41.襲い来る瘴気 前篇
リサはバスターガンの銃剣を伸ばし、エリザの一撃を防ぐ。火花と闇の飛沫が飛び散る。
「あんたの言ってる事、サッパリわからないんだけど?! とりあえず、あんたは正気を失ったって事でいいんだよね!」リサは受け太刀しながらも銃口を光らせ、サンダービームを放つ。
エリザは闇のシールドで防ぎながら後退し、余裕の笑みを覗かせる。
「闇の前では無駄よ。どんな属性攻撃でも弾く事ができる。わかったら、大人しく死になさい!」と、エリザはブレードの切っ先で床を撫で、闇の軌跡を描きながら間合いを詰める。その軌跡から闇が勢いよく噴き出て、周囲に降り注ぐ。
それを見た隊員たちは驚きながらも、物陰へ身を隠す。
エリザの二刀が左右からリサに襲い掛かる。が、彼女はバク転して距離を取りながらバスターガンに魔力を込める。
が、向き直った瞬間、エリザの刃が眼前まで近づく。
「く!!」銃剣で受け、切っ先を払う。が、もう一刀の斬撃が胸のプロテクターを斬り裂き、装甲をパラリと落とす。
「次は腸を斬り裂く!」エリザはもう一歩踏み込み、更にもう一撃振り抜く。が、次の瞬間、鋭痛を感じ取り飛び退く。彼女の脇腹にはサバイバルナイフが突き刺さっていた。
「あんた、訓練所時代よりも弱くなった?」リサは挑発する様に口にし、追い打ちする様にバスターガンを光らせる。
「言ったでしょ! 私に属性攻撃は効かない!!」と、闇のバリアを張る。が、彼女の自信を突き破る様に銃剣が闇を斬り裂く。エリザは狼狽し、飛んできた銃剣を防ぐも、軌道がズレて肩に突き刺さる。「ぐぁ!!」
「その障壁も、物理攻撃は弾けないみたいね!」
「くぉの!! 私はあの頃からあんたの事が気にくわなかった!!」
「それは知ってた」リサはクスクスと笑いながらもバスターガンを操作し、銃剣に付いたワイヤーを巻き取り、強引に引き抜き、手元に戻す。
「ぐぁ!!」
「新たな力に酔った者なんて、所詮こんなモノね」
ヴァークの袈裟斬りに沈んだ獣は、咆哮の後に当然の様に立ちあがり、早々に両腕を振り上げる。振り下ろされたその攻撃を、ヴァークは余裕で避けた。
「不死身か? この化け物……」
「流石の隊長でも手こずるか」レックスは大太刀を担ぎ、彼の顔色を伺うように口にする。
レックスはヴァークの前に立とうと一歩前に出るが、それを彼が遮る。
「?」
「……この獣は、私が倒そう」目をギラリと光らせ、小太刀に纏う無属性エネルギーを強め、レックスの大太刀以上に長い刀を作り出す。普段は眠たげな眼差しも、目をカッと開き殺気を荒れ狂わせる。
そんな彼を見て、獣は大きく咆哮し、臆する事なく飛びかかる。
ヴァークは獣の攻撃を軽やかに避ける。彼の足運びは壁の方へ逃げることなく、獣の間合いの中で踊る様にステップする。
フィルはそれを観察しながらも手の中で小さな機械を弄っていた。
「流石、隊長さん。動きに無駄が無い……」と、感心しながらも排気口から吹く黒い霧を見る。「さて、そろそろ……」
「おい!」そんな彼を見てレックスが彼の肩をむんずと掴む。
「お? なんのつもりだ?」
「おい芝生頭! お前の知っている事を全部教えろ!! てぇか、お前らの目的はなんだ!!」レックスは今までにない程に目を鋭くさせ、彼を睨んだ。
「ったく、しつこいっすねぇ~ オタクらは大人しく探索していればいいんっすよ!」
「で、その間にお前は何をしているんだ? その手の中にある機械は何だ?!」と、彼の腕を掴む。
その機械は風魔法を散布し、戦闘データを記憶する装置だった。
「これは……なんだ!! 説明しろこの芝生頭!!」レックスはそれが何だか知らず、怒鳴りながら問う。
「言える事はひとつっす!! 俺もオタクら同様、真面目に仕事をしているだけっす!! 俺は邪魔をしてないんっすから、オタクらも邪魔すんな!!」
「だがよ、お前らの掴んだ情報を共有できなきゃ、満足な仕事が出来ないんだよ! わかったらお前の知ってることを全部白状しろ! この芝生頭!!」
「芝生頭って呼ぶな!! この紅ショウガ頭!!」
「んだと、ゴラァ!!!」
2人が口喧嘩をしている間にヴァークは獣の指を斬り落し、背中を撫で斬りにする。斬り裂かれた背中は肩甲骨、肋骨ごとパックリ開き、脈打つ心臓が露わになる。そこを突いて貫き、衝撃波を流し込んで爆裂させる。
獣はボコボコと吐血し、地面に倒れ伏す。
「流石に死んだか」ヴァークは無属性を収め、元に戻った小太刀を一振りする。
しかし、獣は直ぐに立ち上がり、爪を振り下ろす。ヴァークは小太刀のままそれを受け止めた。
「どうなっているんだ? 心臓を破壊しても生きているだと?」と、するりとすり抜けて飛びのき、再び無属性の刀身を伸ばす。
獣は黄色い瞳を血走らせ、ガラガラと咆哮する。
「では、粉微塵になるまで斬り裂くしかあるまい……」と、ヴァークは突きに特化した構えを見せ、腰を深く落とした。
すると、襲い来る獣は急に立ち止まり、呆けた様にヴァークを見つめた。
「? なんだ?」調子が狂ったように首を傾げながらも、構えを解かずに睨み続けた。
「お、お前は……ゼルヴァルト……」
急に獣が咆哮以外の口を利き、それを見た周囲の隊員たちが驚愕する。
「??? ゼルヴァルト? 一体何を言っているんだ?」ヴァークは目を丸くして表情を強張らせた。
「てか、しゃべれるのか……嘘だろ?」口喧嘩を止め、レックスも首を傾げた。
その間にフィルは更に一歩下がり、腰に備わったポーチからあるモノをこっそりと取り出す。
「ゼルヴァルト……の、弟子か? 型を上手く操っている……」獣は更に口にし、一歩進んでヴァークをまじまじと眺める。
「型?」
「おぉ、そう言えばその型……どこで学んだのか俺も気になるな」レックスが頷きながらヴァークの方を見る。
彼の剣術は獣が言う通り、黒勇隊総隊長ゼルヴァルトが操る型であった。彼は3種類ほど型を使い分けており、どれも攻撃型であった。これを操れる者は殆どおらず、ゼルヴァルトが黒勇隊最強と呼ばれる所以となっていた。
「どこで学んだ……その型……」獣の瞳が人間味を帯びる。
「どこで? ……俺はこの型を、型を……」思い出そうと頭を捻るが、急に頭痛がしたのか頭を押さえ、表情を歪める。
「なんだ? どこで修業したのか覚えてないのかよ」
そんなやり取りの中、排気口から黒い霧が色濃くなっていき、天井を黒く覆い尽くし始めていた。更に色濃く漆黒を描き、存在感を露わにする。
「おい、アレはなんだ?!」隊員のひとりが天井を指さした瞬間、黒い霧が彼らに向かって襲い掛かる。
「ぬっ!」ヴァークは一瞬で黒い襲撃を避け、足腰の抜けた隊員を抱えて舞踏会場から出す。「逃げろ!! お前らも一旦退け!」
「は、はっ!!」隊員たちは彼の命令で混乱した頭をクリアにし、急いで舞踏会場から出る。
「ちっ! 今度はなんだ?! っておい!!」レックスは黒い靄から身を翻しながらも余裕で何かを準備するフィルの型を掴む。
「わ! なんすか!! 邪魔しないで下さいよ!!」彼はガスマスクを付けていた。
「なんだそれは! この事態も想定済みか、この野郎!」
「悪いっすね、こいつぁ一人分しか持ってきてないんっす。精々、良いデータを採らせて貰いますね~」と、フィルは彼を振り払い、足早に舞踏会場を出て三階への階段を駆け上った。
「くそ! 待ちやがれ!!」と、続こうとするが、背後から殺気を感じ取りそちらの方を向く。彼の眼前には闇の瘴気をたっぷりと吸い込み、再び正気を失った獣が涎を垂らして前傾姿勢を取っていた。
「ちっ……ふざけやがって!!」と、大太刀を構えるが、彼の眼前にヴァークが立つ。
「お前も引け! この黒い靄はなんだかヤバいと思う!」
「うるせぇ! この獣は本来、俺の獲物だ!!」
「獲物だ好敵手だと言う前に、生きて帰る事を考えろ! 4番隊の二の舞になりたいのか?!」
「ちっ……入隊したての割には立派な隊長だな! あんたはよ……」と、レックスは観念した様に矛を肩に担ぎ、舞踏会場から出た。
「……この獣、何者かは知らないが……また会おう」と、ヴァークは舞踏会場に誰も隊員が残っていないのを確認し、自分も引き、3階へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます