13.夢と希望のカジノ
ラスティー達は早速、グレーボン首都の宿へ入っていた。そこで皆、前もって誂えたフォーマルスーツに着替えていた。
「こんな堅苦しい服を着るのは初めてだなぁ……必要なのか?」オスカーは不満げに口にしながら、ネクタイを弄っていた。
「もちろん。いつもの服装で行けば、『たかが傭兵風情』と舐められるのがオチだ。こういった最初の挨拶ってのは、第一印象が肝心だ。ま、俺はここに来るのは初めてじゃないけどな」ラスティーは馴れた様にジャケットを羽織りながら煙草を咥え、煙を噴く。
「初めてじゃない?」不思議そうにダニエルが尋ねる。
すると、キーラがゆっくりと口を開いた。
「彼と私とレイは、ここの王様に何度か謁見した事があるのよ。それに、ランペリア国が滅んだ後、逃亡生活中に匿ってくれて、船を手配してくれたわ。良い王様よ」
「その借りを返しにご挨拶ってトコロだな」
「それだけじゃないでしょう?」ダニエルは彼の顔を覗き込みながら額を怪しく光らせた。
「鋭いな。ま、恩を仇で返す様な事はしないから安心して着いて来てくれ」
「へいへい~ それより、このネクタイどうにかならないか?」悪戦苦闘しながら自分の首を締めそうになるオスカー。
それに見かねてキーラが彼のネクタイをまっすぐ伸ばし、慣れた手つきで締める。
「お、ありがとう」
「オスカーさん……いい? 王様の前で変な事は言わない様に」と、首の血管を少々圧迫する様に軽く締める。
「わ、わかってますよ……」
昼が過ぎる頃、エディとウォルターもグレーボン首都へと到着していた。エディは何を考えているのか、中央大通りにあるベンチに座り、人混みを値踏みする様に眺めながら新聞を広げる。ウォルターはそんな彼の隣に座り、エディを注意深く観察していた。
「ジロジロ俺の事を見るなよ」
「俺の仕事は、」
「わかってるよ。策が頓挫したらへし折らせてやるから安心しろ」と、徐に立ち上がり雑多の方へと歩き始める。彼は羽振りの良さそうな格好をした紳士に近づいていき、ぬるりと通り過ぎる。
エディは一定の歩幅で人混みを進んでいき、しばらくして通りから外れて裏路地へと歩いていく。ウォルターも彼に続き、目を細める。
「スッたな」と、ウォルターは低い声をエディの背中へぶつけた。
「おぅ。あの紳士は予想通りだな。他にも嫌な顔したヤツのを財布を2、3失敬させて貰ったぜ。それに宝石もな。これで大体、5000ゼルのはなるだろ」と、満足そうな声を出しながらウォルターの顔を見る。
「……そうやって1000万を稼ぐつもりか?」
「まさか! こいつぁ準備金を稼ぐための金だ。さ、こいつで服を買いに行くぞ!」
「服?」
「ついでにお前のも買ってやるよ」と、エディは紳士服店へと向かい、オーダーメイドのスーツと腕時計、サングラスを購入する。
「で? お次はどうするんだ?」慣れているのか、手早くネクタイを締め、エディのサングラスを覗き込む。
「いいか、国の首都には必ず観光地がある。大浴場だったり、闘技場だったり、博物館だったりな。で、この街には博物館もあるが、なんと欲張りな事に……カジノもあるんだ」
「カジノ?」聞き慣れない言葉を耳にし、首を傾げる。
「外国人をターゲットに金を吐き出させる賭場だよ。そこで1000万ゼルへの第一歩を踏むんだよ」と、エディがカジノ方面へと足を向ける。
ウォルターは気が進まないのか、彼の肩を掴む。
「やめておいた方がいい。そう言う賭場には、必ず目を光らせる親玉がいる。そいつに目を付けられると、1000万を稼ぐどころじゃなくなるぞ?」彼は経験をしたことがあるのか、エディに忠告し、小さく首を振った。
「お、よくわかってるじゃないか。ま、大丈夫だろ? お前は黙ってついて来ればいいんだよ。どーせ付いて来るなって頼んでも付いて来るんだろ?」と、エディは彼の手を払いのけ、意気揚々と歩き始める。
「嫌な予感がするな……」
グレーボン首都のカジノは、煌びやかな装飾で観光客を誘い、バニーガールの衣装を着た女性がサービスのカクテルでお出迎えしていた。このカジノのモットーは『ある程度勝たせて希望を持たせ、欲深き者は身ぐるみ剥ぐ』というモノであった。
ルーレットやスロット、カードにダイスなど遊び放題賭け放題、そしてイカサマし放題に見えた。が、床には封魔法陣が仕込まれており、天井からはイカサマ鑑定士ともいうべき目利きの出来るプロが数十人体制で客を見張っていた。
故に、少しでも怪しい動きをする者は容赦なくバックヤードへと連れ込み、利き腕を叩き潰して裏路地へ放り投げていた。
そんな物騒にも聞こえるカジノではあるが、何も知らない観光客からすれば、遊び放題の大人の楽園であった。
そこへ野心の塊と化したエディが現れ、早速、バニーガールの御持て成しを笑顔で受け取る。
「お前も呑むか?」カクテルグラスを2つ受け取り、一杯飲み干す。
「いや、私は酒は……」バニーガールの胸の谷間を数秒凝視してしまい、頭に熱を持って目まいを起こしたウォルターが首を振る。
「ま、お前を酔わせても仕方ないな。さて、賭け事は得意か?」エディはウォルターの顔をマジマジと見つめ、何故かゴマをする様に手を揉む。
「賭け……? サイコロ遊びならガキの頃……」彼はヤオガミ列島にいた頃、賭場の用心棒をしていた事があった。そこでイカサマを働いた者の利き腕をへし折った事は何度もあった。
「そりゃ頼もしい。スロットはどうだ?」と、云いながら彼の背中を押し、あれよあれよとスロット台の椅子に座らせる。
「すろっと? やったことはないな……」
「よし、いいか? このコインを入れて、レバーを引く。んで、ボタンを3回押す。絵柄を揃えるだけの簡単なお仕事だ。やってみろ!」
「……? レバーを引き、ボタンを……」と、言われるがままにボタンを押し、バナナのガラを3つ揃える。すると、コインが10枚吐き出される。ウォルターの眼術にかかれば、絵柄を揃えるのは朝飯前以前の問題であった。
「よし、いいぞいいぞぉ~」
「待て、俺をダシに金を儲ける気か?」ウォルターは勘付いたのか、エディのにやけ面を睨み、殺気を滲ませる。
「あぁ。1000万の為にな」
「待て、何故俺がお前の手助けをしなければならない! 俺の仕事は、」
「俺をぶち折るんだろ! だが、考えてみろ? このまま1カ月、だらだらと俺に付いて回るか、早く1000万稼いで、俺から解放されるのか? お前だって、暇じゃないだろう?」と、ウォルターの弱みに付け込む様に口にする。
「んむっ……」ウォルターの普段の仕事はラスティーおよびレイの身辺警護。更に傭兵たちに無手での接近戦レクチャーも行っていた。今はその2つの仕事も出来ず、何故かこのこそ泥男の見張りを命ぜられ、少々苛立ちを感じていた。さっさとこのくだらない任務を終わらせ、いつもの任務に戻りたいと思っていた。
「わかった。お前の言う通りにしてやる」奥歯を鳴らしながら、目を鋭くさせ、レバーを握る。
「そりゃよかった! 次は王冠を3つ揃えてくれ! 100枚出てくるからよ!」
「……わかった」と、ウォルターは不機嫌そうに喉を鳴らし、力強くレバーを引いた。
玉座の間へ通されたラスティー達は、王を前にして礼を取っていた。
このグレーボン国王『ロン・バル・グレーボン2世』は仁君で通った国民を想う王であった。ラスティーの噂を聞き、彼は快く彼らを城へ招き、久々の再開を懐かしんでいた。
「無事、この大陸へ戻ってこれて何よりだ。お父上の事は残念だ……で、ジェイソンよ。其方の西大陸での活躍、耳にしておるぞ」
「良き噂ならいいのですが」ラスティーは面を上げ、笑顔を覗かせる。
「で、今度はこの国に来て、何をする気だね?」
「もちろん、西大陸での同盟に南大陸を加えようと企んでおります。その先駆けとして、まずこのグレーボンの協力を得たいと考えております。つまり、まず最初にこの国に同盟に参加してほしいのです」
「ふむ……しかし、問題があるのだ。今、この国……否、この大陸は同盟どころではないのだ」
彼の言う通り、この大陸は今現在も戦時中と言ってもおかしくない程物騒であった。観光客はいるが、それはこのグレーボン国の憲兵隊や軍が優秀である為であった。
しかも、反乱軍が虎視眈々と首都へ攻め込もうと企んでおり、それだけでも手いっぱいであった。
「いまのタイミングで同盟……それも南大陸一丸となっての同盟は……無理、いや、無理と考えたくはないが現実問題、不可能だ」王は苦しそうに口にし、ラスティーを見た。
「ご心配なく。我々には策がございます」ラスティーは自信たっぷりに口にした。
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