31.エディVSラスティー 勧誘編
司令本部会議室で反乱軍穏健派リーダーとの話し合いを終えたレイは、自室へ戻り、死んだようにぐったりとソファに寝そべっていた。顔面におしぼりを乗せ、白目を剥き、呼吸の度に疲労のため息を吐く。
そこへ暇を持て余したキャメロンが現れ、気安くデスク前の椅子に座り、彼に向き直る。
「で? 話し合いはどうだった?」机の上の果物に手を伸ばし、ソルティーアップルを弄ぶ。
「……ん? キャメロンか?」おしぼりを退かし、不機嫌な猫の様な表情を覗かせる。
「キーラかと思った? 残念でした」と、遠慮なく果物を大口開けて齧る。
「いや、丁度報告する相手が欲しいと思っていた所だ」と、重たそうに身体を起こす。
「ん、話していいよ」
反乱軍穏健派リーダーはラスティー達からの援助を求める代わりに、得た情報の全てを渡すと約束した。
彼らが掴んだ情報によると、『大臣を辞めさせる会』を反乱軍へ仕立て上げた張本人こそ、インヴァード大臣であった。
大臣は反乱軍とベルバーンを利用し、政権の転覆を企んでいた。実際、ベルバーンが街に向かって無属性砲を向けていた時、大臣は街から離れて砦に自分の抱える軍と共に機を計らっていたのだった。
「ふぅ~ん……こりゃこれからも忙しそうだなぁ~」と、残ったリンゴの芯を焼いて灰 も残さずに塵に変え、手を払う。
「今よりも、な。明後日はその大臣との挨拶へ向かう」
「うわぁ……ボスとの騙し合いが始まるわけね……」
「そう言う事だ」と、背もたれに体重を預けて目を瞑る。
「んで、ボスは今どこ?」
「エディとの遊びに付き合いにグレーブルウッドへ向かった」彼はラスティーから策の全てを聞いている為、安心して彼を決闘へ向かわせたのだった。
「あの森へ? あそこは強盗団の巣窟じゃん!」と、キャメロンは立ち上がり全身に魔力を滲ませる。
「あ、心配はいらないぞ。何せ……」と、言う間にキャメロンは窓から飛び出して炎の翼を生やし、真っ直ぐ自分の愛馬のいる馬舎へと向かい、颯爽と跨ってグレーブルウッド方面へ向けて奔らせた。
「最後まで聞けよ……」レイはそこまで言うと、クッションを頭の下に置き、寝息を立てはじめた。
その頃、ラスティーは一通りの情報を集め終わり、アジトの大きな椅子に腰掛けていた。得意げに煙草の煙を吐きながらエディの言葉を聞き流す。
エディは先ほどから言葉遊びを繰り返してはラスティーに喧嘩を売り、一言で叩き落とされていた。
「くっそぉ……もういい!」諦めた様にエディも近くの椅子に座り、腕を組んで鼻息を鳴らした。
「お前、いくつだ?」ラスティーはここでやっと彼の目を見て口を開いた。
「20だ。あんたは?」
「22だ」
「あんまり変わんねぇじゃないか! ったく、経験もそんなに変わらないのに、俺には何が足りないんだ!」と、面白くなさそうに足をテーブルに乗せて踏ん反り返る。
「経験の内容じゃないか? ま、お前次第ではいい経験をさせないでもないがな」
「偉そうに言いやがって……言っておくが、俺はまだ負けてないぞ!」
「3勝24敗でか?」呆れた様に煙を吐き、苦笑する。先ほどからエディの口頭での決闘に付き合った結果であった。
「う……」
「お前、魔王討伐を目指していると言ったが、本気か?」
「本気でなければここまでやらないだろう? 俺は国を滅ぼされたんだ! それもゆるゆるとな! 国土、人、文化、国旗、全て魔王色に染め上げられたんだ! しかも、のうのうと生きる国民はそれに気付きもしない! 俺は魔王を倒し、自分の故郷を取り戻すんだ!」
「……俺は国を消し飛ばされ、闇の瘴気で包まれ不毛の大地に変えられた。ほら、この大陸の東側、あそこが俺の国だった……」
「どちらが悲惨か勝負するか?」
「いいや、そんなつもりは無い。だがな、同じ志を持つ者は、仲間になった方がいいと思うぞ」と、ラスティーは立ち上がり、エディの前に立った。「どうだ? そろそろ大人しく、俺らの仲間にならないか?」
「勧誘しているのか?」
「まぁな」
「……1000万はチャラか?」期待を込めてエディが問う。
「それとこれは別かな?」短くなった煙草を吐き捨て、踏みつける。
「ちぇっ……じゃあ、最後の勝負をしようぜ」と、エディはアジトの洞窟内に響く足音に注意を向ける様に言う。
いつの間にか、この洞窟内に数十の気配が立ち込めており、それら全てがラスティー達を探していた。彼らは外回りをしていた強盗団であった。
「ここを突破できたら、考えてやる」エディは気配を殺して身を顰め、ナイフを構えた。
アジトの外側には、武器を構えた強盗団員が100名以上待ち構えていた。なんと、このグレーブルウッドに潜む全ての強盗団が同盟を組んだのであった。
「いいか? ラスティーは生け捕りだ。エディは死んでも構わん。ラスティーを交渉材料にあのずる賢い大臣と取引だ。街のブラックマーケットは俺らの支配元に置くんだ!」グレーブルウッド東側を根城にする強盗団のリーダーが高らかに声を上げる。
すると、今度は西側を隠れ家とするリーダーが目を尖らせる。
「おいおい、この同盟は一時的なものだろう? 作戦が上手く行ったら、どうする気だ? 仲良くブラックマーケットを分けるのか? それとも……」と、目をギラつかせる。
今度は南側の強盗団リーダーが前に出る。
「冗談じゃないぞ! 数の少ない俺らは明らかに不利じゃないか!!」と、頭の悪い発言をする。
「おいおい、俺らは強盗団だ! 気に入らなかったら、奪うんだ! それ以上も以下もないだろう!?」と、高らかに言い放ち、拳を掲げる。
すると、彼の部下である強盗団員がそれに応える様に拳を上げる。
「ん? さっきよりも数が少ない気が……?」
同じころ、洞窟内では激闘が繰り広げられていた。ラスティーは得意の風魔法で灯りを消し、怯んだ隙に横から殴りかかる。エディも続き、ひとりひとりを確実に打倒し、数を減らしていく。
何度か不意を打たれるも、そこでエディは指先を向け、眩い光を放ち、相手の目を眩ませた。
「お前、光使いなのか?」相手の関節をへし折りながら口にするラスティー。
「あぁそうだよ。頼りない属性だが、使いように寄っては、ピンチを切り抜けられる」
「頼りないとは言わないさ」と、あっという間に最後のひとりの息の根を止める。「決定打に欠けるがな」
「ほっとけ。んで、外の連中はどうするんだ?」と、洞窟の外から感じる殺気の方へ指を向ける。
「そっちの方は手を回してある」と、余裕綽々で歩き始め、無警戒で洞窟を出る。
エディも恐る恐る出たが、そこには予想外の光景が広がっていた。
強盗団は殆ど倒れ伏し、その場には黒衣の者が数人だけ腕を組んで立っていた。その者達は疾風団という諜報員であった。彼らは優秀な暗殺者でもあるため、刺客から一撃で強盗団たちを静かに倒していったのであった。
「ご苦労さん」と、ラスティーが合図をすると彼らは音も無くその場から姿を消した。
「何だかズルいなぁ……あんな便利な連中までいるなんてよ」
「ワルベルトさんのお墨付きだ。そして、お前もな」と、ニヤリと笑いながら顔を向ける。
「どういう意味だ?」
「別に……っと、とっととここから離れるか。俺の予想だと、話を聞き付けたタイフーン強盗団の残党がここへ向かっている筈だ。そいつらまで相手にするつもりはないんでな」と、ラスティーは指笛を鳴らして愛馬を呼ぼうとする。
が、いくら鳴らしても馬はやってこなかった。
「え? え? 何で?」彼は知らなかったが、彼の愛馬は強盗団の手によって奪われ、グレーブルウッドより離れた場所まで連れ去られていた。が、気を効かせた疾風団がそれを阻み、馬は現在、近くの牧場へ預けられていた。
「……全て計算済みなんじゃなかったか?」嫌味の様に口にするエディ。
「マズいな……今の俺の脚じゃ早く走れないしなぁ……」彼の右脚はウィルガルムとの戦いの後遺症で麻痺し、上手く走れなかった。
「おい、どうした? 無事に帰還するまでが策だろ?」
「くそ! ここから歩いて帰るつもりはないぞ!!」と、意地になって指笛を吹く。
すると、上空から大きな火炎弾が飛来し、近場に着弾する。衝撃波を放ち、木々を揺らして強風を吹き荒れさせる。
「間に合ったかな?」
その者はキャメロンであった。
「お、良い所に……じゃない、計算通りだな」
「うそこけ!」エディは歯を剥きだして突っ込んだ。
「んで、ボス。遊び相手はいるの? もうパーティーは終わり?」
「いいや、もうすぐタイフーン強盗団残党が来る。そいつらを始末して帰るぞ! 馬に乗ってきたのか?」
「もちろん。あ、流石に3人乗りはきついかな?」と、エディの方へ顔を向けて目を細める。
「そう言う事だ。お前は歩いて帰れ」ラスティーも彼に顔を向け、目を細めた。
「……この野郎」
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