66.ヴレイズVSフレイン 後編

 2人の炎が更に激しさを増し、示し合わせた様に再び激突する。それと同時に火炎大爆発が引き起こり、武舞台が跡形もなく消し飛ぶ。客席に飛んだ衝撃波は大会運営委員の必死の行動により、ぎりぎり魔障壁で防ぐのが間に合う。が、最後の術士が気絶してしまう。

 そんな事は露知らず、ヴレイズとフレインはまた激突し、手と掴み合い、額をぶつけ擦り合わせる。

 その間に運営委員は大会中止を決断し、審判員にその旨を伝える。

 審判員は2人の間合いに入るのを恐れ、必死の大声で2人の戦いの中止を訴える。

 しばらく耳に入らずに戦いを続ける2人だったが、やがてヴレイズが気付き、フレインの拳を頬で受けながらも制止させ、彼の言葉に耳を傾ける。

「はぁ? ふざけてんのぉ?!」フレインは口から火を吐きながら怒鳴る。

「確かに観客に危険が及ぶからってのはわかるが……今迄はどうしていたんだ?」ヴレイズは素朴な疑問で首を傾げる。

 この大会では過去に、幾度もクラス4同士の激闘を繰り広げていた。その時は武舞台が破壊されたり、危険が観客席まで飛ぶことはなかったと言う。

「じゃあ手を抜いて戦えってェの? そんなにこの大会はレベルの低いモノだって言うの? え?」フレインは更に声を荒げ、審判員に詰め寄る。

「いやぁ……そのぉ」お偉いさんに命令されただけの彼は、彼女の殺気に怯えて膝を震わせた。

「別にいいじゃないかフレイン。続きは2人でそこらの荒野でやれば……」と、ヴレイズは彼女の肩を叩く。

「いやだ! ここで決着をつけたいの!」

「まぁ、俺も同感なんだけどさぁ」と、2人して審判員を睨み付ける。

「いやぁ……でもぉ……」

 

「一体どうしたと言うのだ?」


 そこへ、こっそりと観戦していたヴァークがぬっと現れる。急に現れたため、2人だけでなく審判員や観客たちも驚いた。

 事情を聞いたヴァークは顎を摩りながら唸り、何かを思いついたように指を鳴らす。

「では、俺が魔障壁を張ろう」と、身体に魔力を漲らせる。

 すると、武舞台を覆う全体が薄暗い魔障壁に覆われる。それは闇属性を含んだ衝撃霧散型の魔障壁であった。

 ヴレイズはそれを試す様に両手で軽く熱線を放つ。魔障壁はそれを難なく防いで見せた。今迄の魔障壁は熱線が直撃する度に皹が入っていた。

「どうだ? 俺はこの2人の決着を観たいんだ」ヴァークは片眉を上げ、審判員を睨む。

 それと同時に観客席も騒めき、試合の続行を望む声が上がる。

「え、えぇっとぉ……」審判員は委員会連中の座る方角へ目をやり、返答を待つ。委員会の代表が親指を上に向けると、彼はホッとした様に頷き、試合の続行を高らかに宣言した。

「どこの誰だか知らないけど、サンキュー」フレインはヴァークに笑顔を覗かせる。

「あんた、ただ者じゃないだろ?」ヴレイズは少々訝し気な顔を向ける。

「俺はただ、お前たちの熱を見たいだけだ」と、口にするとヴァークは足音を立てずに遠ざかり、再び北側通路へと戻った。

「ねつ?」

「熱……」2人は顔を見合わせ、首を傾げた。



 武舞台は跡形もなく破壊され、壁面もボロボロに崩れ、もはや試合どころではない程にアリーナは崩壊寸前であった。だが、試合は再開され、観客席に活気が戻る。

「さて、良い休憩になったかな?」ヴレイズが口にすると、フレインが彼を睨んだ。

「それはあんたの弱音? それとも、あたしに対する気遣い?」と、全身に炎を纏わせる。

「さぁ? どうかな?」と、言った瞬間に彼女の拳が飛んで来る。彼は軽々と片手で受け、応える様に全身に炎を蓄える。

「こんの野郎!!!」フレインは怒髪天に来たのか、更に魔力を上げてここから連撃を放つ。

 そこから2人は再び凄まじい炎と炎のぶつけ合いを演じる。

 フレインは必死になって両腕から精一杯の連続火炎弾を浴びせかけ、隙を潰しながら連撃を放つ。

 それに対し、ヴレイズは涼し気に火炎弾を弾き、彼女の拳と蹴りを躱す。彼女の戦闘パターンを知り尽くしているのか、かすり傷程度で済む程度の動きで全ての必殺攻撃を受け流していく。

 しばらくしてフレインは攻撃を止め、間合いを離す様に後ろへ跳び、息を整える。

「ヴレイズ……」ついに息を荒げるフレイン。

「なんだ?」

「今のあたしの攻撃に対して、どれだけの隙があった? 正直に答えてくれる?」フレインはまるでテストの点数を問う学生の様に神妙な表情で目を瞑った。先ほどの連撃は、今の彼女の限界に達した本気の攻撃であった。

「……8回、付け入る隙があった」対してヴレイズも真面目に答える。

「そっか……敵わないか……でも、降参はしないよ? あたしは!!」と、フレインは一歩前に出て最後の攻撃を仕掛ける。両腕に纏った炎を練り上げ、ヴレイズの赤熱拳を真似た火炎拳を作り上げ、振り抜く。

 ヴレイズはそれを避けも防ぎもせず、正面から右腕で掴む。

「ぬっ!」

「フレインのタフさは俺が一番知っている。どんな逆境に立たされても、勝つまで立ち上がる……だから、俺も本気で応えるぞ!」と、掴んだ腕を振り回し、上空へと投げる。

 飛ばされた彼女を追うように跳躍し、今度はヴレイズが連撃を見舞う。

 彼の攻撃は素早くも重く、隙が無く、更に空中であるため、フレインは成すすべなくヴレイズの攻撃をモロに喰らう。

「ぐあぁ!!」芯を貫かれ、重く響く拳を5発も見舞われ、意識が飛びかける。

 更にヴレイズは彼女に容赦なく熱風波を浴びせかけ、呼吸困難に陥らせ、完全に彼女の意識を消し飛ばす。これによりフレインは失神し、力なく落下する。

 それを確認したヴレイズは彼女を抱え、ゆっくりと下降して武舞台へと降り立った。

「勝者、ヴレイズ!!」彼女の戦闘不能を確認した審判員が高らかに声を上げ、試合が幕を閉じる。

「よし……」と、ヴレイズは早速彼女の傷を炎の回復魔法で癒す。

 早速起きた彼女はすぐさま立ち上がり、構えた。が、周りの雰囲気で自分が負けたと悟り、深い溜息を吐く。

「……やっぱりヴレイズは反則だよ……敵わない」

「なぁに、まだまだ俺たちは強くなれるさ」と、彼女の肩を叩く。



「ふぅむ……」戦いを見届けたヴァークは魔障壁を解き、踵を返す。彼は何かを納得した様に口元を緩め、外へ出る。相変わらずお祭り状態の街中を歩き、変わって火の消えた様になっている本屋へと脚を踏み入れる。

「おや珍しい。こんな時期にウチに来るなんて」祭りに興味の無い本屋の店主は手元の本から目を離さずに口にする。

 ヴァークはしばらく本棚の背表紙を眺め、一冊の本を手に取る。

 その本の題名は『炎の歩み』という6代目賢者の執筆した書物であった。

「そんな難しいのを読むなんて、お客さん……研究者かなんかかい?」

「いや、ただ……熱を知りたくてな」と、金を払い、店から出る。

「ねつ? 熱ねぇ……」主人は片眉を上げて首を傾げ、本の続きへと目を戻した。



 戦いの後、彼女ら2人は優勝、準優勝の賞金を合計15万ゼル頂き、更に賞品の入った箱を受け取る。

「スゲェ大金だな……俺たちの旅には持て余すかもな」と、大きなケースに入った10万ゼルを見て口笛を吹くヴレイズ。

「1万でも十分すぎるのにね。どうしよっか」と、自分の5万ゼルの入った袋を担ぎながら唸るフレイン。

 しばらく考えながら闘技場を後にする2人。が、出た瞬間に新聞記者やスカウトマンの大群が襲い掛かった。

 2時間ほど言葉の嵐に身をさらし、結果、試合の時より疲労する2人はフラフラになりながらカフェへ寄る。

 すると今度は観客席にいたと思われるファンの大群に襲われ、おちおち休憩も出来ずにうんざりする2人。

 結果、日が落ちるまで彼らは誰かしらに絡まれる事となった。

「つ、疲れた……」目の下を黒くさせ、その場にへたり込むヴレイズ。

「父さんに付いていくと、毎回こんな感じだったけど……今回のは少し、悪くなかったかな」満更でもない様な表情を浮かべるフレイン。今回は『賢者の娘』と呼ぶ者は少なく、『炎の化身フレイン』と褒め称える者が多く、気を良くしていた。

「そうだ! 折角大金があるんだから、今日はいつもと違うモノを食べよう!!」と、フレインはヴレイズを引っ張ってこの街一番の高級レストランの前まで向かう。

「こうきゅうれすとらん? そんな所はいるのは初めてだなぁ……」

「いい? 2時間後にここね! 用意して待っててね!!」と、フレインはひとりで急いぎ、どこかへと向かってしまう。

「え? 今からでいいじゃん……ま、いいか」と、ヴレイズは訳も分からず時間を潰す様に近場をフラフラする。

 すると、そんな彼の背後に黒い気配が立つ。

「先ほどは良い戦いだったな」ヴァークであった。

「……あんたか……こちらこそ助かったぜ」

「あの娘は? 一緒ではないのか?」

「なんか夕飯を食べる用意をするって……どっかいっちゃったよ」

「そうか……少しいいか?」

「ま、2時間ほど暇だし……」ヴレイズは時間がある故、更にヴァークの妙な気配に興味がある為、彼の後に付いて行った。

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