62.西大陸統一作戦! ローズ乱入編
「ジェシー・プラチナハートか……魔王に尾を振った元勇者……」侵入者の眼術使いは、彼女を知っているのか、鼻で笑う。
「あんたこそ、『世界の影』でしょ? 『世界の闇を操る』とか言って、闇属性使いがいないから恰好が付かないんだよね~?」ローズは余裕の笑みを返し、八重歯を見せた。
「言ってろ、雑魚が」癇に障ったのか、眼術使いは初めて目を血走らせ、ローズの片目を覗き込む。
すると、地に倒れ伏したウォルターはボロボロの上体を起こし、拳を握った。
「き、気を付けて……そいつの目は……」
「余計な口出しは結構」ローズは隻眼に雷属性を溜め込み、目玉全体を稲妻色に発光させる。身体を電流でのたくらせ、地の砂場に波紋が広がる。
「ふん……我々との戦い方を知っている様子だな。だが、それでも眼術の上を行く事はない」自信たっぷりに眼術使いは舌なめずりし、ブレード・フィンガーを光らせる。
「磨き抜かれた技術は魔術を凌駕するって? んじゃ、どうあがいても技術では乗り越えられない壁ってもんを魅せなきゃね」ローズは無警戒で歩を進め、眼術使いの間合いに平気で入り込む。
「馬鹿が!!」ブレード・フィンガーがローズの腹部目掛けて一閃する。
その瞬間、雷光が撥ね、眼術使いの指が飛び散り、生臭い霧が撒かれる。
「魅せるっていったでしょ?」
次の瞬間、彼女の豪打と蹴りが一瞬で眼術使いの身体に叩き込まれ、上半身の骨が全てブチ折れる。相手は目を回しながら吐血し、憎まれ口を叩く間もなく地に倒れ伏す。
「強っ……」キャメロンが素直に驚く。
「くっ……」悔し気に歯を食いしばるキーラ。
「ご清聴どうも。さて、持って帰るか」ローズは手早く鋼糸入りロープを取り出し、一瞬で眼術使いを縛る。
「そ、そいつは私たちが!」傷を押さえながら強気に立ち上がるキーラ。
しかし、ローズは負け犬を見る様な目で彼女を睨み返し、鼻を鳴らす。
「どの口が言うの? アタシの目的はこいつなの。あんたらを助けたのはそのついでって奴。ディメンズのオッサンには『これで貸しひとつ』って言っておいてよ」と、軽々と自分と同じ体格の眼術使いをひょいと肩で担ぐ。
「どうやって倒したの? そんな戦いにくいヤツを……」キャメロンが不思議そうに尋ねる。
「雷神眼って奴よ。相手の肉体の電気信号を読み取って、動きを読む事が出来るの。これを使えば、眼術使いなんて、ただの魔術素人みたいなもんよ。そんなの、相手にならないでしょ? よーするに相性ってやつよ。ぶっちゃけ、ここにいる3人は皆、実力は同じに見えるわ。カテゴリーが違うだけでね。相手が悪かったってだけよ。だから、落ち込まないでね」ローズはしたり顔で血みどろの彼らの顔を眺め、にやりと笑った。
「魔王の下っ端に言われても……っ!」キーラは拳を地面に叩き付け、顔を赤くする。
「え、こいつ魔王の手下なの?! ヤバいじゃん! あたしらの敵じゃん! ……ま、今日は見逃すけどさ」キャメロンは動かない身体でもがきながら自嘲気味に笑う。
「じゃ、そういう事で~♪」ローズは鼻歌を奏でながら裏路地の暗がりへと消えていった。
「あいつめ……いつの間にかに逃げたと思ったら……くそ……」キーラは身体を震わせ、握った拳から血を滴らせる。
「悔しがっている暇があったら、一番動けそうなあんたがエレン先生を呼んできてよ……あたしもウォルターも動けそうにないからさ……」キャメロンは血生臭い溜息を吐きながら口にした。
「う……私だって2度も腹を貫かれて……って、応急手当を受けて動けるか……わかった、すぐに呼んでくる」キーラはヨロヨロと立ち上がり、腹を押さえながら城内へと重い足取りで向かった。
「キーラさんは一応、騎士団長ですよ? それを顎で……」ウォルターは密かに驚いた。
「こんな時に傭兵も騎士団長もないでしょう?」
早々にククリスを出たローズは、待たせていた馬車に乗り込み、煙草を咥えて燻らせる。グルグル巻きにした眼術使いは乱暴に荷台に乗せ、向かい風に晒されていた。
「……這いつくばって、出すのは口ばかり……アリシアとは大違いね、情けない」と、眼帯を押さえ、鼻から煙を噴く。
懐から書類を取り出し、それに向かって煙を吹きかける。
「西大陸会議は眼中にナシか。もうひとりの闇属性使いについて知る者を尋問せよ、か……乱暴な仕事を押し付けてくれちゃって……」と、今度は似顔絵の書かれた紙を取り出す。
そこには大聖堂の書庫に侵入した青年の顔が描かれていた。
「もうひとりねぇ……確か、魔王には娘と息子がいるんだっけ? こいつの年齢からして……昔の隠し子とか? う~ん、スキャンダルねぇ」と、膝を組んで肩を揺らして笑う。
すると、荷台の眼術使いが目を覚ましたのか、弱々しく唸り始める。
「ん? 起きた? 自決用に仕込まれた奥歯は抜き取ったからね~ で、今夜からは早速、尋問タイムだからね~ アタシは仕事でやるんだから恨まないでよ~」と、荷台を小突き、また煙を吐く。
「……それにしても、ヴァイリーからの特秘指令か……なんかこの闇使いと関係でもあるのかな?」指令書を指で弾き、考え込む様に煙交じりに唸る。
「と、言う事でございまして……パレリアからの申し開きはございますか?」議長はバルカニア、ボルコニアの意見を聞き終わり、大臣の方へ眼鏡を光らせる。
彼らの意見は、『正々堂々の闘争の最中、卑劣にも背後をパレリアが突いた』であった。
パレリア大臣は冷や汗を拭い、椅子を引いて立ち上がる。
「その奇襲に関しまして、こちらが謝罪する道理は一切ありません」
大臣のこの一言に、大会議場の空気が変わる。バルカニア王、ボルコニア王の両者は殺気を滲ませ、大臣を深く見据える。
内心、大臣はこの様な事は言いたくは無かった。今にも王たちの圧に負け、土下座でもしたい気分であった。
しかし、それを隣に座るラスティーが許さなかった。彼は大臣の脚を何度も小突き、自分の用意した書類を読み上げる様に何度も訴えた。
「何故なら、あの奇襲は『西大陸の未来を救うための策の一部』だったからです。バルカニアとボルコニアの闘争も、とある魔王の使いによる罠だったからです」
「なに? 我々が踊らされていたと?!」ボルコニア王は卓を叩きながら立ち上がったが、隣に座るガイゼルに宥められる。
「(ひっ! 勘弁してくれ) 我が情報筋によれば、ボルコニアとバルカニアは戦争に入る前、極秘同盟を結び魔王軍に対抗するつもりだったと、聞き及んでおりましたが……そして、それを突如、破棄し、戦争に突入した……ここまでは正しいですね?」大臣は必死になって冷や汗を我慢し、2人の王に目を向ける。
「……続けて」バルカニア王は額に血管を浮き上がらせてはいたが、いたって冷静に大臣の意見を聞いていた。だがボルコニア同様、殺気立っていた。
「(早く終わってくれ!) その仲違いの原因は、まぁ言及は致しません。しかし、仲違いを誘発させた人物がいます。その者こそ、魔王の使いであった。そして、その者は……元グレイスタン王代理、ブリザルド・ミッドテール。間違いありませんね?」と、グレイスタン王に目を向ける。
シン・ムンバスは重々しくため息を吐き、小さく頷いた。
「間違いありません。あの者はこの西大陸全土を支配する計画を立て、我が国を利用し、それを実行に移そうと企んでいました」
すると、今度はマーナミーナ王が前のめりになり、手を上げて口を開いた。
「そして、その策を継いだ者が、我が国に潜み、その者が戦争を操っていたのだ! その者の名はゴラオン! そやつは魔王軍から大量の武器弾薬をいつの間にか我が国に運び入れ、そして、バルアニア・ボルコニアを潰そうと企んでおったのだ!」ラスティーの用意した台本通りに口にし、得意げに胸を張って見せる。
「で? 混乱に乗じてマーナミーナが大陸を支配しようと企んでいた、と?」バルカニア王は鋭い目つきでマーナミーナ王を睨み付け、鋭く言い放つ。マーナミーナ王の本来の目的はゴラオンと共謀し、この通りであった。
「で、で……その策士の陰謀を暴き、捕え、更には愚かな戦争の歯止めとなる為に我が国は……」マーナミーナ王は鋭く突き刺さる視線に耐えながら瞳を泳がせる。
「愚か?」バルカニア・ボルコニアの両者の殺気がマーナミーナ王に注がれる。
「ぬ、だ、だから……」マーナミーナ王は2人の圧に押され、怯んでしまう。
「パレリア、そしてマーナミーナと共に協力し、広がった戦火を消す策を実行したわけです」変わってグレイスタン王は至って滑らかに口にし、自信満々のオーラを滲ませる。
「そ、その通り!」マーナミーナ王は腕を組みながら首を縦に振る。
「大丈夫かよ、あのオッサン」ラスティーは誰の耳の届かないようにか細い声でボソリと呟き、ため息を鼻から静かに吐いた。
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