61.西大陸統一作戦! 2人目の侵入者編

 ホーリークリップ大聖堂。

 この聖堂は数十年前、ヴェリディクトによって襲撃されており、長い年月をかけて修復作業が行われ、つい2年前にそれが完了していた。

 世界に誇る大聖堂と言うだけあって、内装は厳かであり、重みのある彫刻や煌びやかなステンドグラス、そしてパイプオルガンなどが埃被ることなく置かれていた。これらは全て、一般見学可能な範囲である。

 しかし、この大聖堂の奥にある書物庫には一般人が入る事は固く禁じられていた。

 そこには遥か昔より伝わる書物が厳重に保管されており、これに目を通せる者は、シャルル・ポンドに許可された数少ない者のみであった。

 そんな書物庫には屈強な属性使いが2人、警備に当たっていた。

 いつもは通り過ぎる者がいても、中へ入ろうとする者はいなかった。普段は管理者が書物の確認、必要なら修復の為、週に一度、入室するだけであった。

「ん?」警備のひとりが何かに気付き、眉を顰める。室内から僅かながらに足音が響き、もうひとりが反応する。

「今日は確認の日ではないな?」週に一度の確認日は決められており、管理者はその日しか入室を許可されていなかった。

「侵入者か」2人は両腕に魔力を纏わせ、そっと部屋の扉を開く。

 その先には、グレーのコートを着用し、長髪を後ろ手整えた長身の男が本片手に立っていた。男は警備には目もくれず、本から目を離さず、ただ透き通った足音を立てていた。

「貴様、どうやって入った?!」

「本から手を離し、跪け!」警備たちは利き手に各々の属性を纏わせ、本片手の侵入者に向けた。

 だが、その男が持つ書物は2000年以上前の光と闇の戦争について記された貴重なモノであった。それごと破壊しない様、慎重に狙った。

 侵入者はそれでも書物から目を離さず、警備には目を向けようとせず、彼らに背を向ける。

「貴様ぁ!!」背を向けたのを見計らって、警備のひとりが貫通型炎熱弾を放つ。通常の炎熱弾とは違い、周囲に熱をばら撒かず、対象のみを貫くと同時に傷口を焼く。出血を止めて本を汚さない様に配慮した、この書庫の警備に相応しい技だった。

 その自慢の炎熱弾は侵入者の背から心臓を貫く勢いで飛ぶ。

 侵入者はそれにすら目もくれず、ゆっくりと頁を捲る。それと同時に炎熱弾は侵入者に着弾する直前に火花の様にパチンと弾け、煙も立てずに消滅する。

「な……っ! このぉ!!」警備は己の自慢の技が通用しなかったのか悔しかったのか、殺意を剥きだしにして貫通型炎熱弾を連射する。

 もうひとりの警備も、侵入者はただ者ではないと感じたのか、応援を呼ぼうと『風の伝令』を放つ。

 しかし、その風魔法は書物庫の外へは飛ばず、力なく消えてしまう。

「う……そんな馬鹿な!」

 同時に連射された炎熱弾は先ほどの様に掻き消える。


「静かにしてくれないか」


 侵入者はパタンと書物を閉じ、本棚に戻す。そこでやっと、警備に目を向ける。鋭い闇色の瞳で睨み付ける。まるで騒ぐ子供を叱る図書館員の様な冷たい表情を作り、一歩踏み出す。

「止まれ! 止まれ!」警備は怯えた顔で手を付き出し、侵入者の瞳から目を背けた。

 侵入者は踏み出す脚を見せず、次の瞬間、警備員たちは解体された人形の様に床に散らばった。不思議と血は出ず、切断された断面は綺麗に整っていた。

 侵入者は右腕には果物ナイフの様に頼りない短刀が握られており、それを静かに懐に仕舞う。そして、本棚へ戻り、戻した書物の隣にある『遥か昔の光』という題の本を取り出し、目を落とした。

「光の末裔か……」侵入者である男は無表情で呟き、またコツコツと足音を立てて書庫を歩いた。



「ぐあぁ!!」眼術使いの侵入者に徐々に削られ、消耗するキャメロン。

 彼女は自慢の炎魔法を上手く使えず、相手の眼術に翻弄され、ブレード・フィンガーでズタズタに斬り裂かれていた。

「頑丈でしぶといな……中々急所を抉らせてくれない」と、血で滴る指先を舐める。

 彼女はなるべく相手の目を見ずに戦っていた。故に相手の次の一手を読めず、攻撃を喰らい続けていた。

 しかし、目を見ない事で、眼術に操られる事は無く、お陰で急所をさらすような戦いを避ける事が出来た。

「ふん……しかし、中々現れないな」侵入者は周囲を警戒し、面白くなさそうに鼻息を鳴らす。

「なに?」一番深い傷を押さえ、クラクラする頭を正気に戻そうと自らの頬を叩く。

「ここでの戦いの音は、私の風魔法で完全遮断されている。故に、助けは来ない。だが、この戦いの臭いに誘われて現れる筈だ……あいつは好奇心の塊だからな」

「……あいつ?」

「おっと、これ以上は知らせなくてもいいか。ま、どちらでもいいが」

 眼術使いはそれ以降、口を開くことなく、キャメロンを爪で嬲り続けた。彼女は防ぐことも避ける事も出来ず、徐々に動く事もままならず、ついには倒れる。

 いつもなら炎の翼で空を舞い、鉄をも溶かし貫く炎で秒殺していたが、今回は相性が悪く、戦いは一方的だった。

「さて、トドメを刺すか……」生気を失った顔でボロ雑巾の様に倒れたキャメロンの髪を掴み上げ、首の動脈に指をかける。

 すると、彼女は素早く彼の両腕を掴み、一瞬で消し炭に変える。

「なんだと?」痛みを感じないのか、訝し気な表情で彼女の顔を見る。

「眼術使いの弱点、いや、強者の弱点と言うべきか……トドメのその瞬間だよ!」と、狼狽の瞬間を突き、相手の両足も焼き潰す。「勝った!!」


「成る程……それがお前の最期の手か」


 次の瞬間、キャメロンの目の前から両手両足を失った眼術使いは霧と消え、背後に無傷の眼術使いが現れる。

「なに?」背筋の凍りついたキャメロンは、ゆっくりと殺気の方へと顔を向ける。

「暗示だ。お前の様に何かを企む窮鼠にはよく効く」彼の眼術は誘導だけでなく、暗示と催眠も可能だった。「お前の様な死をものともしない傭兵タイプは、必ず最後の手を用意してある物だからな。さて……」と、言う間に背後に忍び寄っていたキーラを投げ飛ばし、キャメロンへぶつける。

「ぐぁう!!」

「ぎゃ!!」彼女らは地面に倒れ伏し、憎き眼術使いを睨みながら見上げた。

「……どうやら、こちらには興味を示さないようだな……やはり城内の方か? ここでグズグズしている間はないか……」と、フィンガー・ブレードの音を鳴らし、キャメロン達の悔し気な表情を眺める。


「舌なめずりしていると、碌な事にならないって、誰かが言っていたっけな~」


 そんな彼の背後に何者かが現れる。その者は身体に雷魔法をのたくらせ、隻眼を青く輝かせた。

「お前は……!」知った顔を見て驚くキーラ。

 その者は、マーナミーナで捕えたが、いつの間にか姿を消したローズだった。

「あのままフェードアウトするのは悔しかったので、貸しを作りに戻って来てみました♡」



 ところ戻って大会議室。

 ここでは西大陸での大戦の始まりから、ここに至るまでをシャルル・ポンドが口頭で説明し、最後に「間違いないかな?」と、皆に問うて締めた。

 各国の王たちは皆、首を縦に振り、今度は自分達の意見を言う準備をした。

「ラスティー、本当に大丈夫なんだろうな?」代表者の中で唯一身分違いのパレリア大臣が声を震わせる。

「何度も言わせないで下さい。それに、この場で弱味を露わにする様な表情をするのもやめてください」ラスティーは早口で言い、大臣に向かってマジな目線を送る。

「す、すまない……」いつもの強気な態度は何処へやら、彼は周囲の王たちから放たれるオーラに押し潰され、弱り果てていた。

 その点、ラスティーは全く弱味を見せることない態度で大臣の隣に座り続けていた。

「大丈夫です。俺の言った通りにお願いします」

「では、最初にバルカニアからの言い分を聞こうか」シャルルは最初に戦争の口火を切ったバルカニアから聞こうと耳を傾けた。



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