10.魔人復活

 突如として灼熱の塔から蒼い光が消え、蒼暗雲が晴れ、周囲に展開された防衛網が全て解除される。

 それを見たもう1人のリヴァイアの分身が眉を顰めながら塔へと近づく。

「終わったのか? この感じ……グレイが倒された様子だな……しかし」と、一歩一歩近づいていく。

 すると、まるで思い出した様に塔が激しく揺れ、東大陸全土を揺るがす様な地震が起こる。塔の周辺ではいくつも地割れがおき、大地が深々と割れ、化け物の口の様にばっくりと割れる。

「いや、始まったのか?! 急がねば!」と、リヴァイアの分身は身体を流動させて蛇の様に姿を変え、高速で塔内部へと向かった。



 塔の地下最深部の部屋中央にて、3種類の炎に包まれたミシェルが横たえられていた。彼女の鼓動に合わせて部屋が揺れ、設置された塔の動力源が光る。

「彼女の作るクリスタルと、この魔人の力……二つ合わせれば力は安定化し、この俺でも使いこなせるようになる……やっとここまで来た……」ジャルゴはヴレイズとグレイに背を向けながら高らかに口にし、肩を揺らして笑う。

「貴様の想う通りにはいかんぞ!」と、動かない脚を無理やり動かしながら間合いを詰め、掴みかかるグレイ。彼は急所を外しながらも胸から止めどなく出血しており、肩には封魔の弾丸がめり込んでいた。

「無理をするな」と、ジャルゴは前蹴りを彼の顔面にめり込ませ、壁まで吹き飛ばす。

「ぐぁっ!!」後頭部を強かに打ち、悔しさで顔を歪める。

「力を手に入れた暁には、魔人の力を持って貴様を焼き殺してやろう」自信たっぷりに笑い、今度はヴレイズの方へ顔を向ける。


「ヴレイズよ、知っているか? このグレイと言う男は、1年前に優秀な仲間の炎使いを次々に殺したのだ。ただ自分に逆らったからという、それだけの理由でだ!」


「なに?」ヴレイズは、驚きはしなかったが、落胆の色を濃くしながらグレイを睨んだ。

「確かに、こんな男が国の長では、長続きしないな。だから、俺が力を握る」

「お前の様な奴が上に立てるものか!」グレイは再び身体を無理やり起こし、肩の中から封魔の弾丸を抉り出す。蒼炎を腕に纏い、奔りだす。

「ガッツだけは一人前だが、忘れていないか? もうこの塔の主導権を握っているのはお前ではない」と、ジャルゴが壁に触れる。

 次の瞬間、この部屋の防衛装置が作動し、壁画の一部から熱線が発射される。

グレイの魔力循環はまだ巡り切っていなかった為、それを防ぐことも避ける事も出来ず、成す術なく熱線に貫かれる。

「がふっ!!」身体を捻り、ギリギリ急所を外したが、それでも重症に変わりなく、そのまま床に崩れ落ちる。

「そのまま倒れていろ。兄弟共々な」と、再び壁に魔力を流し込むジャルゴ。

 そのまま2人は炎の檻に拘束され、ジリジリと焦がされる。

 しばらくすると、ミシェルの手に3種類の炎が流動するファイアクリスタルが握られる。力なく手を離し、それをジャルゴが待っていたと言わんばかりに掴み取る。

「やっと出来上がったか!」と、自慢げに掲げ、早速魔人の力が封じられる動力源へ近づける。

 すると、背後からヴレイズが炎を纏いながら襲い掛かった。

 炎の檻を食い破り、封魔の弾丸を取り除いたうえで炎の回復魔法で癒し、十分に魔力を循環させていた為、万端の態勢であった。

「俺もやっと準備万端だ!」と、ヴレイズはジャルゴの腕を握り、焼き潰す勢いで握り込む。

「30秒遅かったな、ヴレイズ」と、ジャルゴが握っていたクリスタルから手を離す。

 次の瞬間、クリスタルは動力源へ吸い寄せられ、ひとつに交わる。同時に塔の揺れが激しくなり、部屋中が炎色に光り輝く。

「何?」と、目を丸くするヴレイズ。

「現在の塔の主はこの俺だ! つまり、この力は……」と、ジャルゴは爛々と光る目で動力源を見る。

それは暴走する様に炎を噴き上げ、その全てがジャルゴの目を通して入り込んでいく。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」彼は天井目掛けて咆哮する。被っていたフルフェイスヘルメットは砕け散り、彼の素顔は炎で神々しく光り輝いた。

「何?!」凄まじい魔力を感じ取った瞬間、炎の衝撃波で吹き飛ばされる。自分の放つ炎の波動でそれを掻き消そうとしたが、それを無視するような勢いのそれは凄まじく、ヴレイズは成す統べなく壁へ叩き付けられた。

 ジャルゴは意識があるのか、ヴレイズの方へと向き直り、腕を掲げた。彼の表情は光り輝いて発光している為、どんな様子か伺い知る事は出来なかった。

「焼き尽くしてやろう……」と、眩い紅紫色の波動を放つ。太陽光の様に降り注ぐそれは、熱線を超える恐ろしい温度で彼に襲い掛かった。

「ぬぐっ! うぉぉぉぉぉぉぉ!!」ヴレイズは魔障壁を張り、身体をガードした。が、それを一瞬で消し飛ばし、容赦なくヴレイズの肉体に纏わりつき、ゆっくりと確実に焼く。

 蒼炎を打ち払う要領で魔力を解放させたが、それでも紅紫炎は吹き飛ばず、じわじわと焼き尽くし、所々が真っ黒に焦げ、皮膚がめくれる。

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」と、ヴレイズは倒れたミシェルとグレイを抱え、部屋の出入り口へと向かった。

「……いいだろう。この恐怖を国中へ伝えるがいい! 炎の魔人ジャルゴ様の事をなぁ!!」と、彼ははしゃぐ様に部屋中に炎をばら撒きながら高らかに笑った。



 塔から出た瞬間、ヴレイズはリヴァイアの分身に呼び止められる。

「どうした? 炎使いであるお前がそんな酷い火傷を負うなんて……」と、彼の胸と腕に追った傷に触れる。その瞬間、全てを悟ったのか考え込む様に唸りながらもミシェルの傷を診る。

「紅紫の炎……冥界の絶対焦熱魔法って奴ですね。全力で防いで、やっとこの傷です」

「単純な破壊力だけなら、ガイゼル……いや、ヴェリディクトすら超えるかもな。この事態、本体が来なければならないかもな……」

「それは心強いですが、海の無い内陸では戦い辛いのでは?」

「賢者のサポートに何か不服でも?」と、目を鋭くさせるリヴァイアの分身。

「い、いえ……ん?」と、担ぎ下ろした筈のグレイが消えている事に気が付き、周囲を見回し気配を探る。「あの傷で……?」

「どうかしたのか?」ミシェルの瞳孔や呼吸を確認しながらリヴァイアの分身が問う。

「い、いえ……」これ以上彼女に威嚇されたくないヴレイズは閉口した。

「それより、この娘は危ないな……魔力、生命力が底を付いている。体内は焼け爛れ、生きているのが不思議なくらいだ」と、己の片腕の水分をミシェルの体内へ侵入させ、焼けた内臓を一瞬で回復させる。が、魔力や生命力事態を癒す事は出来ず、困ったように唸る。

「とりあえず、砦へ戻りましょう」ヴレイズは己の傷の痛みを堪えながら口にし、目を閉じたミシェルの顔を見る。「ちくしょう……」



 ヴレイズの油断を突いて逃亡したグレイは、元々自分がいた拠点へと戻る。全身から奔る傷の痛みよりも、魔人の力を横取りされた事に憤慨し、皹が入る程に大地を殴りつけ、炎を吹き上がらせた。

「ジャルゴめぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 俺は油断していなかった! だが……くそぉ!!」と、もう一発殴りつける。

 その衝撃で身体に空いた穴から血が噴き出て、激痛が脳天を貫く。

「ぐっ! くそぉ! 誰か、ヒールウォーターを持ってこい!!」と、拠点中に響く程の大声で誰かに命ずる。

 しかし、木霊するだけで誰も顔を見せなかった。

 何故なら、殆どの彼の部下は塔へ拠点を移し、残りはこっそりと軍を抜けて逃げてしまったのであった。

 つまり、現在のグレイはただ独りぼっちの炎使いであった。

「……フン、俺ひとりでもやってやるさ……」と、彼は傷を押さえながらテントへと入り、ヒールウォーターの瓶を探した。


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