51.闇の剣士VS光の魔人 後編

 ヴァークとヴァルコが実験場で激闘を繰り広げている頃、リサとエルはその反対側、西エリアへ侵入していた。廃城とは違う内装に驚きながらも、ガラス瓶の中に入る悍ましい何かに身震いしていた。

「ここでどんな実験をやっていたのかしら……」と、リサは棚に置かれたファイルを手に取り、適当に捲る。

「先ほどのエリアは『闇の瘴気の研究』でしたが……ここは?

「どうやら……『人間を人工的に作り出す実験』を幾度となく行っていたみたいね……細胞の培養、遺伝子研究、水魔法と呪術による学習……ん?」と、3冊目のファイルを手に取り、興味深そうに目を泳がす。

「どうしたんです?」

「……どうやら、光魔法の研究も行っていたみたいね。闇の弱点は光……故に、最強の光使いを味方にすれば、魔王を倒せる……か」

「でも、光使いって言っても、光るだけですよ?」と、自分の指先を光らせる。

「確かに、現在、光の使い手は殆どいないけど、数千年前にはいたらしいわ。ほら、ククリス王の先祖が光の勇者だっていうじゃない?」

「え? 光の勇者って本当に光属性使いだったんですか? 比喩表現化なにかだと思っていました」

エルの言う通り、それだけ光属性とは頼りない属性であった。ただ暗闇を照らす事しか出来ず、彼は昔から『ランタンボーイ』と馬鹿にされていた。

「あたしもそう思っていたけど……ま、最強と言っても……想像が出来ないなぁ」と、リサはため息を吐きながらファイルを閉じる。

 それと同時に反対側である東エリアから地響きが轟き、天井から埃がパラパラと降ってくる。

「ったく、さっきから何? 地殻変動?」苛立つように頭に乗った埃を払う。

「まさか、爆発とかしませんよね? ここ……」エルは表情を青ざめさせながら身震いした。

「まっさかぁ~」



 紫光が交差する度、空間が破ける様な激音が轟き、実験室の壁が衝撃波で引き裂かれる。

 ヴァークは冷静な面持ちでヴァルコを見据え、数分前よりも優位に立ち、圧倒的手数で攻めていた。

 ヴァルコは相変わらず無表情のまま嵐の様な斬撃を全て防ぎ、光で反撃していた。

 ヴァークは相手のパターンが見えてきたのか、その光の破壊砲を軽々と避け、慣れた様にダークネスブラストを放つ。

 しかし、ヴァルコには闇魔法は効かず、全てを光で弾いた。弾かれた闇はひび割れた壁に着弾し、不気味にへばり付いた。

「ふぅむ……そろそろ、終わらせるか……」ヴァークは闇色の瞳を光らせ、攻撃の型を変える。突きに特化した連撃の構えであった。

 彼のその技は、素早い踏み込みから相手の死角へ入り込み、そこから瞬時に連撃を叩き込んで防御を崩し、一閃を叩き込む必殺の剣技であった。実際にこの技はゼルヴァルトが得意とする技であった。が、ヴァークの得物は基本的に防御を貫通する為、牽制打の必要が無く、すなわちこの技を使う機会に恵まれなかった。

「今度こそ斬る……」ヴァークは目に殺気を滲ませ、ヴァルコの死角へと瞬時に移動する。

 そこから彼は突風の様な連撃を浴びせた。相手の大剣はそれらを全て正確に弾き、付け入る隙を見せなかった。

 そしてついに、ヴァークはヴァルコの防御を崩し切る事が出来ず、最後に無理やり一閃を決めて向直る。

 ヴァルコはその渾身の一閃すら防ぎ、澄ました顔でヴァークを見据えた。

「憎たらしいな……」ヴァークはそこで初めて苛立つような声を漏らし、ため息を吐きながらも再び地面を蹴り、絶対切断の刃を振り下ろした。



 ところ戻って西エリア。リサとエルは興味本位でファイルを読み進めながら脱出口を探し続けていた。

「ん? なんか嫌な予感がするなぁ……」エルは首筋の産毛が逆立つのを感じ、うなじを触る。

「その予感、当たってる……」と、リサはファイルを傍らに置き、目の前に集中する様に彼の肩を叩く。

 彼らが歩く廊下の突当りには椅子が置かれ、そこにはエルザが脚を組んで座っていた。微笑を浮かべながら顔を上げ、黄色い目で睨み付ける。

「ここは通さないわよ」

「って事は、この先が出口?」リサが首を傾げながら問う。

「そう言う事……通りたければ、私を殺すのね」

「なんだ、随分簡単なのね」リサはエレメンタルバスターガンを構え、ニヤリと笑って見せる。

 が、この武器は役に立たなかった。属性砲を発射する為のエレメンタルクリスタルは全て濁って砕けたため、この武器で使える機能は銃剣のみであった。

 その弱味を見せない様にリサは勝ち誇った様な表情でエルザを睨み、殺気を滲ませた。

「……光魔法の準備……」リサはエルに小声で指示しながら自分の後ろへ隠れる様に指示する。

「は、はい……」彼女の無茶ぶりに焦りながらも、エルは精一杯の魔力を己の腕に集中する。もちろん、彼の光魔法は攻撃魔法として使える程、鋭くはなかった。

「……あらあら? リサァ……あんたの武器からは殺気を全く感じられないんだけど、どういう事?」椅子から立ち上がり、エルザは2振りを抜刀し、闇を帯びながら構える。

「もちろん罠よ。さ、飛び込んでいらっしゃい」リサは内心で焦りながら口にする。今の彼女は闇属性に覚醒したばかりなので上手く扱えず、逆に先ほどよりも上手く立ち回れる自信が無かった。

「遠慮なく」と、エルザは己の作り出した闇だまりの中へ姿を消す。

「いい? 現れたら、わかるね?」と、バスターガンを構えながら口にする。

「って言われても、目晦まし程度しか……」

「それで充分よ……眩ませたら、この銃剣を心臓に……」

 と、言う間に廊下の影からエルザが肉食獣の様に飛び出す。

 エルは焦り、相手のいる方向へ指を向けて眩い光を放つ。

 しかし、エルザの方が素早く、彼の放った目眩ましを避け、二刀をリサ目掛けて振る。

 リサは彼女の一撃をバスターガンで受け、銃剣で反撃する。その一撃は頼りなく、簡単に払われる。

「ご自慢の武器は壊れたのかしら?」と、剣に纏った闇を撒き散らし、炎の様に襲い掛かる。

 その魔法攻撃をエルは光で打ち払い、そこから更にリサは片手に持ったナイフを振るう。重たい銃剣とは違い、軽々と扱い、あっという間にエルザの頬に傷をつける。

「何?!」

「接近戦の授業は、あたしの方が得意だったものね」揶揄うように口にしながら笑うリサ。

「舐めるな!!」と、目を血走らせて飛びかかる。

「そして……挑発に乗り易い!」と、リサはバスターガンのトリガーを引く。

 すると、銃剣が銀矢の様に飛来し、エルザの胸に深々と突き刺さる。

「ぐばぁ!!」脚を震わせ、胸に刺さった銃剣を引き抜こうと手を掛ける。少し触っただけでショックが強いのか、勢いよく吐血し、膝を付く。

「悪いね……」と、リサはバスターガンを捨て、胸に溜まった息を吐き出す。

「わ、私は……選ばれし闇使い……の、はずでしょ……う?」エルザは黒い血だまりの中へベチャリと倒れる。

「あ、あっという間だった……」エルは呆気にとられ尻餅を付く。

「えぇ……こっちが秒殺されかねなかった……」

「お役に立てず、すみません」

「そうかな? 本当に役に立ってなかったら、こっちが殺されてたよ」

「そうでしょうか?」未だに震えるエルだったが、その手をリサが強く握る。

「さ、早くここから脱出!」

「お、は、はい!」顔を赤らめ、エルは彼女に引っ張られた。

 そんな彼らを尻目に、エルザの身体がピクリと動き、脚がカタカタと震えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る