7.蒼炎の防衛網を突破せよ!

 ヴレイズとミシェルは歩いて灼熱の塔へとゆっくり近づき、1キロ手前の地点で様子を観る。塔の半径500メートルは蒼炎が一面に広がっていた。

「これは……?」ミシェルは双眼鏡を覗きながら首を傾げる。

「ただの炎じゃないな……」と、注意深く眺める。

 するとそこへ、塔へ興味本位で近づく盗賊が現れる。彼らは当然、青い炎の特性を知らず、構わずに近づく。

 そんな彼らを察知してか、蒼炎が反応して人型を形作る。盗賊6人に対し、蒼炎の化身が20体ほど現れ、彼らを一気に消し炭に変える。

「地上の防衛魔法か……厄介そうだな」目を凝らして一部始終を観察したヴレイズはため息の後に苦しそうに唸る。

「あれでは近づけませんね。しかし、人型になって襲ってくるなら!」と、封魔石を仕込んだ剣を抜く。

「よせ、あの炎が一斉に襲い掛かるんだぞ? それだけじゃ無理だ!」


「で? どうする気?」


 2人の背後からリヴァイアの分身がぬっと現れる。彼女も蒼炎の防衛魔法相手には打つ手がなく、付近で潜伏していた。

「賢者の分身なら、少しはお知恵を拝借できませんかね?」ミシェルは少しイラついた様な口の利き方をしてみせた。

「分身故、出来る事は限られているし、あの炎は水魔法ではどうにもできないの。私が突っ込んでも、一瞬で蒸発させられるでしょうね。で、ヴレイズは何か思いついたのかしら?」と、彼の顔をワザとらしく覗き込む。

「蒼炎の特徴と対処法は掴んだ」

「あら早い。で、それは?」教師の様な口調でリヴァイアが口にする。

「サンサの炎だ。グレイは炎を焼き尽くすとか言っているが、その正体は『炎の主導権を握る』様なモノだった。掴ませない為に、別の同格の炎で対抗するしかない。ただ、普通の炎ではそれは出来ない」

「他属性で対抗は出来ないのかしら?」

「わからない、が……とりあえず俺はあの蒼炎をどうにか出来る」と、手の中に火球を作り出し、少しずつ魔力を練っていく。

「で、あの蒼炎の防衛網はどうするのですか?」ミシェルが急かす様に口を尖らせる。


「……2人とも、俺が合図したら全力で走ってくれ」


 ヴレイズは手の中の熱火球を更に光り輝かせ、塔入り口付近の蒼炎に向かって投げつける。火球は高速で飛び、蒼炎防衛網の中央で大爆し、塔への道が出来上がる。

「さぁ、奔るぞ!!」と、ヴレイズ達は一気に駆け出す。

「爆風で鎮火させたのか。それもサンサの炎を練り込んだ火炎爆発か……」と、リヴァイアの分身は空気中の水分に乗って2人よりも素早く移動し、あっという間に塔の内部へとたどり着く。

「ちょっと! 1キロも全力疾走しろってどんな無茶ぶりですか!?」魔力で身体を強化できないミシェルは息を切らせながら必死で走る。

 そんな彼女を見てヴレイズは優しく抱きかかえ、高速で飛ぶ。

 蒼炎は元の防衛網を作ろうと大波が打ち寄せる様に元に戻りつつあり、彼は間一髪で塔へとたどり着く。

「間に合ったぁ……」ホッとした様にヴレイズは彼女を抱きかかえたまま一息吐く。

「あの、降ろして下さい」



 ヴレイズらの塔侵入に気が付いたグレイは眉を顰め、感心した様に唸る。

「ヴレイズめ、あの防衛網を掻い潜ったか。流石だな。もう蒼炎の弱点を探り当てたか」と、壁画に手を置き、絵に込められた淡い魔力の中にある情報を読み取る。

 そんな彼の言葉を聞き、ジャルゴは急かす様に彼の隣に立つ。

「大丈夫なのか? いくら最強の防衛力を誇るこの塔でも、あいつに内部から暴れられたら……」

「安心しろ。この塔は我々の炎では破壊する事は不可能だ。何せ、炎の魔人の住処だからな。再度封印するしかない。それに……」と、何かを得たのか意味深な笑みを覗かせる。

「それに?」

「魔人の力を手にすれば、塔なぞどうでもいい」と、壁に魔力を込めて押す。

すると、地下深くに来ていた彼らの床が更に落ち窪み、地底深くへと自動的に下降する。

「これは……っ」ジャルゴは目を丸くしながらも指先に火を灯して視界を確保する。

「この先に魔人の寝室があるそうだ。そこに魔人の力が封印されているのだろう」

「まるで冥界への道だな」

「そうかもしれないな。炎の魔人は不死身であり、冥界に封印したとあった……」と、グレイは地下奥底にある扉を目の前にし、ニヤリと笑った。



 ヴレイズらは塔の中でグレイの指示を待っていた部下たちを一網打尽にし、彼の行方を問うていた。が、彼らは皆、持ち場を守る様に命令されていただけで、誰も知らなかった。

「使えない連中ね。それも弱く愚かな奴らばかり」と、最後のひとりを張り倒しながらため息を吐くリヴァイアの分身。

「誰か一人は知っているでしょう!? えぇ!? 答えなさいよ!!」と、ミシェルは額に血管を浮き上がらせながら相手の胸倉を掴んで勢いよく振る。

「まぁまぁ……ここは俺が探ろう」と、ヴレイズはグレイの魔力を辿る様に地面に手を付け、目を瞑る。

 彼の魔力の痕跡を辿り、壁画の前へ辿り着く。そこへ手を置くと、グレイの魔力と炎を色濃く感じ取り、彼の考えを手に取る様に覗く事が出来た。



 サンサ族集落がヴェリディクトの手によって消し炭にされたと言う報を聞き、グレイは急いで帰郷した。

 彼が戻ると、そこには真っ黒な大地のみが残り、未だに燻り匂いが立ち上っていた。

 グレイは村長や両親と対立し、サンサ族の温い仕来りにウンザリして集落を飛び出したが、心のどこかではやはり帰るべき場所として留めていた。

 いつの日か村長らを見返し、自分の考えを認めさせる為に修行の旅をしたが、この惨状を目にして己の無力さを認識し、絶望と深い悲しみを味わった、

 これにより、彼の力への渇望、執着は更に濃くなり、現在の彼に至った。

 そこから彼は自分の考えに賛同する炎使いを集め、力を蓄え、母国であるこの国に反旗を翻したのであった。



「グレイ……」彼の考えの一片を覗いたヴレイズは、共感する様に唸りながら壁画から手を離す。同時に塔の内部構造も少し覗いたのか、グレイらの向かった方へ頭を向ける。

「そっちですか? よし、早く行きましょう!!」ミシェルは我先に駆け出すが、それをリヴァイアの分身が止める。「なんですか!?」

「気配がする……何かいるな?」

「何が? まさかグレイ?!」と、剣を構える。

「いや、防衛装置は塔の内部にもあるみたいだな」と、ヴレイズも身構える。

 すると、暗がりの壁画から蒼炎が滲み出る。獣を象った壁画がゴロンと動き、合計5体ほどが壁から飛び出る。

 それは牙と爪を尖らせた獅子の様な姿をしていた。

「グレイの部下よりは骨が折れそうだ」リヴァイアの分身は指の骨を鳴らす様な仕草を見せたが、すぐさまヴレイズの背後へ回る。

「ん?」

「私はサポートに回る。どちらにしろ、蒼炎と私の水は相性最悪だ。これ以上分身の人数を減らしたくはない」

「あんたこそ何しに来たんだよ……」ヴレイズは呆れた様にため息を吐くが、同時に水鞭が尻に炸裂する。「あいたぁ!!」

「お目付け役だ」

「はいはい……」

「ちょっと! 2人とも! 来ますよぉ!!」ミシェルは怯えた様に震えながらも蒼炎に包まれた獅子像に向かって構えた。

「あぁ、油断するなよ!」

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