28.ヴレイズVSロザリア

 ヴレイズとロザリアは本拠地内にある武闘台に立つ。この場は仲間たちの中で諍いが起きた時に使われる、盛大に喧嘩をして良い場所であった。

 そこへ噂を聞き付けた者達がこぞって集結する。その中にキャメロン達もおり、最前列に座り、酒片手に観戦していた。

 更に、ヴレイズの到着を聞き付けたケビンもやって来て、最後列で腕を組み、武闘台の中央を見つめる。

「ラスティーさん! どういう事ですか?」慌てた顔でエレンが駆けつけ、ラスティーの正面に立つ。

 ラスティーは余裕な顔で煙を吐きながら彼女の肩を叩く。

「ロザリアさんがな、共に戦う者を見極めたい、と。あの人があんな風に言うなんて初めてだな」

「……本当に……あの人が自分から……」エレンは驚いたように目を丸くし、武闘台へ向き直る。

 2人はまだ動く様子を見せず、じっとその場で立っていた。ロザリアに至っては、大剣も鎧も身に付けていなかった。

「もう始めていいのか?」ヴレイズも魔力を纏わぬままに問いかける。

「いつでも」ロザリアは目を開かず、腕を組んだままに応える。

 そんな2人を観るキャメロン達は、どちらが勝つか話し合っていた。

「やっぱりロザリアさんじゃないか? ウチの軍ナンバーワンの実力だし」ライリーが酒片手に口にする。

「だが、あのヴレイズって奴は六魔道団のウルスラを倒し、更にあのパトリックと渡り合ったとか……賢者級の化け物なのかもな」ダニエルは静かに口にし、久々の酒の味に唸る。

「俺はロザリアさんが勝つと思います!!」彼女の強さを良く知るローレンスは巨大なサンドイッチを片手に唸る。

「……サンサ族のヴレイズ、か……」同じ炎使いであるキャメロンは、彼の魔力の練り上がり方を感じ取り、身震いしていた。同時にロザリアの強さも一番知っている為、この戦いの予想がつかず、一番頭を悩ませていた。


「さて、いくぞ!!」


 大地が震える程の掛け声と共にロザリアは魔力を爆発させ、周囲に放電する。

すると、遠くに置かれていたロザリアの装備一式が飛来する。

 それを合図にロザリアは上空へと飛び、紅の鎧を一瞬で装着し、大剣で斬りかかる。その一撃は模擬戦闘で見せるべきではない、実戦の振りであった。

 ヴレイズは眉ひとつ動かさず彼女の攻撃を待ち、大剣が触れる直前、左手でその一撃を受け止める。彼の腕は切断される事なく、無傷のまま大剣の側面を捉え、刃がギリギリ当たっていなかった。代わりに周囲に突風の様な衝撃波が撒き散らされ、今迄皹ひとつ入らない程に頑丈だった武舞台に大きな皹が入っていた。

「あの一撃を止めたぁ?!!」観戦していた者が一同仰天し、声を上げた。

 彼女の強さは揺るぎなく、大地の賢者とも正面から渡り合った実力の持ち主であった。

 そんな彼女の絶対の一撃が呆気なく止められたのであった。

「すっげ……」凄まじい一撃を受けたヴレイズは驚いたように口にする。

「流石だ……あの大地の賢者にも匹敵する……」

「そうかな……?」と、彼は俊足で一歩前に出て肘内を放つ。その一撃は彼女の脇腹を捉え、衝撃が背後へと突き抜ける。

「んぐっ……!」不意の一撃に怯み、膝が崩れる。

「彼女が崩れた!!」また観戦者たちが騒ぐ。どんな攻撃も正面から受け止め、怯むことの無かった彼女がたったの一撃で崩れたのを目にし、皆が我が目を疑う。

「悪いな、あまり傷つけたくないんだ」ヴレイズはそう言いながら一歩後退する。

「……貴方の本気を見たい」未だに残る脇腹のダメージを堪えながら立ち上がり、大剣を背負い、構える。

「俺の本気?」

「私は本気でこの場に立っています。貴方の強さを知る為に。だから、見たいのです」と、雷光を蓄えた瞳を輝かせる。

「わかった」と、ヴレイズは赤熱右腕をにょきりと生やし、徐々に赤々と燃やす。

 すると、彼の周囲に突風が吹き荒れ、右腕から凄まじい熱が放たれ、空気が歪む。

「この場で、赤熱拳を放つ気か……」久々に彼の戦いを目にするラスティーは、懐かしむ様に口にする。

「ロザリアさん……もう戦えるコンディションじゃないのに……」今のエレンは目で見ただけでその者の体調を伺い知る事が出来た。

 ロザリアの体調はたったの一撃で著しく崩れ、体内の魔力循環バランスが崩壊し、立っているだけでやっとだった。


「さぁ、見せてみろぉ!!」


 ロザリアが力強く吠えると、同時に彼女の眼前が燃える太陽の様な拳で埋め尽くされる。その熱量と魔力はこの場にいる者全てを消滅させるほどの凄まじい威力を持った、赤熱拳であった。

「うぁああああああああああああああああぁ!!!」ロザリアは大剣を渾身の力で振り、灼熱の拳を真っ二つに斬り裂こうと試みる。

 しかし、刃は虚しく弾かれ、彼女は拳に飲み込まれる。

「少しイヤラシイ勝ち方だったかな……?」と、ヴレイズは赤熱右腕を吹き消す。武舞台には炎は一片も残らず、ロザリアも火傷ひとつ負わず無傷であった。が、彼女の鎧は力なくガラガラと崩れる。

「……参った……」

「ロザリアさんが負けたぁ?!」再び武舞台周辺がざわつき、見る者は目を疑う。ある者はショックを受け、またある者はヴレイズの強さを讃える。

「うっそだろぉ……」ライリーとダニエル、ローレンスは声を揃える。

 しかし、キャメロンは慌てることなくこの戦いを分析し、納得した様に唸っていた。

「あの脇腹への一撃……呼吸と魔力循環の一瞬の乱れ、隙……それらが重なる瞬間に適度な力で打った……どんな経験を積めばあんな事が……?」

 周囲の視線をよそに、ロザリアは大量に冷や汗を掻きながら尻餅をつき、大剣を手放す。

「どんな敵が来ても、倒されない自信があったが……」ロザリアは参ったように頭を掻き、未だに疼く脇腹を押さえる。

「……どうやったら傷つけずに終わらせられるか、それだけ考えての苦肉の策だった。実力はそこまで離れてはいない」と、ヴレイズは彼女に近づき、脇腹のダメージを和らげる炎の回復魔法を当てる。

「……貴方がどう言おうと負けは負け……だが、これで確信した。今回の作戦には、貴方が必要だ!」



 その後の夜。ヴレイズは司令本部へ呼ばれ、ラスティー達と共に卓を囲んだ。その内容は、もちろんナイトメアソルジャーとの戦いに備えての作戦会議であった。

「で、そいつらはどれぐらい強いんだ?」ヴレイズは難しい事は問わず、単純に相手の戦闘力について質問した。

 その問いにエディとレイは吹きだしそうになり、ラスティーは「相変わらずだな」と、笑いながら答えた。

「1体1体の実力はそこまででもないが……まず、不死身に近い耐久度だ。魔法の類は全て弾き、打撃斬撃でも怯まない。そんな連中が数千になって襲い掛かる」と、冷静に口にする。

「そんな連中を相手に、こちらはどれだけの数で?」

「キャメロンが率いる軍1500と、ロザリアさん、そしてお前だ」

「相手の具体的な数は?」

「収集した情報によると、最大で3000だ」

「3000? 倍じゃないか!」ヴレイズは目を剥き、仰天する。

「あぁ……だが、策はある。安心しろ」と、ラスティーは煙交じりに説明し、地図を指さす。



 ナイトメアソルジャーを誘い出す戦地であるガルバルオ荒野とは、道が大岩や木々、小高い丘で入り組んでおり、足場が悪かった。更に前もってここにいくつもの分断用の罠を仕掛け、戦場を制圧し、有利に進める。

 そうやって密集陣形でこそ戦力を発揮できるナイトメアソルジャーを塵散りにし、各個撃破していくというのが策であった。

 その間にディメンズが軍団長のロキシーを討つのが作戦であった。

「成る程……それなら、半分の戦力でもいけそうだな……」

「だが、不安もある。この程度の策なら、北でナイトメアソルジャーと戦った軍も思いつき、実行したと思うのだが……」ラスティーは悩む様に唸り、腕を組む。

「連中を相手にして勝った者は殆どいない。辛うじて生き残ったキャメロン達も、敵の戦力分析する余裕もなく逃げる事しか出来なかったからな……」と、エディが口を挟む。

「成る程……不安があるわけか」

「だが、まだ俺たちには勝算がある。キャメロンの部下に、エルってのがいてだな……」と、今度はレイが書類を卓上に広げ、不敵に笑った。

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