63.西大陸統一作戦! 同盟編

「つまり、我々は魔王の使いとやらに、まんまと踊らされていた、というわけだな?」バルカニア王、マルケン・バルカンヘッドは己の頭の中のパズルを組み立てながら口にする。彼は彼で何か裏を知っているかの様に冷静であり、時折、パレリア大臣の隣に座るラスティーを見た。

 ラスティーはその視線に気付いており、内心不気味に思っていた。

 そして、その不気味な感触から嫌な予感がし、背中に嫌な汗を掻いていた。

「何という事だ……ガイゼルよ、確かにこの戦いに義はなかったな」ボルコニア王、ブラウン・ボルコニアは純粋に怒り、反省する様にガイゼルに向かって眉を下げた。

 この間に話を持っていく者がこの会議の終盤を握る事が出来るのは明白であった。

 しかし、この会議場の中で唯一の大臣であるウィリアム・フォールフィールドは尻ごみし、唾と一緒に言葉を飲み込んだ。

 ラスティーは何度も合図をする様に彼の尻を小突き回したが、大臣は小刻みに太腿を震わせ、奥歯をこれでもかと食いしばっていた。

「頼みますよ……ここまではいい流れなんですから」ラスティーは蚊の鳴くような声を出し、大臣の首筋に向かって鋭い殺気を向けた。

「し、ししししししかし……」周囲の王たちの熱いオーラに気圧され、すっかり参ってしまっていた。恐らく、会議が終わったと同時に気絶する程、消耗していた。

 そこへ喰らいつき、場を掌握しようとマーナミーナ王、オウラン・ブリーブス2世が前のめりになり目を爛々と輝かせる。

 しかし、それを阻む様にグレイスタン王、シン・ムンバスが先に場を纏めようと手を叩く。

「この戦争を治める策を提案したのは、ここにおられるパレリア大臣です。彼はブリザルドの策を察知し、私やマーナミーナ王に呼びかけ、そしてあえて卑怯者の汚名を被ったのです。そのお陰で一旦は止めた戦争の矛を、これからどうすればいいのか……貴方の口からお願いしたい」シンは大臣へ助け舟を寄越し、微笑を蓄えながら小さく頷く。

 そこへラスティーが大臣の手元に温めの茶を一杯手渡す。エレン特製の精神安定効果のあるヒールウォーターで淹れた茶であった。

「これを飲み、深呼吸をしてから、ゆっくりと話して下さい」ラスティーが耳元で囁く。

 大臣はそれを言われるがまま飲み下し、軽く喉を鳴らした。



 その頃、キャメロン達は城の医務室へと運び込まれ、エレンの手によって治療を受けていた。

「で? 侵入者とはどこにいるのだ? 我々の察知できない侵入者などこの世にはいない! 正直に言いたまえ、貴様らが勝手に喧嘩して怪我したのだろう?」城の衛兵は呆れた様にため息交じりに口にし、馬鹿にする様に鼻で笑う。

「何度も言ってるでしょうが! 裏手に黒づくめの男がさぁ! んで、そいつは」

「どんな目的でこの城に侵入したんだ? 侵入したと言う報告も無ければ、今の所、被害も出ていない。我が城の資料室や会議場、執務室などは風のオーラで厳重にガードされている。もしお前が言うようにいるのだったら、我々が気付かないわけがない!」衛兵は自信満々に腕を組み、踵を返して医務室から立ち去った。

「ったく……平和ボケした連中はこれだから……」ヒールウォーターで包まれたキャメロンは苦そうな表情で口にし、ベッドに体重を預ける。

「それにしても、その侵入者は一体、何が目的でこの城に侵入したのでしょう? 被害も痕跡もないのでしょう?」エレンは首を傾げながらウォルターの折れた骨を接ぎ、回復魔法を注ぎ込む。


「俺も城内に侵入したヤツを見かけたぞ」


 ディメンズはしれっと口にし、呼んでいた雑誌に目を戻した。

「…………はぁ?! じゃあなんでさっき言わなかったのよ!」ベッドから飛び起き、火を吐く勢いで怒鳴るキャメロン。

「ここの連中の自信過剰さ、頭の固さ、耳の都合の良さは、よく知っているからな。そいつらの目的は、情報でも会議の妨害でもなさそうだったな」と、雑誌に赤ペンを付けるディメンズ。

「では、どんな目的が?」エレンが問うと、ディメンズは肩を上げ下げして見せる。

「城内に侵入した方は、ジーンが後を追った。運が良ければ目的を聞き出して来る筈だ。ま、可能性は低いがな」

「……あいつ、なんだか何者かを誘き出そうとしていたんだよね……まさか、この城下町に化け物でもいるんじゃないよね?」キャメロンは冗談の様に口にし、ため息を吐く。

「……今の所、様子を見よう。下手に動くと、変な容疑をかけられて捕まるぞ」

 そんなやり取りをしているベッドの隣で、治療を終えたキーラは大人しくベッドに横になっていた。

「大丈夫か?」彼女の機嫌を窺うようにレイが声を掛ける。

「……情けない……侵入者に手も足も出ずに……2度もあの傭兵に助けられた」歯痒そうな表情でキャメロンの方を向き、目の色を暗くさせる。

「……互いに、頑張ろう。俺たちはまだまだ、これからだ」レイはラスティーに言われた事をそのまま彼女に言った。

「私は、貴方の様に器用には切り替えられない……」と、彼女は彼から顔を背け、むくれた顔で壁を睨み続けた。

「……俺だってそこまで器用じゃないよ」

「何話してるの、お2人さん~」キャメロンがワザとらしく声をかける。

「うるさい!」レイは鋭い目つきで彼女を睨み、鼻息をフンと鳴らした。



「光は闇により封印され、この世界から闇の使い手は消滅した……そして、光もまた力を弱め、火・水・風・大地による4属性によって世界に調和がもたらされた……」ホーリークリップ大聖堂の書庫にて、青年は未だに書物を読み続けては唸っていた。

「闇が消えた……か」と、左腕に魔力を込める。すると、暗黒色の炎が揺らめき、微かに地獄の様な音を立てる。

「なら、私は何者だ? どこで、誰から生まれた?」書物を本棚へ戻し、深く息を吐く。

 するとそこへ、黒ずくめの男が現れる。キャメロンと遭遇した男と同じ組織に属する侵入者であった。ジーンが追う方の侵入者とは別の、3人目の男である。

「やっと見つけました……真なる闇の王よ……」男は青年の前で跪き、首を垂れた。

「闇の王? 魔王の事か?」

「あの魔王は偽りの王……我ら、『世界の影』の長となるべきは、貴方……」

「世界の影……古の昔、光の一族と戦い、そして『闇』を取り上げられた一族の末裔……闇を宿す者は属性に嫌われ、属性使いにはなれないと読んだが……」青年は首を傾げる。

「王よ……貴方の名は?」

「……ヴァーク」青年は静かに答えた。

「ヴァーク様。是非、我と共に来ていただきたい! そして、闇の一族の再興w」と、言う間に男の顔が半分消滅する。


「悪いが、そそられない」


 ヴァークと名乗る青年は、斬り裂いた男の死体を衛兵と共に床に転がしたまま、それを跨ぎ、書庫から出る。

「光の一族……ポンド……この聖地の王、バーロン……」彼は眠たげな目の奥を光らせ、口角を僅かに上げた。



「で、あるからして……我々は勿論、ガムガン砦をバルカニア側へ……」パレリア大臣はここまで滑らかに会議を進め、砦の返還について話していた。

 これが上手く行けば、戦争は終結し、どの国もあと腐れなく矛を収め、魔王討伐に向けての同盟を結ぶ方向へと進むことができた。

 そこで突然、バルカニアが口を開く。

「待ちたまえ。ガムガン砦は、このままパレリアに渡しておこうと思う。元々、あの砦は数年前に我々が奪った物だ。パレリアの兵たちは、あの地方を奪い返したくて堪らなかったのだろう? ここでまた返還すると言えば、パレリア内で不和が生まれ、内乱が起きるやもしれんな。それを見たら、我々も気持ちの良いものではないし、その内乱から同盟の綻びになるやもしれん」と、バルカニア王はすらすらと口にする。

 ここでラスティーの計算違いが起こる。

 なんと、同盟と言う言葉をバルカニアが先に口にしたのであった。彼のシナリオでは、パレリア大臣が口にする筈であった。

「同盟……そう、もはや西大陸内で戦争をやっている場合ではない。どうだろう? ここは、魔王討伐し、世界に調和を取り戻すまで、西大陸全土が一致団結する、というのは……?」バルカニア王は得意げに口ひげを撫でながら口にし、胸を張る。

「もっともである。今は、貴重な血を流している場合ではない。成すべきは、魔王の野望を打ち砕き、世界を安定させることにある」議長のシャルル・ポンドが頷く。

「如何かな? これまでの事は水に流し、同盟を……魔王討伐のその日まで、西大陸を……ククリスを元に統一する、というのは」バルカニア王は立ち上がり、皆に問う。

 王たちは皆、力強く頷き、この意見に賛同した。

 そんな中、パレリア大臣とラスティーは少々置いてけぼりにされたようにポカンとした表情を作っていたが、我に返り、強く頷いた。

「まぁ、これでいいか。いいんだけど、さ……」ラスティーはバルカニア王の立ち回りに疑問を覚え、頭を悩ませた。

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