103.ディメンズVSブロン

 賢者3人に包囲されたブリザルドは、流石に打つ手がないのかあっさりと捕まり、魔封じの手錠をかけられる。

「このままククリスへ連行させて貰うぞ」と、ミラは目を鋭くさせながら鼻息を荒くさせる。が、戦いの傷が痛むのか、回復魔法に集中しながら呼吸を落ち着ける。

「結局、お前は私を超えられなかったな……」ブリザルドは挑発する様に零し、クスクスと笑う。

「……ククリスに着いたら覚えていろ」と、彼女は回復途中の手を眺め、奥歯で悔しさを噛みしめる。

 そんな2人のやり取りを見て、ガイゼルは腕を組みながら納得できない様に唸る。

「どうしたんですか?」そんな彼の表情に疑問を抱いたエミリーが首を傾げる。

「いや……アッサリ捕まったなと、思ってな。あいつは先の先まで読んで行動する男だ。何か企みがあるのやも……ククリスまで警戒するぞ」と、ガイゼルはブリザルドの口角の僅かな上がり方を見て眉を顰める。

「はい!」エミリーはブリザルドを睨み付け、彼の体内電気信号に集中し、下手な真似をした瞬間に知らせる事が出来る様に警戒した。



「ぐあぁ!!」キャメロンは血達磨になって吹き飛ばされ、地面に転がった。起き上ろうにも、肋骨が折れて全身に激痛が奔り、下半身に力が入っていなかった。

「あ゛あ゛ぁ!!」ローズはブロンのボディーブローを喰らい、宙に浮きあがってそのまま倒れ伏す。苦悶の声と共に吐血し、身体から魔力が抜け落ちる。

「2人同時でもこの程度か……」拳に付着した血を散らし、つまらなそうにため息を吐く。彼は着用したジャケットを燃やされ、薄皮一枚火傷した程度で、大したダメージを負っていなかった。

 ブロンは地面に転がった2人にトドメを刺す気が無いのか、踵を返し、ローズに倒されたグロリアに歩み寄る。

 その瞬間、凍て付く様な殺気が四方八方から突き刺さり、脚を止める。

「こんな殺気は初めてだ。何者だ?」と、上半身の筋肉が盛り上がり、目が血走る。


「驚いたな……こんなに似ているとは……」


 ブロンの正面には大型ボウガンを肩に担いだディメンズが煙草に火を付けていた。

「お前は……」と、殺気と共に身体から蒸気が昇り立ち、髪が逆立つブロン。

「俺の事を知っているのか?」

「いいや……ただ、この2人よりも楽しめそうだ」

「その口ぶり、まるで本人だな。懐かしい……どれ」と、半開きだった目を開く。

 すると、ブロンの周囲から高速無音の矢が8本、四方八方から飛来する。

「ふん」と、彼はローズたちとの戦いでは見せなかった手の動きで飛来する矢を叩き落とし、最小限の動きで避ける。結果、2発ほど頬と腕を掠める。

「あれだけ飛ばして、2発掠めただけか……」と、感心する様に煙を吐く。

 それと同時にブロンは掴んだ矢を彼に投げ返す。

 ディメンズはそれを見切り、ボウガンで矢先を払って狙いを逸らす。

「やるな……昔を思い出す」

「どうやら、俺のオリジナルと知り合いの様だな。で、どうする? お前も俺とやるのか?」

「グロリアとお前は世界の影……倒して情報を引き出すのが俺の仕事だ。それに……お前はどうしても倒しておかなきゃな」と、大型ボウガンを持ち直して構え、腰を低くする。

「俺も、お前には興味がある……」ブロンは犬歯を剥きだし、今までにない程に練り上がった殺気を見せる。彼は魔法の類は一切使っていなかったが、術者を圧倒する程の圧力があった。

「なら、決まりだ」と、煙草を吐き捨てた瞬間、風魔法による無音大跳躍と同時に気配と殺気を消し、矢を空中に数発ほど展開させ、風魔法で固定する。

 が、そんな彼の動きを読んでかブロンも跳躍し、胴回し回転蹴りを放つ。

「やる……な」と、風圧波を放って蹴りを防ぎ、距離を取りながら着地する。

「やり難いヤツだ」ブロンも着地し、太腿に刺さった2本の矢を忌々しそうに抜き取る。

「本当に懐かしい……あいつと初めて遇った時もこんなだったか……あの時は俺が負けたが、今回は……」と、ディメンズは懐かしむ様に頬を緩め、ボウガンを握る手を強めた。



 ラスティーは診療室にいるエレンの元へと向かい、ため息と共にネクタイを緩め、椅子にドカリと体重を預ける。

「随分お疲れの様子ですね」と、王室お抱えの医師と勉強会をしていたエレンが中断し、ヒールウォーター製の茶を差し出す。

「あぁ……あいつは読めないな……本性を出した様に見えたが、アレは偽りだな。流石、バルバロンで修業をしただけある」と、喉を鳴らして茶を飲み下す。

 エレンはそんな彼の身体に触れ、何が起きたのかを読み取り、首を傾げる。

「……確かに、見た目は化けの皮の剥がれた風に見えますが、殺気も無ければ熱もない……まるで、貴方しか見ていない様子ですね。そう言えば、例の絵は?」

「絵は消えたが、中身はここだ」と、前もって抜き取っておいた世界の影の情報が記された書類を見せる。

「クリスさんは一体、何を考えているのでしょう……?」

「あいつの考えはロクなもんじゃない」



 その頃、部屋へと戻ったクリスは装備を脱ぎ、丁寧にケースへと仕舞った。そんな彼の表情は先ほどのイラつきで崩れたモノと違い、満足げな顔をしていた。

「上手く行きましたか?」彼の背後に、同じ装備をした者がステルスを解きながら口にする。

「あぁ。やはりあのラスティーに会いにきて正解だ。ナイアやディメンズ、ワルベルトが認めただけある。これから存分に、私の為に働いて貰わなければ」と、タオルで汗を拭いながら椅子に座る。

「例の文章は?」

「ラスティーの手に渡った。あいつにはこれから世界の影と魔王軍を相手取り、戦って貰う。口で言っても従わんヤツは、誘導しなければ。まぁ、逆に使いやすい」と、クリスは楽しそうにほくそ笑む。

「して、これからどう致しますか?」

「もう演技も企みもない。明日の戴冠式を楽しみ、帰国する。その際、ブリザルドの事は頼むぞ?」

「承知。しかし、よろしいので? ブリザルドを野放しにするのは危険かと?」

「ヤツの第一目標は、魔王に吠え面を掻かせる事だ。それを終えるまで、こちらに牙は向けない。いいか? 真の敵は誰か、お前も理解しておけ」

「もちろん。貴方の叔父上、シャルル様です」

「その通り……あの男を出し抜けなければ……私はいつまでも、このままだ」と、自分の手の平を眺め、強く握り込む。



 鬼面で襲い掛かるブロンであったが、殺気を受け流しながらディメンズは距離を取り、風魔法で矢を飛ばす。攻撃の合間を縫って数発命中するが、全て筋肉で止められ、急所には達しなかった。

「く……冷静なヤツだ」と、刺さった矢を抜き取る。

「やはりジャレッドよりは温いか。経験の差かな?」と、ボウガンを構える。彼はこの戦いで、まだ一度もそのトリガーを引いてはいなかった。

「どうやらその様だ……だが、降参もしない! 引きもしない!!」と、ブロンは獣の様に身体を丸め、駆け出す。一瞬で間合いが潰れ、熊爪の様な手が彼の鼻先まで近づく。

 その瞬間、彼の眼前で強風襲い掛かり、再び気配が跳び上がる。

 それを読んでか、ブロンも上空へ気配を負い、拳を引く。

 が、そこにディメンズはおらず、大型ボウガンだけがクルクルと回転していた。

「なに?」己の目を疑い、一寸だけ狼狽する。


「本物のあいつなら、引っかからなかった」


 と、ディメンズが指を鳴らした瞬間、無数の矢が彼に襲い掛かる。ブロンは両腕両足で防御の型を作り、急所へ向かってくる矢は叩き落とす。他の矢は掠め、数本は深々と突き刺さる。

 流石の彼もバランスを崩し、不時着する。

「ぐっ……ぬ」致命傷でなくとも出血が多く、目まいを起こす。

 そんな彼の目の前で落ちてきたボウガンを慣れた様に取り、初めて引き金を引く。

 ブロンはその音を聞き、紙一重で避けようと足を動かしたが、彼の予想よりもボウガンの矢は早く、避け損ない、右肩が爆ぜ飛ぶ。

「風魔法で飛ばす矢の速度に慣れていただろ? そう言う事だ」と、煙草を咥えて火を点ける。

 ブロンの利き腕は地面に落ち、肩は消し飛び、大量に出血していた。既に血を多く失った彼は、立ち上がろうにも膝が笑っていた。

「勝負ありだ」ディメンズは煙を吐きながら装填済みのボウガンを向ける。

「その様だな」と、ブロンは歯の間から悔し気に答えた。

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