6.ミシェルの覚悟
グレイとジャルゴは塔の内部へと降りていき、壁に描かれた絵を眺めていた。グレイは目を蒼く染めながらそれを理解する様に唸る。
「わかるのか?」
「所々な……呪術を練り込んだサンサ族の炎で描かれている。魔人との戦いについてだな……」と、大きく描かれた壁画に触れる。すると、壁画は蒼く光り輝いて燃え上がる。
「やはり、魔人はこの塔に封印を?」
「……魔人は炎の力を取り上げられ、牢獄へ死ぬまで閉じ込められ、その力はこの塔に封印された……とある。目覚めさせる方法は……」と、探る様に眼に力を入れる。
グレイは壁画から熱を吸い取る様に分析し、難しそうに唸る。
「ふむ、サンサ族は再び力を目覚めさせる気はない様だな……どこにも書いていない。もっと下か」と、中央の螺旋階段を下りて行く。
「この塔の周囲の守りはどうなっている? 大丈夫なのか?」ジャルゴは忠告をする様に声をかける。
「心配するな。この塔は俺の意のまま。それに、連中もさっきの熱線嵐に恐れておいそれと近寄っては来られないだろう」と、腕を掲げる。
すると、外では塔を囲む様に蒼熱線が落雷の様に地面を穿つ。
「この塔には俺の魔力が漲っている。意のままだ」
「それは素晴らしい」
「……ん? この気配……」と、片眉を上げながらその方向へ顔を向ける。
塔から数キロ離れた上空で、ヴレイズは高速で飛来していた。
彼を迎えるつもりか、はたまた遠ざけるつもりか蒼熱線が降り注ぐ。
「これが炎の魔人の正体か? いや、そんな都合のいいもんじゃないだろうな」と、身体を高速回転させ、熱線をヒラリヒラリと避ける。暗雲には当然思考能力も何も無く、彼の熱を感じ取って熱線を乱発しているだけな為、彼が当たる事はなかった。
「少し試すか」と、ヴレイズは両手に魔力を込め、塔の頂上目掛けて熱線を放つ。
すると、塔全体に魔障壁が展開され、彼の熱線はあっさりと弾かれてしまう。魔力を上げて魔障壁に穴を開ける勢いで放ったが、それでも通じず、代わりに蒼熱線が迎撃する。
「ちっ! 攻守きちんとしてるな……だが、取り付いてしまえば!」と、塔の頂上目掛けてスピードを上げて飛ぶ。
彼を撃ち落とそうと無数の熱線が降り注ぎ、地面を薙ぎ払う。が、きりもみ回転して飛ぶ彼に当たる事はなく、どんどんと近づき、あと数十メートルの地点まで近づく。
その瞬間、塔の頂上が蒼く染まり、凄まじい勢いで大爆発が起こる。
「なに?!」と、急な衝撃波に即魔障壁を張って対応するが、数百メートル程吹き飛ばされてしまう。そこから更に熱線が降り注ぎ、ヴレイズはやむなく塔の攻撃範囲から離れた。
「くそ……簡単にはいかないか……」と、ため息交じりに彼は近場でリヴァイアの魔力を感じ取り、彼女のいる砦へと向かった。
近場の砦には、敗走したミシャルたちが入り、次の戦いの準備をしていた。が、それは見かけだけであり、士気はどん底まで落ち、再び塔へ向かおうと意気込む者はひとりもいなかった。
そんな中、作戦司令室では、ミシェルとリヴァイアの分身が向き合っていた。残りの2人はそれぞれ奪還した砦へと向かい、守りに付いていた。
「で、これからどうする気だ?」リヴァイアは嫌味交じりの発音で口にする。
「……ヴレイズさんを待ち、体勢を立て直し、一気に……」
「それでは同じ事の繰り返しだ。ヴレイズがいれば何か変わるのか? まず、あの塔の弱点を探り、そこを攻め、あわよくば防衛装置を破壊……」
「それは、ダメです」ミシェルは目を尖らせる。
「何故?」相手の答えを知っている様に見下すような言い方をする。
「……ご存知の通り、我が王はあの塔を欲しがっています。出来れば、無傷で手に入れたいのです」
「あわよくば、炎の魔人の力も欲しいと? それではグレイらと同類だな」
「我らが王なら正しく力を使えるはずです……」
「過ぎた力を手に入れれば、底知れぬ欲が湧くモノだ。この国の為を想うなら、塔は破壊すべきだな」と、リヴァイアの分身は腕を組み、ため息を吐く。
「しかし、王の命令なので……」
「私はこの国を守る為にここへ来たのだ。それ以上の事はやらないつもりだ」と、彼女は作戦司令室を後にした。
「私だって……」と、ミシェルは頭を抱えながら椅子へ腰を下ろした。
指令室を後にしたリヴァイアの前にヴレイズが現れる。
「間に合わなかったか……」悔やむ様に表情を歪める。
「いや、間に合ったと言うべきだな。ミシェルはこのまま、再び塔へと全軍突撃させるつもりだ。このままでは全滅だろう。彼女を説得してくれ。何故か、私の話は聞いてくれないのだ」と、この国の王の目的を説明し、深くため息を吐きながら医務室へと向かった。
ヴレイズはノックと共に入室する。
「ヴレイズさん……よかった、力を貸してください!」と、周囲の地図を広げ、塔への進路図を見せる。
「あとは俺に任せて、君たちはここの防衛を頼む」
「頼もしいですが……貴方はあの塔をどうなさるつもりですか?」
「可能なら破壊、または封印するつもりだ」
「それはいけません。我らが王の命令であの塔は……」
「その事はリヴァイアさんから聞いているよ。俺も彼女と同意見だ。俺はサンサ族として、あの塔を封印する義務がある。書物庫で色々と呼んで、あの塔の事は色々調べた」と、彼は自身の得た情報を口にする。
エルーゾ国は200年前、塔を軍事利用する為にサンサ族集落へと兵を向けたことがあった。が、数人の炎使いに軍を半壊させられる。当時の王は族長と直接交渉し、塔は目覚めさせない代わりにサンサ族が国の危機の時に参上すると約束した。
その後、ヴェリディクトによって集落が滅ぼされたのち、しめたと言わんばかりにエルーゾ国は跡地を散々に調べたが、塔が目覚める事は無かった。
「あの塔は生き物の体温に反応して自動防衛している様子だった。俺の対熱魔法を使えば近づく事が出来るだろう。俺を信じて待っていてくれないか?」
「その魔法は、何人までかけられますか?」
「数人だが、付いてくるつもりか?」と、彼女の目を見る。
「えぇ。貴方の勝手で塔を破壊されるわけにはいきませんから……」と、力の籠った眼差しを向ける。
「……それは建前だろ?」と、彼女の心中を見透かす様に口にする。
「……えぇ……グレイを、この手で……」と、両手を差し出して握りしめる。その目には殺意が灯り、ヴレイズへ向けた。
「復讐心は毒だ。俺は散々身をもって知っているから言える。捨てろ、なんて言えないし、言う事を聞く気もないだろうが……」と、彼女の顔に触れる。
彼女の内にある熱を少しだけ操作し、感情を落ち着かせる体温まで下げる。
「止めてください……くっ、貴方が何を言おうとも、私はあいつを、殺します!!」と、頭を振るって彼から遠ざかり、回れ右をして顔を背ける。
「フレインよりは気性穏やかだが、やっぱり復讐心は厄介だな」と、ヴレイズはため息と共に部屋を後にする。
その夜、ヴレイズは装備を整えて砦の裏口から出る。彼に張り付いていたミシェルも封魔石を仕込んだ剣を腰へ納めながら彼を追った。
「突出だけはしないでくれよ?」
「貴方こそ」と、彼女は少し不機嫌そうな顔で睨む。
そんな2人の間にリヴァイアの分身が割って入る。
「ミシェル、正直君は邪魔だ。砦に残れ」リヴァイアは歯に衣着せずに口にする。
「私は貴方たちのお目付け役です。妙な真似はしないように」
「したらなんなんだ?」と、リヴァイアは彼女を睨み付ける。
「私がタダでは済まないでしょうね。塔破壊、封印の責任を取らされるでしょうね」
「っ……そうなのか」気落ちする様に眉を下げるヴレイズ。
「どちらにしろ、あの塔は無い方が良い。ミシェル、たとえお前や親族がどうなろうともな」と、リヴァイアの分身は更に遠慮なく口にする。
「それは言い過ぎだろ!」と、ヴレイズが前に出る。
「ならお前はどうする? サンサ族として、塔を封印すると言ったのはお前だぞ?」
「ぐっ……」拳を握り、言葉を探すヴレイズ。
「一番ハンパなのはお前だったようだな。お前が砦に残った方が良いのかもな」と、リヴァイアは鋭く吐き捨て、塔のある方角へと向かった。彼女はドッペルウォーターであり体温は無いため、容易に塔へと近づく事が出来た。
「私は貴方がいないと塔へ近づけないので……」ミシェルは複雑そうな表情を浮かべながらヴレイズを見る。
「くっ……言いたい放題言いやがって……」と、ミシェルの顔を見て、悩む様に唸る。
「……私だって、あの塔は破壊した方が良いと思います……それに、どちらにしろと私は、軍を半壊させた責任問題で軍法会議にかけられるでしょう……私自身の目的は、グレイの死です!」
「……そっちの方も俺に任せて欲しいんだがな……だが、君の覚悟は伝わった。この件が済んだら、俺が必ず君を守る」ヴレイズは彼女の覚悟を聞いて迷いを吹っ切り、塔への道を力強く進んだ。
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