48.光の脅威、闇の覚醒

「さて、私はそろそろ行こうかな」ナイアは髪を整えながら腰を上げ、研究所の奥の方へと目を向ける。

「え? 一緒に行かないんですか?」エルは驚いた様な声を上げながら勢いよく立ち上がる。

「な~に甘えた事を言ってるのよ。別に私ゃ黒勇隊のアドバイザーでも何でもないし~」と、ナイアは何の迷いもなく研究所のドアに手を掛ける。

「ちょ、ちょっと! リサさん! 早く行きましょうよ!」と、エルが彼女の手を引く。

 しかし、リサは唸りながら頭を押さえて首を振った。

「ゴメン、今はマジ無理……三日酔いの二日目って感じなんだよね……あと5分は休ませて……」と、目覚めてから1時間休憩しても回復仕切らない彼女は弱音を吐き、また苦しそうに唸りながら彼の手を振りほどく。

「うぅ……じゃあ、5分だけですよ?」

「悪いね……」

「あんた達、酒場にいそうなコンビね……じゃ、そう言う事で~」と、ナイアはスルリと姿を消した。

 彼女を見届けた後、リサは重たそうに首を上げ、エルの顔を見る。

「あいつ、昔は黒勇隊のアドバイザーだったらしいわ」

「……本当ですか?!」仰天するような声を上げ、納得するようにため息を吐く。

「元4番隊隊長だったゼルヴァルトに協力し、勇者の時代で活躍したそうよ。もちろん、狩る側でね」

「狩る側で……ですか」エルは一気に表情と声を暗くさせ、元気を無くした様に背を丸くする。

「ん? どうしたの?」

「……俺の父さんは、勇者の時代の初期に魔王討伐へ向かい、戦死したんです……まさか、あの人が……?」

「……さぁ? そこまではわからないけど……てか、そんな因縁があるのに、あなた、何で魔王軍に入ったの?」リサは上体を起こし、彼の目を真っ直ぐ見る。

「それは……言いたくないです」と、更に表情を隠す様に俯く。

「そう……多分、あたしと同じ理由かもね」と、リサは咳をしながら目を閉じる。

「え? どういう事です?」

「語る気が無いなら、聞くな」と、ぴしゃりと言い放ち、リサはそのまま寝息を立てた。

「……5分だけですよ……」



 レックスと獣を消し飛ばしたヴァルコは、大剣を担ぎながら周囲の城下町の状況を確認する。彼の周囲には、まだ多くのダークグールがひしめいていたが、誰一人この光の魔人に襲い掛かる者はいなかった。

 何故なら、ダークグールの弱点は言わずもがな光であり、常に光を纏うヴァルコに襲い掛かる事が出来なかった。ただ、相手の攻撃が届かない間合いで牙を剥きながら威嚇するだけであった。

 そんな彼らをひとしきり眺めたヴァルコは、手の中で光を集中させ、光球を作り出す。そこから更に、周囲煌めくありとあらゆる光を吸い込む様に手の中に魔力を集中させ、やがて太陽の様に煌々と光る球が出来上がる。

 現在の時刻は夜であったが、城下町はまるで昼の様に明るくなる。

 彼の首筋のアクセサリーが光った瞬間、その光をダークグールの集団に向かって投げつける。それは矢の様に高速で飛び、群れの中へ突っ込む。

 その瞬間、ダークグールたちは次々と内側から燃焼していき、真っ赤になって爆ぜ飛んでいく。光は群集の中で伝播し、稲妻の如く広がっていく。

 一瞬でダークグールの群れは灰と化し、雨の様に降り注いだ。

 ヴァルコは一言も発さず、無表情のまま掲げた腕を降ろし、その場に大剣を突き立てた。

 それを塔の上から一部始終眺めていたアドラルは、腹を抱えて笑い、満足げに彼を見下ろした。



 その頃、地下研究所の拷問椅子のある部屋で倒れたフィルは、突如としてムクリと起き上り、何とも言いたげな表情で胸を掻き毟る。

「う~~~~~~! 気持ち悪ぃなぁ!! なんかこの任務で覚悟はしていたが……生き返るのがこんなに気持ちが悪いなんてなぁ……」と、血塗れになった上着を脱ぐ。「うぉわ! 下着まで血がぐっしょりじゃねぇかよ!! 着替えを持ってくればよかった!!」

 彼は奥歯に仕込んだ特製ヒールウォーターの入ったカプセルを、胸を貫かれた瞬間に噛み砕いたのであった。それはゆっくりと身体へ作用し、破壊された心臓や骨、筋肉を再生させた。

「さて、死を偽装するまでは想定内だな……ここから反撃開始だ。その前に!」と、意気込んで立ち上がるかと思えばその場でへたり込み、腹を押さえる。

「……血肉がめっちゃ減ったせいか? 腹減ったなぁ……なんか栄養に良いモノが食べたいなぁ……」と、彼はヨロヨロと起き上り、拷問椅子の部屋を出た。



 ヴァークは生き残った隊と合流し、地下の牢獄エリアの探索を続けていた。彼が加わった途端、リサ達の痕跡を見つけ出す。本の散らばった部屋にある隠し通路を見つけ出す。

「この先だな……」ヴァークは少々焦る様に一歩踏み出すが、それを察知した様に隊員が彼の肩を掴む。

「隊長、この先は危険です。まず我々が先へ向かいます」と、頼もしい声と共に彼より一歩前に出る。

「しかし……」と、前に出ようとするが、それを遮る様に続々と隊員たちが彼の前に出る。

「まだ俺たちは何の活躍も出来ていません! 偵察ぐらいはさせて下さいよ!」と、ヴァークを自分たちの最後尾に立たせる。

「……くっ……すまない」自分が冷静でない事に気が付き、頭を押さえながらため息を吐く。

 それを尻目に隊員たちは本棚の奥の隠し通路を警戒しながら進む。

 が、それを阻む様に奥から闇の瘴気が彼らを出迎えた。

「なに!!?」油断したヴァークは彼らを救おうと前に出ようとする。が、次の一手に間に合わず、一気にヴァークたちは瘴気の中へ飲み込まれていった。

「ぬぐっ! くそっ!!」何とか1人でも多くの隊員たちを救おうとするが、瘴気は容赦なく隊員たちを蝕み、全員を闇色に染め上げて行く。

 しかし、途中で彼はある異変に気が付き、その場に立ち尽くした。

 闇の瘴気は自分の肉体や精神を蝕むことはなかった。

更に、少々消耗した体力は回復し、気分も高揚していた。心臓の鼓動が高鳴り、倒れ行く隊員たちを目の当たりにしても身体は冷える事は無かった。

「なんだ? この瘴気のせいなのか? こんなに気分がいいのは初めてだぞ?」と、瘴気のど真ん中で魔力を昂らせ、試しに無属性の刀身を伸ばす。いつもより長く、鋭く色濃い刀身が練り上がり、自分でも驚く。

「……一体どういう事だ?!」

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