30.エディVSラスティー 牢屋編
粗方の引っ越しを終えたキャメロン達は食堂で一服していた。相変わらずローレンスは飯を両手に口をモグモグと動かし、それを呆れ顔でライリーが眺めていた。いつもと違うのは、この場にダニエルがいない事であった。彼は傭兵団長であるため、日々忙しく、彼らとつるむのが少なくなった。
「ボスもダニエルもいないし、エレンは忙しいし、ロザリアはノックダウン……あぁ~、めっちゃ暇だなぁ~」キャメロンは楊枝を咥えながら足をパタパタとさせる。
「オスカーのおっちゃん達はカジノ警備に任命されてから会ってないしなぁ……遊びに行くか?」と、ライリーが気の抜けた顔で口にする。
「いや、そこまで暇じゃないじゃん? 3時間後にはあたしが預かっている連中の訓練だし、色々と忙しいじゃん?」
「じゃあ暇じゃないじゃないか……」
「いや、この暇な3時間がさぁ……なんかやる事ないかなぁ~ってさ……レイは相変わらずなの?」
「あいつぁ今、反乱軍穏健派のリーダー(元参謀長)と相談中だ。国側との話し合いの時に、ボスが間に入る予定なんだと」ライリーはレイのいる会議に使っている建物へ首を向けた。
「……反乱軍なのに、なんで穏健派なんですかねぇ?」素朴な疑問をローレンスがポツリと口にする。
「…………なんでだろ?」
「なんでも、元々反乱軍の旗を掲げて戦ってはいなかったんだと。最初は『インヴァード大臣を辞任させる会』みたいな集まりだったそうだ」
インヴァードとは、このグレーボン国の前の王の時代からいる大臣であった。特別、悪名の高い悪徳大臣ではなかったが、この会のリーダーが大臣の悪行を知ったため、この集まりで大臣を辞任させる運動を起こしていた。
しかし、いつの間にかこの会は反乱軍へと変貌し、声と槍を掲げる様になり暴走したのであった。
現在はやっと元の『大臣を辞めさせるかい会』へ戻ったので、国王たちとの話し合いの場を設ける為、ラスティー達と頻繁に相談に来ていた。
「そのインヴァード大臣ってさ、どんな奴なの?」キャメロンは天井を眺めながら問う。
「さぁ? ダニエル隊長が言うには『俺よりも頭の薄い嫌な野郎』だそうだ。まるで虫けらでも見る様な目で睨まれたって」ライリーは煙草に火を点け、低く煙を吐く。
「ふぅ~ん……あぁあ……暇だ……」キャメロンは楊枝を吐き捨て、脚を更にパタつかせながら唸った。
その頃、ラスティーとエディはグレーブルウッドの森に潜伏する強盗団に捕まり、隠れ家の牢に繋がれていた。2人は別々の牢に入れられ、両手両足を拘束され、転がされていた。
強盗団は上機嫌に安っぽい円卓会議室で2人の処遇を話し合っていた。彼らはラスティーを人質にしてどこかしらと交渉しようと企て、エディは適当に拷問して情報を吐かせようと話し合った。更に、どんな拷問をしようか、何を聞きだそうかと頭に浮かぶままに相談し、たまに笑いが起こる。
「ったくぅ! 聞こえてるぞぉ!! 俺の待遇だけなんか雑じゃないかぁ!!」
エディは面白くなさそうに怒鳴り、拘束を解こうともがいた。普段は袖や靴にナイフを隠し持っていたが、それらの小道具は全て取り上げられていた。
「ちっくしょう……」芋虫の様に転がり、大きなため息を吐く。
「お、諦めたのか?」隣の牢に入れられたのか、壁の向こうからラスティーの声が小さく響く。
「諦めてねぇよ! ってぇか、あんたも情けないなぁ! アッサリ捕まってさぁ……」彼が見る限り、ラスティーは無抵抗で捕縛された。エディは多少抵抗し、肋骨を2本ほど折られていた。
「勝ち目がないタイミングで抵抗しても殴られ損だぞ? お前みたいにな」
「うるせぇ……ったく、俺の雇った連中はどうしたんだ? 最低でも、俺らが捕まった事は知っている筈だろぉ!」
「連中は来ないぞ」全て知っているような口ぶりをするラスティー。このセリフにエディは背筋をゾッとさせた。
「まさか、知っていたのか? あいつらを……」
「おぅ。5000ゼルぽっちで雇った駆け出しの傭兵だろ? その5000はカジノの客の財布からスッたんだろ? で、その足でブラックマーケットに向かい……」
「全部御見通しか……参ったねぇ……」
「そいつらはオスカーの部隊を紹介しておいたよ。やる気だけはあったからな。てぇか酷いな。一対一の真剣勝負だって言ってたクセによぉ……」
「るせぇ! あんただって正々堂々とやる気はないんだろ?」
「いいや? お前がその気だったら、俺もその気だったんだぜ? でも、お前が汚いマネをするなら、俺もそれに応えなきゃな~」
「……つまり、あいつらに捕まるのは計算通りだったと?」エディは更に冷や汗を垂らし、表情を強張らせる。
「おぅ。まず、どっちが早く牢を出られるか、でどうだ?」
「なんだとぉ!?」エディは顔を上げ、慌てた様な声を上げる。
すると、正面のドアののぞき窓からラスティーの顔が現れる。
「まず、俺の勝ちだな。次はどうする?」
「いや、え? 急に? ぅえ? ちょ、ちょっと待てよ!」急いで縄から抜けようともがくが、彼は器用な縄抜けの方法を持ち合わせてはいなかった。
「なんだ? 道具がなきゃダメか?」と、我が家の扉でも開くように牢のドアを開く。
「あんたはどうやって?!」
「親指を引っこ抜いたんだ。初めてやる場合は死ぬほど痛いが、慣れればそうでもないぞ」と、小さな真空波でエディの拘束を斬り裂く。
「ドアの鍵は?」
「隣にかかってたのを、木の枝で手繰り寄せた。牢の中は掃除してないのか、色々落ちててよ」と、自慢げに鍵束を見せる。
「……くっ……よし、そういう勝負なわけだな! じゃあ、次だ!」と、目を鋭くさせる。彼の目の先には、目を血走らせた強盗団が列をなして2人を睨み付けていた。
「こいつらを何人倒せるか、だ!!」と、エディは一番手前にいた強盗の手に握られたナイフを奪い取り、首を斬りつける。
「面白い」ラスティーも暴れ込み、得意の体術で関節をへし折りながら薙ぎ倒す。
強盗団は掛け声を上げ、出遅れながらも2人に向かって襲い掛かった。
数分後、ラスティーは余裕の足取りで強盗団リーダーの部屋で書類を漁っていた。
「あんたは何人倒した?」エディは口血を拭いながら問いかける。
エディは服装を見出し、打撲を何か所か負っていた。打って変わってラスティーは無傷であり、呼吸も乱れていなかった。
「悪い、数えてなかった」ラスティーはしれっと答えながら書類を捲り、興味深そうに唸る。
「あんた、何人倒せるか競うって言ったじゃないか!! 俺はきゅ」
「確か、この強盗団は27人だったな……つまり……」
「いや、俺も数えてなかった……うん」慌てた様に誤魔化し、咳ばらいをする。「じゃあ、次の勝負は……そうだな……うぅん……」と、ラスティーの姿を見る。
彼はエディには目もくれず、素早く書類を紐で纏め、適当な鞄に詰め込む。
エディは何をしてもラスティーには勝てないと悟り、悔し気に下唇を噛む。
「ん? どうした? 次の勝負はどうする?」
「そうだな……じゃあ!」エディは人差指を突き出し、自身ありげな顔を向ける。
「ん?」
「付き合った女の数はどうだ!! 俺は自慢できるぞ! 両手じゃ数えられない程だ!!」これは彼のささやかな自慢であった。と、言ってもギリギリ11人であった。
「……俺もだ」ラスティーは箪笥をひっくり返し始める。
「何人だ? え?」
「……ひゃく……数十だからなぁ……マフィア時代はよく遊んだもんだからなぁ~ ま、ここ数年はご無沙汰だがよ」
「な……な……なぁん……」エディは悔し気に膝をカタカタと震わせる。「ウソ吐けぇ!!」
「本当だよ。見栄で数百とか言うかよ。で、お前は何人だ? 60か? 70か?」
「俺はそんな変態じゃねぇ!!」
「じゃあ、俺は変態か? ……違いねぇな……」自嘲気味に笑いながら首を振る。「で、次の勝負は?」ため息を我慢しながら問う。
「じゃあ……じゃあ……借金の額! 俺は1000万だ!!」
「……お前の勝ちだ」
「よっしゃぁ!! やっと一勝!!」
「それでいいのか? お前……」
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