60.西大陸統一作戦! 眼術使い編

「貴様も眼術使いか……なら、逃げるより倒した方が早い」侵入者は煙に紛れながら、ウォルターの懐へ入り込み、鋭いブレード・フィンガーを光らせる。

 ウォルターは相手の殺気のみを頼りに攻撃を読み、また手首を掴む。

だが、侵入者は彼の力の流れを読み、捕まれている筈の手首を捻り、逆にウォルターを投げ飛ばす。

 飛ばされたが、彼は余裕を持って壁に取りつき、蹴って跳び戻る。

 ウォルターは冷静な顔で侵入者を睨み、静かに構える。

「実戦経験が豊富な様だな……」侵入者は楽しそうに頬を緩ませ、ブレード・フィンガーを10本光らせ、構える。

 その間に、鬱陶しい煙を焼き払ったキャメロンは、彼らの様子を伺いながらもキーラの容態を確認した。

「内臓は傷ついてないみたいだから、あと少しで動ける様になるよ。ま、応急処置だから、あとはエレンに頼みな」

「くっ……足手纏い扱いするな!」傷を押さえながらもヨロヨロと立ち上がり、侵入者に向かって構える。

「よしなよ……相手は……」

「強かろうが弱かろうが関係ない! こいつらは……こいつは……? 貴様! ここへ何しに来たんだ!!」今更ながら、当然ながらも間の抜けた質問をするキーラ。

「……さっきも言っただろう。答える気はない。私を見た者は、生かしてはおかん。それだけだ」と、キーラの方を睨む。

 そこを突き、ウォルターが侵入者の懐へ潜り込み、効き手をへし折る勢いで肘と膝で挟み潰す。

 侵入者はあっさりとその攻撃を避け、彼の顔面に何かを吹き付ける。

 ウォルターは焦らずにそれを左手で受け、表情を顰めた。含み針が3本刺さっていた。

「ぐ……ぅ」一瞬で彼の身体に鉛の様な重さが襲い掛かる。膝が一気に落ち、意識が蕩け始める。

 すぐさま、ウォルターは足首に備えたナイフを抜き、太腿に深々と突き刺して抉る。

 すると、彼は目をバッチリと見開き、襲い来る鋭い抜き手を避け、掌底を見舞う。

 侵入者は感心した様な声を漏らしながら距離を取る。

「一瞬で昏倒させる麻痺毒の筈だが……堪えたのはお前が初めてだ」

「いざという時に訓練をした甲斐があった」ウォルターは深く息を吐きながら首を振り、侵入者の冷たい瞳の奥を睨んだ。

「ウォルター! ここは私が!」キーラが一歩進もうとするも、キャメロンがそれを阻む。

「やめておきな」

「なぜだ! 傭兵が邪魔をするな!!」

「やだね! あんたがどうなろうと知った事じゃないけどねぇ! ここであんたが前に出たら、ウォルターもあんたも! そしてあたしもやられるんだよ! それが嫌なら、黙って機を待ちな!」鬼の様な勢いでキャメロンが怒鳴り、キーラの勢いを殺す。

「なっ……」

「良い判断だな。だが、機は訪れんぞ」侵入者は鼻で笑いながらウォルターの間合いに入り込み、襲い掛かる。

 そして、互いの眼術がぶつかり合う。

「あんた……炎使いなんでしょう?! だったら、こんな属性使いでもないヤツ……」キーラは悔し気に歯を剥きだし、キャメロンを激しく睨んだ。

「……経験不足の素人は黙ってな。あたし程度の使い手は、眼術に踊らされるだけ……」

「なに?」

「あたしは北の戦いで……眼術使いとやり合って、散々踊らされた事があるの……気付いた時には……それに、あんたみたいな剣士も眼術使いの前では無力ね……あいつらと互角に戦うには、同じ眼術を身に付けるしか……」キャメロンは悔し気に口にしながら、眼前の戦いに集中した。



 その頃、城内の大会議室には各国の王たちが集まり始めていた。

 バルカニア王、マルケン・バルカンヘッド。その共に相談役の騎士、ジャン・クロウマン。

 ボルコニア王、ブラウン・ボルコニア。共は炎の賢者、ガイゼル・ボルコン。

 マーナミーナ王、オウラン・ブリーブス2世。共は大臣、ゲイリー・ヤングスタ。

 グレイスタン王、シン・ムンバス。共は騎士、マシュー・ウィンガズ。

そしてパレリアは王代理として、大臣であるウィリアム・フォールフィールド。共は勿論、ラスティー・シャークアイズ。

各王が各々の円卓に用意された席に付き、それぞれが相談役に選んだ者と小声で相談を始める。

「だ、大丈夫なのだな? ラスティーよ」パレリア大臣は声を震わせながら問う。彼だけが国代表の代理であり、発言力がこの中で一番小さかった。

「平常心を保ってください。大丈夫です」と、ラスティーは久々に再開するグレイスタン王に目くばせをする。

 シンは彼に気付き、頬を緩めて会釈をし、小さく頷いて見せた。

 次に、ラスティーはマーナミーナ王の座る席へ目を向ける。

オウランは彼の視線に気づくと身震いし、用意してある資料に目を通しながら大臣とワザとらしく会話を始める。彼の額には僅かに冷や汗が浮き上がっていた。

「ご心配なく」ラスティーは余裕に満ちた笑みで大臣の肩を叩き、用意した資料を手渡す。

 しばらくして、このホーレスト城の主、バーロン・ポンドが現れ、円卓の奥の席に座る。その隣には光の議長、シャルル・ポンドが座り、咳ばらいをする。それを合図に各国代表たちは相談役との会話をやめ、互いにけん制し合う様な顔で閉口する。

「では、これより第127回、カウボーブ大陸代表会議を執り行います」進行役としてシャルル・ポンドが口を開き、事の始まりから説明を始める


 

「手間取っている様子だな」城へ潜入したもうひとりの侵入者が小さく呟きながら、城内を堂々と歩く。この男も眼術使いであり、見張りの視線は眼術と暗示によって上手く躱していた。

 この男は何が目的なのか、書庫にも資料室へも足は運ばず、城内の気配を探る様に1階から順にゆっくりと歩いていた。

「……ついでに会議も探っていくか」大会議室付近で立ち止まり、物陰に隠れて聞き耳を立てはじめる。

 すると、何者かの気配を察知し、袖に仕込んだナイフを取り出す。


「そこまでだ」


 彼の背後にはボウガンを構えたディメンズが立っていた。煙草の代わりに爪楊枝を咥え、口元をムズムズさせる。

「ククリスにも、出来る護衛がいるんだな」手を上げ、ゆっくりと振り向く侵入者。

「俺はここの者じゃない。てぇか、お前凄いな。ここまで気付かれずに侵入するなんてな……何者だ?」

「大人しく答えるとでも?」と、言いながら近くを通りかかる見張りを眼術で欺き、素通りさせる。

「熟練の眼術使いか……お前みたいなのは大体……『世界の影』の者か?」

 ディメンズの言う『世界の影』とは各国にも魔王軍にも属さない『第3の組織』と呼ばれる者達であった。この組織の存在はごく一部しか知らなかった。

「……流石、ナイアが仲間に選んだ男だな。ディメンズ・ハーブマン」

「俺の事を知っているのか」

「我が組織最大の武器は『情報』だからな。なんでも知っているさ」

「で、会議を覗き見しにきたわけか……闇の組織とか呼ばれる割には、地道な活動をしているな」

「ふん……こんな会議など、覗き見せずとも内容など全て、手の内だ。我々の目的は別にある。そして、これはお前らの手に余るだろう」

「なんだと?」

「では、失礼する……お前には利用価値がある故、まだ生かしておいてやろう」と、侵入者はいつの間にかディメンズの前から姿を消していた。

「……眼術と暗示の合わせ技は反則だぞ……っても、俺には通じないがな。あとは頼んだぞ、ジーン」と、彼は余裕でボウガンを仕舞い、ため息を吐いた。

 すると、背後から見張りの者が彼の肩を叩いた。

「いま、会議が始まったところだ。傍聴席に行くか、他所へ行け」と、鋭い眼光で睨み付ける。

「へいへい。あ、ここら辺で、煙草吸える場所はあるかな?」

「ない!!」

「へいへい……」ディメンズは肩を落としながら、待合室へと戻った。



「ぐぁっ!!」徐々に削れていくウォルター。彼は麻痺毒に侵されながらも懸命に戦っていた。眼前の侵入者は己よりも断然上手ではあったが、なんとか喰らいついていた。

「そろそろ終わらせるか……」侵入者は指に付いた肉片を散らし、余裕の足取りでウォルターに近づく。

「このままではやられるぞ! くっ! もう我慢できない!!」キャメロンに抑えられていたキーラは、力ずくで振りほどき、剣を構える。

「あ! バカ!!」

「覚悟しろ!!」キーラは目にも止まらぬ速さで侵入者の間合いに入り込み、剣を振り抜いた。

 だが、彼女の攻撃は虚しく空を斬っていた。

「直線的すぎる」侵入者は呆れたため息交じりに彼女の剣を流れる様に奪い、回転しながらキーラの腹部を貫き、蹴り飛ばす。

「ぐあぁ!!」血を撒き散らしながら転がり、咽び呻く。

「ばか! もう止血剤が無いのに!」と、キャメロンはあえて彼女を当身で気絶させ、最後の回復剤を使う。傷口を火で焼き、無理やり止血する。

「愚かな仲間たちだな。さて、そろそろ終わらせるか」と、侵入者は一気に片付けるつもりか、消耗したウォルターを蹴ってバランスを崩させ、そのまま畳みかける。

「くっ……」ズタズタになった両腕でギリギリ攻撃を受け止めるが、そのまま骨まで削られ、へし折られ、仕舞には地面に叩き伏せられる。「がはっ!!」

「くそっ!!」このまま放ってはおけず、キャメロンは彼らの間に割って入り、炎の壁を作り出す。「ウォルター! キーラと休んでな!」

「まったく……しぶとい連中だ……」侵入者は獲物をいたぶるような目でキャメロンを睨み、ニタニタと笑った。

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