55.開いちゃったゲート

 無属性が連続してぶつかり合い、空間に皹が入るような音が沖まで鳴り響く。2人の戦いは拮抗し、ヒートアップしていた。

 やがて2人は示し合わせた様に己の無属性の刃に属性を纏わせる。

 そして同時に間合いを詰め、互いの剣をぶつけあう。また凄まじい轟音が鳴り響き、黒と白の稲妻が辺りに飛び散り、砂浜に飛沫を上げる。

 すると、互いの光と闇が無属性を中心として吸い込まれ、混ざり合う。

「?」

「なんだ?」

 2人は何が起こっているのか理解できぬまま、全身全霊で押し合い、更に魔力を上げる。

 次の瞬間、中心から凄まじい魔力暴走爆発が起こり、2人は吹き飛ばされる。2人とも魔障壁防御が間に合い、華麗に着地する。

 2人揃って正面を向くと、砂塵が晴れ、爆心地に見慣れぬものが広がっていた。

「こ、こいつは?」ヴァークは訝し気な表情でそれを観察した。

「やっべぇ……」ヴァルコはそれが何かを知っているかのように焦りの色を見せ、冷や汗を掻いた。

 なんと、爆心地の空間に、目で見てわかる程の皹が入り、ぽっかりと穴が開いていた。その穴の向こう側は夜空と青空が入り混じった様な空間が広がり、何かが唸っていた。

「戦いに夢中で忘れてた……」ヴァルコは『これ』が何かを理解する様にため息を吐き、刃に纏った光を消す。

「これはなんだ?」ヴァークは空間に空いた穴に近づき、首を傾げる。

「そいつぁ……」



 激戦の遥か西、ゴッドブレスマウンテン山頂。

「?? シルベウス様?!」彼の異変に気が付き、慌て顔で歩み寄るミランダ。

 なんと、シルベウスは手に持ったクリーム入りメロンパンを握り潰し、滝汗を掻いて歯をカタカタと鳴らしていた。


「どこのバカ者だ!! 勝手にゲートを開いた奴は!! 魔王か? もう開いたのか?」


 シルベウスは手を拭わぬままに宮殿を飛び出て、異変の広がる東の果てへ顔を向け、目を細める。

「それは一体どういう意味で?」事態を把握できないミランダは同じく、彼の見る先を見つめた。

「あり得ない! 俺の予想では、魔王はまだゲートを開くキーを手にしていない筈! それに、開いた後の準備すらまだだろう? 一体誰だ?」と、彼の視界がガルオニア国東海岸まで届き、空間の歪みを発見する。そこで小さくもはっきり開いた『ゲート』を見つけ、舌打ちを鳴らす。

 そして、その扉を開いたであろう者を見つける。

「あいつは……あいつは! あいつはぁ!!」ヴァルコを目にし、喉の奥から仰天の声を上げる。

「い、如何しましたか?」

「ははははははは!!! あの大馬鹿野郎ぅぅぅぅ!!!!」シルベウスは腹を抱えて爆笑しながらも額に血管を浮き上がらせ、目を血走らせる。

「喜んでいらっしゃるんですか? 怒っていらっしゃるのですか?」

 その問いに対しシルベウスは何も応えず、クリームまみれの指を彼女へ向けた。

「ヘリウス(冥界の監視者)に急ぎ連絡だ!」

「へ、ヘリウス様?! な、何故あのお方に? 」

「いいから準備をしろ! ん? あぁ!! 俺のメロンパンに何をしたぁ?!!」

「貴方が握り潰したんでしょーが……」



 2人はしばらく開いたゲートを眺め、次に何が起こるのか様子を見る。ゲートは稲妻の様なエネルギーを散らしながらも少しずつ縮んでいた。

 すると、ゲートの向こう側から翼を生やした何者かが近づく。その者は遠くにいるウチは常人ほどの大きさに見えたが、急接近した瞬間、大樹か小山の様に大きかった。爬虫類の様な皮膚に尖った爪。見た目はまさに悪魔の様な形相をしていた。

 そんな化け物がゲート越しに瞳を覗かせ、2人を睨み付ける。

「なんだ、コイツは……?」

「破壊神だ……ゲートの向こう側の番人……さて、勘弁してくれるかな?」ヴァルコは知っているかのような口ぶりをし、破壊神の目を睨み返した。

 そのままゲートは指先の入るような穴まで縮み、数秒で針先ほどまで小さくなる。

 そして、エネルギーの消失と同時にゲートは消え去り、禍々しい気配も消える。

「……ふぅ」ヴァルコは安心した様にため息を吐き、安堵の笑みを漏らす。

「一体?」変わってヴァークは何が起こったのか今でも理解できずにいた。

「闇は扉、無属性は鍵……そして光はその先を照らす。3つの属性が混ざる時、異次元への扉は開くってな……」何かの一節を引用する様に口にしながら指を立てる。

「どこかで読んだ覚えが……そうだ、ククリスの大書庫だ」ヴァークは思い出した様に口にし、納得した様に頷く。

「お前もあそこに入ったのか? やるねぇ~」

「おとぎ話の類かと思ったが、まさか真実とは驚いた……」

「で? 続きやるか?」ヴァルコは武器で肩を叩きながら手招きをする。

「当たり前だ」と、ヴァークは再び短刀を無属性で纏って伸ばし、飛びかかった。



 その頃、エルとリサはついに地下研究所の出入り口を見つけだし、外へと脱出していた。

「やっぱ風の吹く方へ従っていくのが重要なんですよ、こういう場合」と、得意げに話すエル。

「そんな事いって、ただの偶然でしょ。あんただって扉が開いたときに、驚ていたじゃない」

「そりゃ、あんな大きな音が鳴れば驚きますよ」

 2人は安堵したように無駄話をしながら城下町を歩いた。

 そのまま煙燻る飛空艇墜落現場まで向かい、深い溜息を吐く。

「あぁ~あ……ここから歩いて帰るのかぁ……」リサは深くため息を吐きながら、使える道具を探す。救難信号を鳴らそうとコクピットへ向かうが、その機能は何故か損なわれていた。

「空飛ぶ化け物でもいたのでしょうか?」

「てぇかさ……このまま黒勇隊も国も捨てて、旅にでも出ない? あたしはこんな体になっちゃったから、面倒くさい事になりそうなのよね……」と、指先から闇を滲みだす。

「希少な闇使いですもんね。ヴァイリー博士に知られたらどんな事をされるか……」

「あんたはどうする? 一緒にくる?」

「……僕は……どうしようか迷っています。僕は魔王の喉元に近づき、打倒す事が目的です。が……僕独りでは厳しそうですし……」

「そこまで出世する自信が無いんでしょ?」揶揄うように口にするリサ。

「容赦ないですね。まぁ、正直そうですけど……それより、魔王討伐を目指す人たちと合流して、力を合わせて戦いたいと思っています」

「そんな時代遅れな連中、いるのかしら? 確かに少なからずいるみたいだけど……」

「僕は出来ればナイアさんと共にして、ごうりゅ……」と、何かを見つけて固まるエル。彼の眼前に、無属性爆弾が赤く点滅していた。

「……それって、アレだよね?」

「えぇ……アレです。対都市部用無属性爆弾です。爆発範囲は半径10キロ……」

「点滅してるって事は……起動してるんだよね? 止められる?」

「……えっと……やってみます」と、エルは恐る恐る爆弾に手を触れる。

 その瞬間、爆弾は機嫌を損ねた様に震え、赤点滅が少し早まる。

「「うわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」何かを察して2人は脱兎の如く駆け出し、城下を出て一目散に逃げだした。

 因みに爆発まで、あと10分を切っていた。



 剣を再び交えて5分、2人は互いの剣術をぶつけ合っていた。殺し合う、と言うよりも、互いの技術を見せあっては讃えあう様な、そんな戦いに変わっていた。

 ヴァークの変幻自在の剣技は3種類の攻めの型を巧みに使い分け、ひたすら押す嵐の様な型であった。

 変わってヴァルコの剣技は長い経験により練り上がっており、あらゆる剣技に対応できた。更に、相手の攻めを予測して自分の型を変え、隙をさらしながらも誘って、相手の隙を突く、という型でヴァークと拮抗していた。

 次第にお互い、得意の型を捨てて我武者羅に剣を振るい、火花を散らし合う。2人はその場で脚を踏みしめ、一歩も己の場を譲らずに押さず引かずの攻防を繰り広げる。

 2人の剣は勢いを増し、やがて凄まじい衝撃波を爆裂させて2人の身体が吹き飛ばされる。

 ヴァークは空で宙返りをし、砂浜に着地をする。その際、足腰が弱ったのかバランスを崩し、片膝を付く。

 ヴァルコは剣を地面に突きたてて、砂浜を斬り裂きながら後退する。彼の身体は相手からの攻撃を受けていない筈であったが、肉が削れ、骨が見え隠れしていた。

「そろそろ限界か……」己の身体に違和感を覚え、弱ったようにため息を吐くヴァルコ。彼は目の色を変え、ショートソードに纏わせた無属性を更に色濃く伸ばし、空間を引き裂く勢いで素振りをする。

「!?」それに反応し、ヴァークも無属性刀に魔力を込める。

「次の一振りで、仕舞にしようぜ……」

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