23.破壊巨人の影

「デストロイヤーゴーレムぅ?! 大層な名だが、一体それは?」資料をいち早く読み終えたダニエルは半笑いで口にする。

「全長30メートルを超える大巨人? 冗談だろ?」手渡された情報を信じられないのか、ライリーは鼻で笑う。

「マーナミーナでボスたちが戦った漆黒のゴーレムの事?」キャメロンは思い出した様に口にする。

「いいや。そういった、大地使いが錬成する泥人形とは違うらしい。兵器開発部のウィルガルムが中心になって建造される、機械仕掛けの巨人らしい。その名前がデストロイヤーゴーレムと呼ばれている」レイは淡々と口にしながら腕を組む。

「そんなデカいモノを作って、どうするつもりなんでしょう?」やっと情報を読み終わったローレンスが顔を上げる。

「そう、その目的がわからないんだ。そんなデカブツを作り、動かしたトコロで何になるんだ? ってね……魔王軍の事、無駄な事はやらないとは思う。しかも、関わっているのがウィルガルムだ。必ず何かあると思うんだが……」レイは難しそうに唸る。

「デストロイヤーと呼ぶだけあって、やはり無属性兵器を詰んであると思うんだ。近年、魔王軍は小国を亡ぼす威力のある無属性爆弾を開発したと聞く。それを打ち出すのかも……」エディはデスクに置かれた他の情報書類を手に取り、目を通し始める。

「で、その話とさっきのロキシーの話、何か関係があるの?」何かに勘付いたのか、キャメロンが問う。

 するとエディは立ち上がりながら口にした。

「そう。そのデストロイヤーゴーレム建造の為の物資をバンガルド国が提供したらしい。それがかなり重要な代物だったため、その借りを返す為にロキシーと言う魔王軍の最大戦力が出張ったわけだ」

「成る程……で、ボスの判断は?」

「ディメンズさんとウォルターを連れて、バンガルドへ向かった。グレイスタンの戴冠式よりも前に何通もバンガルド国王に手紙を送っていて、つい数日前に招かれた」レイは目を瞑り、溜息を押し殺しながら口にする。

「……え゛ぇ!! それって絶対に罠じゃない?! 殺されに行くようなものでしょう!!」キャメロンは仰天した様に答える。

「俺らもそう言ったんだけどなぁ……大丈夫、とか言いながらさ」エディは参ったように頭を押さえ、重たい溜息を吐く。

「ディメンズさんがいるからって、油断しすぎでしょ?! 全く……なんであたしを連れて行かなかったんだ?!」キャメロンは目を血走らせ、拳を震わせる。

 そんな彼女の前にレイが立ち、押さえる様に肩に触れる。

「とりあえず、留守の間は出来る事をするだけだ。だが、念のためにバンガルドとの国境沿いの国道でキャメロンとローレンスの軍は待機していてくれ」

「その命令は遅いくらいだ!! 何か少しでも騒ぎがあったら、国境を踏み越えてでも助けに行くから!! いくよ、ロース!!」と、彼女は止める声も聞かずに踵を返して指令室から出て行く。

「頼もしいんだが、あいつが火種にならなきゃいいんだがな……」エディとレイは顔を見合わせ、苦笑いを覗かせた。



 バンガルド国の首都バングオーズの城内の客間。ラスティー達は謁見の時間まで静かに待っていた。

「ディメンズさん、どうです?」ラスティーは彼の表情を伺いながら問うた。

「警備が厳重だな。風使いでガードを固め、俺でも潜入は難しい。この会話を聞かれない様に妨害するのが難しい程だ」と、口にする。彼は周囲の風魔法に気取られない様に己の妨害魔法で淡くガードしていた。

「やはりな……風の団リーダーのジーンさんでも難しいと言っていたからなぁ……」

「下手に小突くよりも、相手の動きを伺うしかないな」

「えぇ……」と、ラスティーはソファの背もたれに体重を預け、ネクタイを緩める。

「ボス……」部屋の出入り口で警戒するウォルターは、外からの殺気に反応する。

 それと同時にドアが開き、警備兵長が顔を出す。

「準備が出来ました。こちらへ」彼は天井に頭が付く程の大柄の男だった。殺気はその者から放たれていた。

「なぜ殺気が漏れているのかな? 俺らは招かれた客だぞ」ディメンズはソファから腰を上げながら口にする。

「警戒しているだけだ。我が国は、お前らを信用しているわけではない。敵国に肩入れするお前らを、な」と、ディメンズを睨み付ける。

「ま、穏やかに頼みます」と、ラスティーは微笑を浮かべながら警備兵長に付いて行った。

 


 玉座の間では、昼食を終えたバンガルド王が深々と座していた。

 ラスティーはそんな彼の前で跪き、首を垂れる。ディメンズとウォルターも彼に続く。

「お前が噂の西大陸同盟の立役者か。更にグレイスタンの戴冠式を成功させたとか? 大層な活躍だな」と、食後の酒を片手に口にする。

「お褒めに預かり光栄です」

「で、手紙にもあったが……同盟に我が国も加えたいと? だが、情報ではお前はグレーボンに転がり込む際、あの国王を西と南との同盟の立役者とする条件を出したとか?」

「間違いありません」反論せず、あっさりと認めるラスティー。

「それが気に入らん。私はあの国を潰し、土地を手に入れたいのだ」王は脚を組み、グラスの中の酒を転がしながら口にする。

 バンガルド国は南大陸の内陸に位置する国であり、北と西に広がるグレーボン国が邪魔で仕方が無かった。南はロックオーン国が、そして東は元ランペリア国があり、海に出る事が出来なかった。ゆえに海を目指してグレーボンと戦うしかなかった。

 それ故、東の瘴気地帯を抜けてやって来た魔王軍と手を組んだのであった。

「しかし、同盟を組めば……」

「グレーボンとは組みたくないな。過去に幾度も戦い、遺恨もある。100歩譲ってロックオーンとは組もう。だが、グレーボンとは万が一にもないな」と、訊く耳も持たずに口にし、酒を呷る。

「そうですか……しかし、」

「お前らが仲介し、海外と貿易できるように計らうとでも言うのか? 話にならんな」まるでラスティーが口にする事を読む様に先回りするバンガルド王。

「貴方の望みは、あくまでグレーボンの国土を、港を手に入れる事だと?」

「そう言う事だ。同盟の話は、それからだ」

「貴方の考えは理解しました」と、ラスティーは再び首を垂れ、玉座の間を後にする。

 そんな彼の背を見守った後、大臣が足早に近づく。

「如何いたしましょう?」

「……見張りを付けておけ。妙な行動を起こしたら始末させろ」

「今すぐにでも消した方がよろしいのでは?」

「あいつは西大陸との同盟の際に役に立つ。グレーボンを潰した後、必ずあいつは擦り寄ってくるだろう。その時、好きなように使ってやるつもりだ」と、王は微笑を浮かべる。

「かしこまりました」

「それから、ロキシー殿は……」



 城を後にしたラスティーらは、すぐさま馬車へ乗り、グレーボン国境へと奔らせた。

「情報収集は……出来ないな」車窓から顔を覗かせるディメンズ。首都からは国王軍以外からの殺気も感じ、珍しく彼は守りに入っていた。

「魔王軍の大物が来ているのは事実ですね。不穏な気配を感じました。それに、監視の目も……先ほどの警備兵長ですね……」と、ウォルターが気配の方へ顔を向ける。

「下手に威嚇しなくていい。まずはこれでいい……」と、満足げにラスティーが口にする。

「あぁ……で、次の手は」

「連中の協力者を引き摺りだし、撤退させる。ロキシーさえ追い出せば、バンガルド王は弱腰になるだろう。それに、ロックオーン国との交渉は着々と進みつつある。内陸で完全孤立すれば、同盟に協力するしかなくなるだろう」

「だが、ロキシーを何とかできなければ、ロックオーン国はバンガルドと手を組み、グレーボンを一気に叩き潰し、土地を分け合うつもりだろう。あの国はそう言う国だ」ディメンズは先を読む様に口にし、腕を組む。

「ここが分れ目だ……闇の軍団長には先走って貰うぞ」

「その為にデストロイヤーゴーレムの情報を握った事をワザと知らせたな?」ディメンズは彼の策を予想する様に口にする。

「あぁ……気を効かせて俺らの軍をピンポイントに狙ってくるだろうな。そこを返り討ちにし、撤退させる」

「で……? あの軍団長をどうやって倒す気だ?」

「そこは貴方にも協力して貰いますよ? 彼女のナイトメアソルジャーの弱点は握っています。そこを突けば……」と、ラスティーは自慢げに口にする。

「その弱点は向こうも承知している筈。相手を甘く見ない方が良い」

「わかっていますよ。その為にある男を呼びました。確実に勝つためにね」

「ある男? 誰だ?」

「ヴレイズ・ドゥ・サンサ……俺が知る中で一番優秀な炎使いです」

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