14.荒稼ぎ!

 コインを10万ゼルほど稼いだウォルターはすっかり注目の的となっていた。スロットを100発100中で揃え、従業員たちを困惑させた。イカサマを疑われ、入念なボディチェックも行われたが、ウォルターやエディからは何も出ず、首を捻るばかりであった。

「最高じゃないか! 何も臆す事は無い! ジャンジャン稼いでくれよ、ウォルターちゃん!」エディは鞄一杯のコインにご満悦であった。

「悪目立ちが過ぎる気もするが」目付きを悪くさせた従業員の顔色を伺うウォルター。

「大丈夫大丈夫! さ、もっと稼げるゲームに行こうぜ! ダイスなんかどうだ?」と、まるで遊園地に来た子供の様にウォルターの腕を引き、ダイステーブルへ連れて行く。

「賽か……」卓上のサイコロを目にし、何か懐かしむような目を見せるウォルター。

「得意なのか?」

「まぁな」と、100ゼル相当のコインを卓に置く。

 そこへエディが一気に2万ゼル相当のコインを置き、歯を覗かせて笑う。

「自信がないのか?」

 そんな彼を見てウォルターは鼻で笑い、鞄の中の全てのコインを12番にドンと乗せる。

「見てろ」彼はディーラーからサイコロをふたつ受け取り、手の中で転がす。昔を懐かしむ様に目を閉じる。

 子である周囲の客たちが一斉に各々の信じる数字にコインの山を築き、あっという間に大勝負の卓となっていた。

 そんな事には気にも止めず、ウォルターは目をカッと開き、ダイスを放り投げた。賽は小気味よく壁にぶつかっては転がり、くるくると回ってピタリと止まる。上に出た数字は両方とも6であった。

「12です」ディーラーが口にすると、エディは拳を振り上げて天井高く吠えた。

「流石だな! やっぱり、良いのは目だけじゃねぇんだな!」

「当然だ」得意げな表情を覗かせ、ウォルターは初めてニヤリと笑った。彼はヤオガミ列島で賭場の用心棒をしていた頃、暇があっても無くても手の中でサイコロを転がし、好きな目を自由自在に出すまで腕に磨きをかけていた。故に、ヤオガミ列島の賭場でサイコロを使った賭けには出禁となっていた。

「よぉし、この調子でジャンジャン稼いでくれよぉぉん!!」エディはバニーガールからカクテルをまた2杯受け取り、一気に呷りながら、彼の肩をバンバン叩いた。

「……そろそろ引き時だと思うんだが」と、周囲のギャラリーの中に入り混じった視線を感じ取りながらポツリと口にする。

 エディはそんな意見は聞き入れず、自分のかけていたサングラスをウォルターに付ける。

「お前がそんな目をするから怪しまれるんだよ! いいか? 相手を睨んでも、こっちの目は睨まれるな!」

「……それはそれで正しいな」ウォルターはサングラスが気に入ったのかクイッと上げ、今度はカードゲーム卓へと向かった。エディはそんな彼の後を溢れんばかりのコイン両腕について行った。



 ラスティーは国王の前で自分たちの今迄の活躍を端的に説明し、更に策を披露し終わり、少々喉を枯らしていた。

 彼のこの大陸の策は『ラスティーの軍を窓口に、手始めにグレイスタンと同盟を結ぶ』というモノだった。

 いきなり西大陸大同盟に加入させるのも無理な話であり、人の良いグレーボン王であっても、おいそれとラスティーを信じて同盟の話に飛びつく程、おめでたくなかった。

 故に、ラスティーは一番交流のあるグレイスタンとの間を取り持ち、王に同盟を結ぶよう進言したのであった。

「……確かに、グレイスタンからの支援があれば、今後の外交で優位に立つことが出来るかも知れんな」と、顎髭を撫でながら唸る。

「如何ですか?」

「この同盟で、グレイスタンは支援を約束してくれるのだな? こちらは何を差し出せばよいのかな?」

「バンガルドとロックオーン。これらの国との戦争を終わらせ、南大陸で三国同盟を結び、そして西大陸大同盟との合流の立役者になって頂きたい」

「それはそれは、大役だな……そこまでして同盟を結び、我々に何をさせたいのかな?」王はラスティーの目の動きに注目し、じっと見据える。

「魔王討伐です。魔王を倒すには、世界が一丸とならなければ不可能。ヤツを倒すためにはまず、孤立させなければ……」ラスティーは王から目を逸らさず、真っ直ぐに彼の鋭い眼光を真正面から受け止める。

「……確かに。だが、生半可な方法では魔王討伐以前に同盟、否……この大陸の戦争を終わらせる事は難しい」

「お任せください。その信頼を得る為にも、まず我々はこの国に蔓延る強盗団を退治してご覧に入れましょう」この国は反乱軍の他にも大規模な強盗団に頭を悩ませていた。しかも、この反乱軍と強盗団が手を結び、力を増大させているという情報を聞き付け、東はバンガルド、ロックオーンの2国とのにらみ合いに集中できずにいた。

「成る程……よし、それが出来たら、お前を心から信じよう」

 ラスティー達は一礼し、玉座の間を後にする。そんな彼らの背を笑顔で見送り終え、王は早速大臣を呼びつけた。

「ジェイソン・ランペリアス3世……彼の魔王討伐の信念は間違いない様子だが、真の目的はやはり、己の国を取り戻す事にあるのだろう……大臣よ、目を離すな。もし、この国の民を……寝首を掻くような素振りを見せたら、軍を送りつけて根絶やしにせよ」



 ラスティー達は城を後にし、宿へ戻っていた。同行したオスカーは着馴れないスーツを鬱陶しそうに脱ぎ捨て、普段の軍服に着替える。

「結局、俺達が話す機会なんかなかったな」残念そうにダニエルが漏らす。

「普通はあれでいい。その前にオスカー! 王の間で身体を掻くのはどうかと思うぞ!」ネクタイを緩めながらキーラが声を鋭くさせる。

「首の周りがチクチクするんだよ! こういう縛り付ける様な服装、俺は苦手なんだよ!」

「着馴れればこれほど快適な服はないんだがな」ラスティーはテーブルの上に置かれたフルーツバスケットの中のビターレモンの皮を齧った。

「で、あの王はどう出ると思う?」キーラは心配そうに問うたが、彼は自身ありげに口を開いた。

「ま、亡国の王子である俺を一発で信用するわけが無いわな。そこは少しずつ信頼を獲得していかなきゃな。その為にも、直ぐの戻るぞ!」

「えぇ~ この街はカジノがあるって聞いたんだが、少し寄っていかないか?」と、オスカーはダダを捏ねる様に頬を膨らませる。そんな彼の背中を小柄なコルミが強めに小突いた。「いでっ」

「中々魅力的だが、今度な。この国でひと段落したら、皆に休暇を与えるさ。それまで、我慢してくれ。いいな?」と、ラスティーは笑顔のままオスカーに少しずつ詰め寄り、顔をジリジリと近づける。

「わ、わかった……」笑顔の圧に負け、オスカーは諦めた様に肩を落とした。



 その頃、ウォルターのいるカードゲーム円卓の上には唸る程のコイン、ではなく100万ゼル分の札が3枚置かれていた。円卓の周りにはこの国の貴族や、西や東の大陸からお忍びで観光に来た富豪が座り、カードを伏せて周囲のプレイヤーの顔を睨んでいた。そんな彼らの中にいるウォルターとエディは明らかに場違いな存在であった。

 しかし、一番勝っているのは勿論、ウォルターであった。

「お前、カードゲームも得意なんだな」

 すると、ウォルターは彼の耳元で囁いた。

「シャッフルの合間に絵札を記憶しているし、ディーラーの指の動き、目の配り方からどんな手札が配られているか、確率から予想することが出来る。更に、プレイヤーの瞳に映った僅かな像からどんな手札か盗み見る事も出来る」

「お前、それ……っ」イカサマという言葉を飲み込み、愉快そうに太腿を叩く。

「これが眼術」得意げに笑い、100万ゼル札をもう一枚上乗せする。

 周りのプレイヤーは我慢できずに次々にゲームを降り、最終的にこの国の貴族との一対一の勝負になる。

 結果は勿論ウォルターが勝ち、卓上には800万ゼルもの大金が集められる。

「よっしゃよっしゃよっしゃあぁ!! あと1ゲームやれば1000万じゃねぇか!! 流石俺のウォルターちゃん!!」と、はしゃぐ間に周囲からギャラリーの気配が失せ、代わりに凍り付いた視線が取り囲む。

「お客様、如何ですか? 奥のお部屋でお酒でも? シャンパンをご用意いたしましょう……」

「お、気が効いているじゃねぇか! ウォルター! 前祝しようぜ!」

「……やはり来たか……」何かを察したウォルターはため息を吐く。彼は周囲を取り囲んだのは従業員ではなく、昔の自分と同じ種類の人間だと見抜いていた。

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