輝き、火炎爆発を起こす。

 ナイトメアソルジャーには属性魔法は聞かないが、爆発の衝撃波までは防げなかった。故に、爆心地にいた者は跡形もなき消え去り、その周囲にいる者も手足を吹き飛ばされ、灰燼と化した。

「あの3人、化け物ですか……?」光魔法部隊の先頭に立つエルは冷や汗を掻きながら手を震わせる。

 その3人が打ち漏らしたナイトメアソルジャーの数名に光を浴びせて闇を打ち払い、脆くなったところを一気に叩き潰す。

 この戦いは先ほどの様な圧倒的なものではなかったが、防衛ラインから敵を一体も漏らさず防ぐことが出来た。

「よぉし……このままロキシーを討つ!!」と、キャメロンは目の色を変えて前進を始める。

 それを察知して、十数体のナイトメアソルジャーが彼女を追うように跳ぶ。

「お前ら何人いても、あたしは殺せない!!」と、邪魔な敵を踏みつけ、回転蹴りで粉砕し、手刀で真っ二つに引き裂く。

 が、倒された傍から砕けた身体を瞬時に再生させ、ナイトメアソルジャーは再びキャメロンを追撃した。

「鬱陶しい連中だなぁ!!」



 遠くの戦いを眺めるロキシーは余裕な表情で腕を組んだままその場に佇んでいた。

「存外に頑張るじゃない。こんなのは何年ぶりかしらね?」と、手首を回しながら口にすし、遠くの火炎爆発を見て、口笛を吹く。

「あれはヴレイズ・ドゥ・サンサ……ウィルガルムが半殺し以上の目に遭わせて再起不能とか言っていたけど……見事に復活しているじゃない」と、興味深そうに観察する。

 次に、自分に向かって飛んで来るキャメロンを目の端で捕え、鼻息を鳴らす。

「あいつは……討魔団のエースのキャメロンか……大した事ないから別にいいわ。それより……」と、次の瞬間、ナイトメアソルジャーが真っ二つに斬り飛ばされ、勢い余った土塊が足元まで飛んで来る。

「あれがロザリア……紅鎧の戦士と名高いけど……どこかで見たことがあるのよね、あの感じ……少し確認しようかしら」ロキシーは腕に魔力を纏わせ、ロザリア周辺にいるナイトメアソルジャーに別の命令を与えた。



「ん? なんだ?」周囲の変化を感じ取り、大剣を構え直す。

 彼女の前後左右にいるナイトメアソルジャー達は様子を見る様に彼女の間合いの外側で手足をくねらせていた。

 すると、ナイトメアソルジャーたちは次々に崩れ落ち、小さな虫へと変わっていく。その一匹一匹は蜘蛛の様に這いまわり、一斉にロザリアに襲い掛かった。

「何だと!!」と、大剣を振り下ろし、衝撃波を炸裂させる。

 しかし、その一撃は半数しか吹き飛ばす事が出来ず、残った闇蜘蛛たちは彼女に纏わりつき、埋め尽くした。鋭く細長い手足を鎧の隙間へ滑り込ませて突き刺していく。

「んぐぅ!! このぉ!!」ロザリアは魔力爆発と気合で張り付いた闇蜘蛛を吹き飛ばすが、全ては吹き飛ばせず、数百匹の小蜘蛛は鎧へ潜り込み、彼女の肉体を食い荒らしていく。

「くぅ!! こうなったら……っ!!」と、身体の雷魔法を炸裂させて深紅の鎧を一瞬で脱ぎ、インナー一枚で上空へと逃げる。身体に噛みついた数匹を引きはがし、やっとの思いで闇蜘蛛から解放される。

 更に着地と同時に大剣を地面へ突き刺し、再び衝撃波で周囲を爆裂させる。



「あいつ!!」ロザリアの素顔を見たロキシーは、ここで初めて仰天して目を丸くする。

「間違いない、アスカだ!! 何故こんな所に? いや、娘? の筈がない! あんなイカれた奴が子を産むなんてありえない! 第一あいつのお腹は……」と、注意深くロザリアの身体を観察する。

 彼女の身体に刻まれた数々の傷を見て、思い出す様に唸る。

「腹の傷に右腕の痕……間違いない、アスカだ! 生きていたなんて……でも、あの感じ、記憶がないのかしら? てか、あの頃のままってどういうこと?」ロキシー納得いかない様に唸り、考え込む様に俯く。

「まぁいいわ……あいつは手土産にしましょう。ウィルガルムが喜ぶわ」と、再び腕に魔力を纏わせて、ナイトメアソルジャーにまた別の命令を与える。



 ロザリアの周囲にいるナイトメアソルジャーがまた姿を変える。小蜘蛛の集団が密集して繋がっていき、今度は大蛇へ姿を変える。

「中々芸達者だな……」と、大剣を斬り上げ、大蛇を縦に斬り裂く。

 しかし、大蛇は真っ二つになりながら2匹の大蛇へ姿を変え、襲い掛かる。

「何?!」と、狼狽し、再び大剣で横薙ぎにする。

 その隙に1匹が彼女の腕に巻き付く。その締め付けは凄まじく圧迫する。

「この!」と、また隙を曝した瞬間、周囲の数十匹の蛇と蜘蛛が一気に襲い掛かり、全身を覆い尽くす。両手足や胴体に大蛇が絡みついて締め上げ、その間に小蜘蛛が張り付いて噛みつく。

「ぐぁ……くっ……む……」首を締め上げられ、流石のロザリアも意識を白く染め、膝を折る。大剣だけは握ったままうつ伏せに倒れ、そのまま動かなくなる。

 すると、子蜘蛛たちは彼女をそのままロキシーのいる方へと運んでいった。



「ロザリア!!」彼女の危機に気が付いたヴレイズはすぐさま飛んでいこうと構えたが、その隙にナイトメアソルジャーが数十体すり抜けていき、背後の光魔法部隊へとなだれ込む。

 流石の彼らでも一気に数十体を相手にする事が出来ず、兵たちは少しずつ削れていく。

「くっ……!」歯痒そうにヴレイズは戻り、赤熱拳を放って一瞬で消し飛ばす。

「大丈夫か?!」

「くっ……2名重症、1名死亡……」と、左腕を負傷したエルが奥歯を噛みしめる。

「手当てを頼む。もうこれ以上、討ち漏らす気はない!」と、ヴレイズはナイトメアソルジャーへ向き直り、再び突撃する。

「無力だな、俺……」エルは怪我人の手当てを始めながら悔し気に表情を歪めた。



 その頃、キャメロンは襲い来るナイトメアソルジャーを次々と薙ぎ倒し、着実にロキシーのいる元へと進んでいた。

 彼女の放つ攻撃の全ては火炎による推進力で強化され、鋭さを増していた。

「あと少しぃぃぃぃぃ!!」キャメロンは眼を血走らせ、3体同時に首を薙ぐ。

 そんな彼女を目の前にして、ロキシーは相変わらず涼し気な表情で微笑んでいた。

「アスカを確保っと……あとは全滅させて、そのまま砦を落としますか」

「ロキシィィィィィィィィィ!!」ついにキャメロンは彼女の眼前に立ち、火炎を滾らせる。口から火を噴く勢いで呼吸を荒げ、背中の炎翼を一掃巨大に伸ばす。

「あら、よくここまで来られたわね。私の前に立ったのはこれで3人目かしら? その中でよわっちいけど」と、キャメロンの目を見ないままに口にする。

「そんなあたしに今から殺されるのよ。どんな気分かしらね?」と、殺意の籠った炎を纏わせ、舌なめずりする様に一歩ずつ歩む、

 そんな彼女には何故か、ナイトメアソルジャーの追撃は不思議と無かった。

「身の程を知りなさい、小娘……」


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