91.奇襲隊襲撃作戦
グレーボン国内には、インヴァード大臣を中心とした王族反対派貴族たちがいた。彼らは王を失脚させる事を企み、国内から国外までのあらゆる強盗団や傭兵崩れを囲っていた。数か月前の騒動で、主力となる反乱軍強行派とタイフーン強盗団を失い、ラスティー達討魔団を目の敵としていた。
何度か大臣はラスティーと会いにきては腹を探り合い、嫌味たらしい笑顔を覗かせていた。
ラスティーらが不在の今、彼らはこれを好機と思い、着々と襲撃準備を進めていた。
「おい、レイ! ヤバいぞ!」そう言った情報をマーゴットから聞いたエディは息を荒げて司令官室へ戻ってくる。
レイは冷静な面持ちで顔を上げながらも書き仕事を続ける。
「どうした?」
「インヴァードら貴族共が俺らの本拠地を襲撃するって情報だ! マーゴットめぇ! こんな大事な情報を隠すなんて……」
「……お前、知らなかったのか? えぇ?」
レイは呆れた様に目を丸くし、首を傾げる。
「え?」同じ様にエディも表情を凍らせる。
この情報はレイも他の者たちも知っていた。知らないのはエディだけだった。
「なんでだよ! 何でそんな重要な事を俺のとこに知らせないんだぁ!!」
「机の中でこいつがグシャグシャに潰れていたんだが、どういう事だ?」レイは一枚の潰れた書類を取り出し、彼の前で広げる。
それはまさに、討魔団本部襲撃計画について記された書類であった。これは2日前、こっそりと忍び込み机の整理をしたマーゴットが発見したモノであった。
「え? あ、それ? それは……なんだこれ?!」と、頭の中で必死に思い出す。この書類はエディの元に届けられるのと同時に休憩を取る為、机の引き出しに仕舞ったのであった。それからうっかり忘れて、引き出しの奥へ奥へと押されてしまったのであった。
「貴様……頭ン中に氷を詰めてやろうか?」レイは手の中に氷塊を作りだし、目に殺気を宿す。
「くそ! マーゴットに揶揄われただけか!! 悪い!!」
「いくら疲れていたとはいえ、こう言ったことは2度と無い様にして貰いたい。で、どうする気だ? 司令官代理!」レイは少々厳しめな口調で問い詰める。
「そうだな、襲撃日は2日後の予定らしいな。ライリーが調教した軍馬なら、今夜に出発させれば、明け方には反対派お抱えの強盗団キャンプの襲撃は可能だ。強盗団のキャンプは3か所。それぞれダニエル、ローレンス、ライリーに向かわせ、防備はロザリアに任せる。その間に、俺達が反対派貴族共を押さえる」エディはサラサラと口にしながら地図を広げ、ペンを入れ始める。
「キャンプの場所は?」
「それはカジノで独自に調べてきた。あそこはマーゴットが言う通り、情報の宝庫だからな。あっという間に揃ったぜ」
「反対派を押さえると言ったが、押さえられる証拠はあるのか?」
「あぁ。強盗団リーダーと反対派貴族が密談に使っているブラックマーケットの酒場があってな。俺はそこのマスターと仲がいいのよ」と、ニヤリと笑う。彼はそこの酒場の酒などの物資を格安で調達する代わりに情報を最高の鮮度で独自に仕入れていた。
「……ほぅ」感心した様に聞き入るレイ。
「そこのマスターの話だと、貴族連中の中に不満を持った奴が多くいてね。前々からそいつらとコンタクトを取り、色々と弱味を集めていたんだ。手足となる強盗団、傭兵団を潰して突き付ければ、俺らに泣きつくだろ? その時がインヴァード大臣の最後だ」
「そんなに上手くいくか? あの大臣は、指令と互角に渡り合う手腕をもつ男だ。必ず逃げ場がある筈」と、注意を促すレイ。
「そこだな。決め手と逃げ場潰しがまだだ……」エディはそこまで言い終えると、疲れた様に椅子に座り込み、深く唸った。
「今回は本部の防衛と貴族連中を押さえるまでにして、インヴァードの方は様子見の方向でいいのではないか?」
「いいや、攻める時は勢いが重要だ。今回の勢いで一気に押した方が、今後の展開も握り易くなる。ここで逃せば、ずっとあの大臣が付いて回る事になる。それだけは阻止しないとな」エディは拳を握り、何かを考える様に天井を見上げる。
するとそこへ、ワルベルトが入室する。全てを聞いていたような表情を作り、2人の顔を交互に見る。
「ここはあっしに任せる、というのはどうです?」
「何で急にあんたが出てくるんだよ」エディはうんざりした様に彼に指を向ける。
「急にって事も無い。今回の件はあっしも一枚も二枚も噛んでるんでね」と、書類束を取り出してレイに渡す。
「これは?」
「今回襲撃に参加する強盗団に売りつけた武器の売買記録です。全て、二世代前の古い武器ですが、連中、喜んで買い取ってくれました」
「おいおい、あんたは俺らの敵か?」エディは立ち上がり、問い詰める様に口にした。
「まぁまぁ……その書類には武具の数や種類まで事細かにかかれていやす。そこに、連中のキャンプ図を重ね合わせてパズルの様に当てはめると、どうなるか分かりやすか?」
「……成る程、エレメンタル狙撃ライフル20丁はここ。エレメンタルブレードはこいつら。で、一点物のバスターガンはリーダーのコイツか」レイは強盗団の人数とキャンプの防衛図を重ね合わせ、見通す。
「これで安全に襲撃が出来るって訳です。終わったら、武具は回収してくださいね? 中古品として格安でお譲りしやす」と、ワルベルトは豪快に笑って見せる。
「あんたが一番の悪党だな」エディは呆れた様に笑い、地図に新たな情報を書き加えた。
「で、肝心のインヴァードの方はですが……」
その後、エディは作戦室にダニエル、ローレンス、ライリーを呼び、今夜の襲撃作戦に付いて告げる。同時刻に3カ所同時に仕掛け、一気に一網打尽にし、情報を収集するのが目的であった。
「急だなぁ……」ダニエルは少々困り顔で唸る。
「問題か?」
「そりゃあと10時間後に作戦でしょう? 急すぎますよぉ」ダニエルは少し広くなった額を摩りながらため息を吐く。
「キャメロンさんもいないし、やる気が出ないなぁ……」ローレンスはあからさまに嫌そうな表情を覗かせ、肩を落とす。
「あのさ、司令官代理。俺は軍馬の飼育調教だけじゃなく、他の小動物の世話や情報収集も担当しているんだよ。他の奴に頼んでくれないか?」と、ライリーは煙草交じりに口にする。
この3人はまだ、エディの事を副指令とは認められずにいた。なにせ、エディは大金を持ち逃げして彼らを落胆させた為、尚更であった。
「……ぐ……正直に言ってくれ。やってくれるのか? やらないのか?」苛立ち混じりに口にするエディ。疲れが溜まり、ラスティー不在の中の初めての危機の為、流石の彼にも余裕が無かった。
「そりゃあ……」ダニエルは2人の目を見て、軽く頷く。
「「「やりたくないでぇす」」」
3人はワザとらしく声を揃え、エディから目を背ける。
「この野郎共……」
そんな彼らを見かねてか、レイが作戦室へ入ってくる。
「急で済まないが、この作戦は3人にしか出来ない事だ。ご存知の通り、指令もキャメロンも、更にはエレンさんもいない。人手が無い時こそ、我々だけでやらねばならないのだ。それに、これがあれば10時間後の襲撃でも気楽になるだろう」と、レイはエディが持っていた書類を受け取り、彼らに手渡す。そこには先ほどのエディとワルベルトが収集した情報が細かく記され、敵キャンプの配置まで書かれていた。
「何故出し渋った?」レイは鋭い目でエディを睨む。
「いや、渋ったわけじゃ……」
「成る程、これならローリスクで作戦が上手く行きそうだ」ダニエルは感心した様に書類を捲る。
「……俺はまだ兵隊を率いての作戦は不向きなので、誰か付けて下さい……」と、ローレンスは自信なさそうに口にする。彼はいつもキャメロンの横で大槌を振るっているので、いざ隊長となって行動するのが慣れていなかった。
「わかった。ウォルターをつける」レイはいつの間にか作戦室の隅っこで佇んでいたウォルターを指笛で呼ぶ。彼は有無を言わずにローレンスの隣に付き、軽く会釈をした。
「目が怖いなぁ……」
「馴れてくれ。で、ライリーは……? 夜中まで動物の世話をしているのか? 調教師は10人以上雇った筈だが?」と、帳簿を取り出して鋭い目で捲る。
「……わかったよぉ……その代り、明日は休みをくれよぉ? 襲撃任務は疲れるだけじゃないんだからさぁ?」
「もちろん。お前らの隊は皆、コレが終わったら1週間は休暇をやる。その間はグレーボン軍の上層に話を通して、援軍を寄越す様に頼むつもりだ。遠慮なく休むといい」
「そうこなくちゃな! よし、やるかぁ!」と、ダニエルはやっと立ち上がり、意気揚々と作戦室を出る。ローレンスとライリーもなんだかんだ言いながら彼に付いて行った。
「……これだから部下に見捨てられたのかな、俺」エディは寂しそうにため息を吐く。彼は3500人の傭兵を束ねたことがあったが、今回の様に人望が無くあっという間に目減りして、最終的には独りになっていた。
「お前には十分な才がある。副指令として必要な才がな。俺にはそれがない……だから変わる必要があった。だが、お前は変わる必要はないと思う。そのまま胸を張って副指令を続けてくれ」と、レイは彼の肩を叩いた。
「あんたも立派だと思うがな」エディは良い慣れない事を言い、口を軽く曲げる。
「俺は昔の自分を捨てて、必死で喰らいついているんだ。まだまだこれからさ」と、レイは初めて微笑し、作戦室を後にした。
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